下手を極めれば、それはオリジナル。
すみません。
ちょっと長いです
人間時間で2時間は経っただろうか。
格納庫で新しく登録された機体のコックピットで、前機体で使っていたノウハウデータの環境構築作業を行っていると、不意に目の前にメッセージパネルがポップアップしてきた。
どうやらアイツがアプリを立ち上げたようだ。
『おねぇちゃ~ん!ログインアナウンスがきたよ~!』
『ええ!こっちでも確認したわ!今降りる!』
下で作業していたKayaに返事をしてコックピットから出る。
キャットウォークをつたって下まで降りた後、ふと今まで作業していた新しい機体を見上げた。
『どうしたの?』
『ん?いや、ポイントが高すぎるのも問題だな~って。』
『あ~。そうだね~。より”実物”に近づいている分、ごまかしが効かないもんね。』
『ええ。それに、よくわからないアタッチメントがついているのが不思議だわ。』
『やっぱり気になるよね。なんか増設するのかな?』
『ま、その辺についてもアイツに聞いてみましょ。』
疾風もいるだろうから、アイツに聞くより疾風に聞いた方が早いかもしれない。
そんなことを考えていると、アタシとKayaの前に大きなパネルが表示され、アイツと予想通り疾風の顔が映し出された。
「あ、久しぶり。ログインできなくてごめん。」
『はいはい。で、テストはどうだったの?」
機体ポイントの説明も重要だが、アタシたちが手伝ったテスト結果も気になる。
「何とか全教科赤点回避することができた。本当にありがとう。」
『そう。よかったわね。』
赤点回避という事はとりあえず40点以上はとれたらしい。
まぁ、これは後でテストの問題と解答用紙をカメラに映してもらって、次回のテスト勉強対策の役に立てよう。
『で、登録された機体について聞きたいんだけど?』
「えっと~それについては、俺もなんでそうなったか分からないんだよね。」
『まさか別な人に作ってもらったんじゃないでしょうね?』
アイツの後ろに控えている人物に視線を送り、ズルをしたんじゃないかと詰問する。
「あ~。それについては、俺から説明させてもらっていいか?」
アイツに説明を求めると、視線を受けていた人物が声を上げた。
『・・・わかりました。』
「よかった。それじゃこの機体を作った過程なんだけど・・・・」
その後、疾風から受けた説明に、開いた口がふさがらなかった。
まず、外装については、合わせ目を消すために、パテや軟化剤を使って接着後、ヤスリで余分な箇所を削ったのだが、削りすぎてはパテを盛り、パテがうまく繋がらないところはプラ版を張ったりしたそうだ。
パテやプラ版で補修。ヤスリで削る。削りすぎた部分を、またパテやプラ版で補修する。
というのを繰り返したらしい。
そのため、元は角張った装甲だったのに、全く違う流線形のフォルムになった。
というか、なってしまったらしい。
そして、ある程度慣れてきたら内部のフレームに取り掛かったのだが、こちらはほとんど接着作業を行っていなかったため、外装程に悲惨にはならなかったらしい。
その結果、スターターキットとの類似率が内部フレーム5割、外装甲2割と、かなり低く、別物の機体として認識されたようである。
さらに、アタシとKayaが指摘した用途不明のアタッチメントの多さがポイントの追加につながったそうだ。
アイツの機体作成スキルが低く、接着剤でくっ付け損ねた部分が稼働場所として残っており、それが複数個所だったため、意図的に残したものと認識されたらしい。
場所も肩、腕、足、胸部と満遍なく線対称的に配置され、他のユーザー達がアタッチメントを作成する場所に作られていた。
そのことから、[加工し忘れた場所]ではなく、[意図的に複数のアタッチメントポイントを作成した]と認識されたため、作成ポイントが高くなったのではないか?というものらしい。
だから、同じものを作ろうと思ってもできないし、今回の機体に追加で改修をしたくても、下手にいじれない状態になっているのだそうだ。
そのため、アップグレードをしたいなら、アタッチメントを使った外因的強化をするしかないらしい。
『なんていうか・・・』
『お兄ちゃんらしいね~』
「作り方を教えるつもりでいたけど、ここまで不器用だと、ある意味天才だよな。」
皆の視線がアイツに集まると、目線をそらし、”機体はどこに保管しとこうかなぁ”と言いながら画面から消えた。
『状況は分かりました。で、貴方が説明をかって出たという事は、話はそれだけではないんですよね?』
「話が早くて助かる。俺も素体だけで600オーバーの機体が出来上がるとは思っていなかったんだ。で、このまま一般バトルに出るとなると、かなり注目を集めることになると思う。だから、しばらくは俺とだけバトルするようにしたい。」
確かに、600オーバーなんてトップ層が作成する機体だ。そのうえ、この機体には追加で色々なハードの着脱ができるとなると、レンタル権を作成しろとか周りからうるさく言われそうではある。
疾風の提案には思う所があるが、悪い話ではない。
『こちらのメリットは分かりました。ですが、そちらのメリットは?あなたはランカーでもある。そんな人と戦闘経験を積めるのはこちらにとってデータ収集の面でもメリットが大きいです。一方的に利益を享受するのは、後々の意見交換に影を落とすことになると思いますが?』
「ほんとしっかりしたAIだよな。ソウなんて二つ返事でOK出したってのに。」
あのバカ。もっと気を付ける様に言わないと。
「ん~。一番はソウにこのゲームをやめてもらいたくない。この機体作成が話題になれば、チートだなんだと騒がれ、最悪の場合、運営の調整が入るかもしれない。そうなると、ソウのプレイスキルではまともにゲームできるとは思えない。」
『それは・・・なるほど、その点は考えていませんでした。』
「これは姉AIちゃんも気づいたと思うけど、こんな機体を下位ランクのユーザーが持っていたとなれば、レンタルしろって周りからの圧力が半端ない。」
『そうですね。そちらは考えていました。では、期日はいつまでとするのでしょうか?ずっと同じ人とバトルするわけにもいきませんよね?』
「ああ、それについて質問がある。」
そう言うと、疾風は自分のカバンから紙を取り出して、あわただしくペンを走らせ始めた。
「なにしてんの金霧?」
アイツはどこかに機体をしまったのか、手ぶらで帰ってきた。
「あ、すまん。のどが渇いたから水貰えるか?」
「や、ちゃんとジュースがあるってば。炭酸とお茶とどっちがいい?」
「炭酸で。」
「はいよ~。」
疾風はアイツを部屋の外に出るよう仕向けたあと、走り書きした紙をカメラに映した。
「どこまで許容できる?」
たった一言だが、見せられた紙の内容と合わせると、とても端的な質問だった。
『・・・・急には答えられません。Kayaと相談させてもらった後でも構わないでしょうか?』
ただ、端的過ぎて、アタシはすぐに回答を準備できなかった。
「わかった。じゃぁ・・・・これ。」
アタシの返事に疾風は再度紙にペンを走らせ、14桁の英数字の羅列をカメラに映した。
「KAGUYAのAIのID。妹AIちゃんと話し合って、決まったら、ここに連絡してくれ。姉AIちゃんの事だから、なるべくソウには知られたくないんだろ?」
『なっ、ちょっ、それはどういうことですか!』
『わかりました~。なるべく早く~回答します~。』
「よし。俺からは終わりだ。そっちから質問はあるか?」
『それも含めて~後ほど~連絡します~。』
『ちょっとKaya!?勝手に終わらせないで!さっきの意味について聞きたいんだけど!?』
『それは~自分で~考えようね~。』
「おまたせ~。ほい。炭酸水。ん?なんか話し中だった?」
アタシが疾風に説明を求めようとしたタイミングでアイツが部屋に戻ってきてしまった。
『何でもないわよ。後でちゃんと話すわ。ところで、その色何?』
アイツが持ってきた炭酸水のペットボトルを見てみると、なんか青い液体が入っていた。
「これ?炭酸水常夏風味」
「毎回思うんだけど、ソウって、どこからこんな飲み物見つけてくるんだ?」
「ん?そこら辺の自販機。これは・・・どこだっけ?・・・ああ!近所の駄菓子屋の自販機で見つけたやつ。」
「あそこか。毎度右下の1個だけ何が入っているか分からなくなってるやつだな。」
「そうそう。8本買えば1本くらいまともなのが出てくるあれ。」
疾風の説明に。電脳世界では起きないはずの頭痛がしている気がする。
よくもまぁ外れる確率が高いとわかって買うものだ。
「えっと、それで?説明は終わり?」
「ああ。」
『ええ。あ、前回のデブリーフィングはどうする?アンタの新しい機体の動作データが無いからやっても意味ないけど。』
「あ~。うん。来週末に金霧とゲームする予定だから、そのあとでもいい?」
『問題ないよ~。』
「じゃぁそれで。」
『わかったわ。それじゃ、アタシたちは機体の調整を始めるから・・・二日後の木曜日までには終わらせておくわ。その時にブリーフィングをしましょ。』
「了解。なら、木曜日の放課後にアプリを立ち上げるよ。」
アイツと次回のブリーフィング予定を話し合い、今まで見ていたパネルを閉じて改めて登録された機体を見上げた。
失敗の果てに出来上がった高品質機。
これからひと悶着起きそうで思わずため息がこぼれた。




