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声の複製者  作者: 鵺@n-nue


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第18話

その頃――


サミュエルは、アジトの地下で数人の敵と対峙していた。




狭い通路を塞ぐように立ちふさがる複数の敵。


だがサミュエルは一歩も退かず、冷静に周囲の状況を見極めていた。




「ここは通さぬ!」




鋭く放たれた声と同時に、彼は詠唱を繰り返す。


足元に浮かび上がる鮮やかな魔法陣。


次の瞬間、轟音と共に衝撃波が走り、敵たちを一気に吹き飛ばした。




次々と現れる敵に、容赦なく応戦するサミュエル。


放たれる魔術はまるで舞うように華麗で、しかし一切の無駄がなかった。




回避、攻撃。


その一つ一つが正確無比で、流れるように敵を制していく。




「――ここで終わらせる!」




彼の声が響いた刹那、闇を切り裂くように放たれた魔力の刃が、敵を次々と斬り伏せていく。




やがて、最後の敵が崩れ落ちた。





「……この程度で息が上がるとは、俺もまだまだか。もっと実践を積む必要があるな」




サミュエルは荒い呼吸を整えながら、肩で笑った。


そして、すぐに体勢を立て直すと、迷いなく彼女たちのもとへと駆け出した。





■■





「ユリィナ、大丈夫か!レオニスは――!」




廃小屋に駆け込んできたサミュエルに、ユリィナはほっとした表情を見せる。


レオニスもわずかに顔を上げ、無事を知らせるように微笑む。




二人の無事を確認したサミュエルは、ようやく張っていた肩の力を抜いた。


だが次の瞬間、鋭い視線で周囲を見渡し、言い放つ。




「ここは長く留まるには危険だ。すぐに移動するぞ」




その声には、迷いも躊躇もなかった。


彼の中ですでに、次に取るべき行動が定まっていたのだ。





三人は急いで小屋から飛び出した――その瞬間。




闇を裂くように、冷たく低い声が響いた。





「逃がさぬぞ、王子殿――」




その声に、空気が凍る。


闇の中からゆらりと姿を現したのは、一人の男。




王家の側近魔術師――ラージ。


今や病に伏す国王に代わって権力を握る、冷酷無比な支配者だった。




全身を包む黒衣が風もないのに揺れ、彼の目には冷徹な光が宿り、全身から強大な魔力が放たれている。





レオニスの表情が一変し、顔が強張る。




「……あ、あの声……」




レオニスが震える声でつぶやく。




「……いつも……夢で聞いた……あの声……」





ラージは不気味に笑いながら、ゆっくりとレオニスへ歩み寄る。




「おやおや…どうやら、私の刻んだ恐怖はまだ根を残しているようだな……」




彼は呪文を唱え始め、レオニスの意識に侵入しようとする。





だが――その前に、サミュエルが立ちはだかった。




「レオニスには、一指も触れさせん」




鋭い声とともに、彼は詠唱を走らせる。


地面に次々と魔法陣が浮かび上がり、煌めく防壁が展開されていく。





力の差は歴然だった。


サミュエルが着実にラージを追い詰めていく。


光と闇が激しくぶつかり合い、風が逆巻き、空気が裂ける





その最中――




「う……あぁあぁっ!」




レオニスが突然、頭を抱えてその場に崩れ落ちた。





「レオニス!!」




ユリィナの悲鳴が空間に響き渡る。


その声に、サミュエルの意識がほんの一瞬、ふたりへと向いた。




――その隙を、ラージは見逃さなかった。




詠唱と同時に放たれた呪詛の矢が、鋭くサミュエルの胸を穿つ。




「ぐ……っ!」




膝をつき、肩を震わせるサミュエル。


血の気が引き、唇がかすかに歪む。




それでも――




「……っ、まだ……終わらん……!」




彼は、よろめきながら立ち上がり、渾身の力で一点に集中させる。




「絶対に、レオニスを……ユリィナを……守り抜く!」




一喝とともに、ユリィナとレオニスを包み込むように強力な結界が張り巡らされる。


その透明な光壁は、鋼鉄のように堅牢で、ラージの攻撃をすべて跳ね返した。




「チッ……!」




苛立ちに顔を歪めたラージが、まるで結界を砕き割らんと詰め寄る。


だが、サミュエルはすでに――


次の一手を放つ準備を終えていた。




意識がおぼろになり始める中、彼は最後の魔力をかき集め、呪文を紡ぐ。


その声はかすれていたが、確かだった。




「――ラージ。これで……終わりだ」




その言葉とともに、光の槍が閃光となって放たれる。


まるで意志を持つかのように一直線に、ラージの腹部を貫いた。




「ぐっ……!」




呻き声とともに、ラージの身体が大きくのけ反る。


腹から深々と裂けた傷が走り、黒衣が鮮やかな紅に染まっていく。




だが、それでも――奴は倒れなかった。


血を滴らせながらも、狂気じみた笑みを浮かべ、なおも立ち続ける。




「……やはり、厄介な男だ……サミュエル」




その低い声を残し、彼は闇の中へと溶けるように姿を消した。





■■





結界の中――


ユリィナはレオニスを腕に抱えたまま、倒れ伏したサミュエルのもとへ駆け寄った。




「サミュエル……!」




その名を呼ぶ声は、震えていた。


レオニスもまた、傷ついた彼の姿を見つめ、言葉を失う。




二人はそっと膝をつき、サミュエルの体を静かに抱き起こした。




サミュエルは薄く笑みを浮かべ、かすれた声で言う。




「……レオニスは、頼んだ……」





「サミュエル! だめよ……お願い、行かないで……! 約束したじゃない! お父さんの声を聞かせてくれるって……私の作るパン……楽しみだって……ねぇ、お願い……」




ユリィナの声は震え、滲む視界から大粒の涙がこぼれ落ちた。


サミュエルは残されたわずかな力を振り絞り、そっと指先を伸ばす。


そして――その涙を、やさしく拭った。





「泣くな……感情で動くなと……言ったはずだ」




そして、静かに目を閉じる。


かすかに微笑みながら、最後の言葉を残す。





「……俺は……負けたことが……ない……一度も……」




その瞬間、彼の身体が淡い光に包まれていく。


輪郭がふわりと滲み、まるで空気に溶けるように、静かにその姿を失っていった。





「行かないで!!!サミュエル――ッ!!」




ユリィナは、震える手で彼を繋ぎとめようとする。


だが、その手に触れるよりも早く、彼は穏やかな微笑みを浮かべたまま――




静かに、静かに、光の中へと還っていった。




ユリィナの叫びが、夜の静寂を裂いて響いた。

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