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3/3

⒉これまで(2)

 1回目は訳も分からぬまま、この後馬車に乗せられ、屋敷に連れていかれ風呂に入れられ、襟付きシャツとベストそれにサスペンダー付きのズボンに着せ替えられ、当主の部屋へと連れられた。


 その当時は分かっていなかったが、屋敷の当主、すなわち、引き取り手であったのは公爵家のフィリップ・デランドであった。

お忍びで町に出た時に一目惚れしたのが僕の産みの母で、その彼女の忘れ形見を何年も探し、ようやく見つけたのが僕らしい。


 屋敷で見た自らを父親だと言ったフィリップは僕に亡き母の面影を見たらしく、涙を流していたが、自らの家である孤児院から離された僕の方が泣きたかった事をよく覚えている。


 その後名前と年を聞かれ、

「シルバー、8。」とそっけなく答えたにも関わらず、

フィリップはにこやかに

「うちの娘は10歳なんだ。仲良くしてやっておくれ。」

と言い、背中の後ろにいた女の子の背を押した。


 白銀のストレートの肩下でスパッと切られた絹布のような髪、透き通るような白い肌、夜明けの空のような薄紫のアーモンド型の瞳、それを際立たせるチュールの小花をあしらったドレス。


 衝撃的な出会いだった。物語に出てくるお姫様という単語がこの子の為にあるんだと本気で思った。そんな彼女は僕の方を向くと指に髪を絡めて、


「アリッサムよ、姉様と呼んで!」と言った。


 その後は自室と紹介された部屋で眠った。今までの板のような布団とは違う、クリスマスにしか食べれないふわふわの白パンみたいで、慣れなかったが、すぐに眠れた。


 次の日から、アリッサムが毎日部屋にやってきて、いろんなことを教えてくれた。

庭園の花の種類だとか、屋敷の自分だけの秘密基地まで。


 「義姉様はどうして貴族でもない俺にここまでしてくれるわけ?」

 「家族だからだわ。」


 もう何度目か分からない同じ会話を繰り返す。

生まれてからぬくぬくとした温室で暮らしていたオジョウサマが言う家族と僕の知るものは違うように思っていた。


 ずっとそう思っていると思っていたけれど、自分を慕ってくれるのに悪い気はせず、一生懸命な所に気づけば絆されていて、心から姉様と呼べるようになった。


 2ヶ月も経つと、シルバーは始めからずっといたものかのような扱いになり、シルバー自身も自分の家だと思えるようになった。


 それからデランド家の貴族の子供としての教育を施された。美しく見える本の捲り方からの始まり、貴族らしい言葉遣い、テーブルマナー、乗馬、経営学まで。

 孤児院に迎えに来たダンディな人は執事長のロベールで僕の教育係を務めた。

 いつも笑みを絶やさない。そう、どんな時もだ。


--間違えて一人称を「俺」で話した時が今までで一番怖かった。


 基本的に分からないことには怒らないが、気の遣い用でなんとかなることの時は、いつもより笑みを深め遠回しに言ってくる。

「お元気で結構な限りです。」

はじめの頃は、この様に言われたら褒められていると勘違いしていたが、教養を身につけることでだんだんとそうではないことが理解できるようになってきた。

 ロベールも平民から執事長まで実力登り詰めたので思うところがあるらしく、全力で教えてくれる。


 逃げた時にはすぐに見つけられ、その日の授業は通常通りに行われ、次の日に昨日の授業の内容を全て口頭で分かるように答えられるまで部屋から出してくれない。これなら普通に授業を受けるべきだ。


 そんなロベールの猛特訓を受けはじめて10年経った。


 立派な跡継ぎと呼ばれるようになったとき、姉様はこの国の第一王子に遅めの嫁入りにいった。

結婚式の後少し経ってから、姉様は体調を崩したらしく、連絡が取れなくなった。


 何度送っても手紙が届かない。


 もし姉様が返事を書けないぐらいひどい状態ならそれこそ、他のメイドが返事を書くはずだ。

流石におかしいと思い、1週間前に登城希望の手紙を出したが、こちらも全く音沙汰がない。王家に継ぐ権力の公爵家にこの対応とは信じられない。


 とうとう気になり我慢できなくなり、午後に馬を走らせて行くことにした。

 

背中を流れる冷や汗に気づかないふりをして。


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