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声の複製者  作者: 鵺@n-nue


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第24話

【毎日12時20分更新予定です】

静まり返った王子の私室。




机の上には、侍女によって回収された十数個の“声の記憶箱”がずらりと並んでいた。


それぞれが何気ない小さな木箱――だが、今はどれも、不穏な秘密を抱えた静かな証人だ。





「あとは、私ひとりでやるわ」




クジとレオニスに短くそう告げると、ユリィナはひとつずつ浅い木の盆に乗せ、自室へと向かった。


扉を閉め、鍵をかけ、深く息を吸う。




「さあ……聞かせて」




ひとつ、またひとつ――箱を耳元に近づけるたび、囁くような声が脳内に染み込んでくる。




それは、王宮に巣くう欲望。


裏切りと買収、計略と嘘、忠誠と恐怖の間で揺れる者たちの本音だった。




その中には、聞きたくもない下劣な中傷や、他人を陥れようとするささやきもあった。


だが、ユリィナは顔色ひとつ変えずに聞き取る。


真実を知る者の責任として、すべてを背負う覚悟があった。




――そして、ついに。




「……あった」




手にした小箱から流れ出たのは、低く抑えた男の声。




「王の病は、私の魔術によって順調に進行している。あとはこのまま“自然死”として処理すればよい……」




ラージだ――その声音は確信に満ち、醜悪な勝利の余韻すら感じさせた。




「王妃を先に始末できたのは大きかった。あの女は鋭かったからな……私の周りをうろつき、気配を探っていた。大人しくしていれば、死なずに済んだものを」




別の声が続く。


おそらく、司教――王権に大きな影響を持つ存在だ。




「……王妃は病死と聞いているぞ」




「ふふ、無知は罪だ、司教殿。あれは魔術に抗い続けた結果だ。最後は“浸透毒”を使った――薬草に偽装した特別な毒だ。身体を内側から蝕む。王も、誰も、気づきはしなかったさ」




ラージの笑い声が、箱の中に響いた。


ゾッとするほど冷たく、確信に満ちた声――





「……っ」


手が震える。視界が滲む。


殺意を当たり前のように語るその口調が、ユリィナの怒りに火をつける。





蘇る記憶――


“ユリ”だった頃、愛していた夫・誠に、毎日知らずに飲まされた薬。




気づけなかった……そして、最も守りたかった命を失った。




《人の命を、軽く扱う者を……私は、絶対に許さない》






「この箱の声は……決定的な証拠になるわ」


ユリィナは呟いた。





だがすぐに、サミュエルの声が脳裏に浮かぶ。




《焦るな――勝つには頭を使わねばならん。感情で動くな。お前はもう“ユリ”ではない。今は“ユリィナ”なのだから》





「……うん、わかってる。冷静に、丁寧に」


自分に言い聞かせるように、深呼吸をする。




「まずは、国王を目覚めさせなきゃ。このままじゃ……命が危ない」




ユリィナは決意と共に立ち上がり、木箱の蓋を丁寧に閉じた。




そして、レオニスとクジのもとへと駆け出した――





■■





王子の私室では、ユリィナ、レオニス、そしてクジの三人が、深刻な面持ちで机を囲んでいる。




次なる目的は、国王にかけられた魔術を解くこと――だが、そこには大きな壁が立ちはだかっていた。




「……問題は、ラージが国王にかけた魔術の正体ね」




ユリィナが静かに言葉を落とす。




3人ともその分野は手探り状態。


ラージが使う魔術の詳細は、誰ひとりとして把握していなかった。





「サミュエルがいてくれたら……」




ぽつりと漏れたユリィナの弱音に、クジがすぐさま反応する。




「なら、秘蔵書庫を当たってみるさ。古い文献に何か手がかりが残ってるかもしれねぇ」




そのとき、レオニスがふと呟いた。




「前に僕が見てた悪夢……あれも、ラージの魔術だったよ」




ユリィナははっとして、レオニスに目を向けた。


彼女の脳裏に、ラージと初めて対峙したときの、あの不気味な声がよみがえる。




“おやおや…どうやら、私の刻んだ恐怖はまだ根を残しているようだな……”




背筋を撫でるようなその言葉が、再び現実を侵す。





レオニスは過去の悪夢に怯むことなく、静かに続けた。




「ユリィナが、毎晩“母上”の声で僕に語りかけてくれて……それ以来、夢を見なくなったんだ。


だったら、同じ方法で――父上の魔術にも、何か作用するかもしれない!」




その声には、母の声を求めていた頃の彼とは違い、力強さがあった。





「……レオニス、お前、やるじゃねぇか!」




クジが腕を組み、満足げにうなずく。




「今は、とにかくできることを全部やる。それしか道はねぇ!――それぞれ動くぞ!」




三人は顔を見合わせると、ほぼ同時に立ち上がった。

カクヨムにて先行公開中です。

https://kakuyomu.jp/works/16818622176804863790

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