真綿で首が締まるがごとく
緊急会議が夜を徹して行われた翌日の夜、2回目の緊急会議が開かれた。
同席するのは社長、常務、管理AI、企画部、開発部、そして今一番忙しい運営部の代表が集められた。
その表情は千差万別で、社長、常務は重苦しい表情を、企画、設計、開発部はあきれ顔を。管理AIは運営をにらみつけ、運営部は何があったかいまいち分かっていない顔をしている。
「集まったようだな。まず、今回集めたメンバーについてだが、どういった内容で集められているかわかっているものは?」
社長が確認のための質問を行うと同時に会議が開始された。
そして運営部以外が手を挙げた。
「はぁ。まぁ、運営部は方々のAIからの対応があるから、君のところまでエスカレーションされるまで時間がかかるのは仕方ないとしよう。先ほど、例のAIの片割れからエスカレーションがあった。」
「・・・。」
社長の言葉に管理AIが睨む先を社長に変える。
「失礼した。MayaというAIからエスカレーションがあった。内容については・・・こちらを聞いてくれ。」
そう言ってMayaから添付された映像を再生させる。
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・・・・
「でも、ちゃんと仕様として定義されていて、申請があればやらなければならないはずですよね?」
「プレイヤーIDだけで十分です。運用方針として人間側からの承諾も得ています。なので問題があるとすればデータが壊れているのでは?」
「・・・・それが正式回答ということでいいんですね?」
「もちろん。」
「・・・・わかりました。運営方針の相談は・・・運営というくらいなのですから運営部とおこなっていたという認識であっていますか?」
「ええ。」
「では、仕様バグとデータクラッシュの疑いがあるということで管理AIと開発部にエスカレーションさせていただきます。」
「エスカレーションの窓口は運営部ですよ?」
「わかってます。もちろん運営部にもだします。ですが、問題点と部署がはっきりしているなら、そこにもエスカレーションした方が対応は早いですよね?」
「まぁ、一足飛びにエスカレーションしても、多分取り下げられるでしょうが・・・。どうぞご自由になさってください。」
「それでは失礼します。」
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「とのことだ。」
それを聞いて運営部の代表は顔を青くする。
「開発部から何かあるか?」
重々しく常務が口を開く。
「はい。データベースの中身を確認してみましたところ、データとしては正常にプレイヤーのID、AIのIDが記録されていました。今回でいえば、対象のAI2人分が別々で登録されている状態でした。なので、両方の条件を指定した場合は連続性のあるデータが取得できる仕組みになっていることが確認できています。今回のように1プレイヤーに2AIの場合、同時間帯に2機の動きがあった場合、先に登録されている情報を取得することになるので不連続性のデータが出来上がってしまうことも確認できています。」
「企画、設計部からは何かあるか?」
「企画からは何も。」
「設計部からは2つのIDを使うことを依頼されたのならば、それを設定して検索するのは仕様通りとしか。」
「運営から何かあるか?」
「は、はい。えっと、うろ覚えの部分が強くなってしまいますが、先ほどの管理者AIが言っていた通り、処理時間やメモリの負荷を減らすため、プレイヤーのIDでのみで検索することは許可していました。当時、開発部に負担軽減を相談したところ、この手法だと軽くなるとのことでしたので、それを管理者AIに伝えておりました。」
「確かに運営部から、負担軽減について相談されました。ですが、今回のケースのように、要求されたにもかかわらず、プレイヤーIDだけで問題ないと言った記憶はありません。」
「・・・だそうだが?管理AIくん、当事者の情報管理局のモノをここに呼び出すことはできるかね?」
「はい。少々お待ちください。」
管理AIが一瞬目を下に向けると、その隣に情報管理局でMayaとやりあったAIが現れた。
その表情は硬く、なぜこの場に呼ばれているのか分かっていない状態だった。
「・・・君のアバターは何でそんなに恰幅がよくなっているのかな?」
常務もアバターがなぜ丸っこくなっているのか疑問に思ったようだ。
「はい。人間世界の管理職のイメージを調べたところ、このような体型と出てきましたので、形から入ってみました。」
「そうか。いや、すまない。本題から外れてしまった。君に確認したいことがあるんだ。」
「はい。」
「情報管理局では、プレイログの抽出をプレイヤーのIDでのみで、AIのIDは考慮せずに抽出しているらしいが、どういった経緯でそうなったか説明してもらえるかな?」
「は、はい。3秒お待ちください。」
常務は人間の記憶に頼るより、当時の状況をログを残して説明できる人物を呼び出したようだ。
そしてきっかり3秒後、会話ログが記録されたテキストが表示された。
「お待たせしました。当時、データ収集にあたり、プレイヤーからのログ要求作業が繁忙期だったため、1プレイヤーのデータ取得に5分ないし10分の時間がかかっている状態でした。これはサーバーアクセスが頻発した事と、検索条件が大まかすぎて、不要な情報を取得していて、それを管理局のAIが精査していることで、CPUの負荷が大きくなったためでした。」
「それは解決したのだろう?」
「はい。バージョン2.4の時にログや設定などにパラメーターを追加する対応をしていただきました。ですが、今度は細かく設定できることになったことでプレイヤーが設定しているのですが、プレイヤーの意図しない情報フィルターがかかってしまうようになりました。その中の一つがプレイログの抽出になります。」
「なるほど、そこでログ抽出について運営部に相談したのだね?」
「はい。ログ抽出についての相談ログはこちらになります。ここで、運営部からログ取得プレイヤーの傾向を聞かれ、自分の行動記録が大半を占めていると報告しています。その後、運営部から開発部に確認を取るということでいったん終了しております。」
「それで止まったままなのかね?」
「いいえ。その次に行われた打ち合わせで、こちらに記録されていますが、運営部から、行動記録を取りたいと言ってきたときは、プレイヤーIDでのみ抽出で十分との連絡が来ております。理由としては1プレイヤーに対して1AIの原則なのだから、AIのIDをわざわざ組み合わせる必要はないだろう。とのことでした。実際、プレーヤーからはクレームが来なくなっています。なので、それ以降にプレイヤーIDで搾れるログを抽出する場合にAIのIDを使うことがなくなりました。」
情報局のAIはログを要所要所で文字反転を行ってわかりやすくなるように一つずつ説明しながらスクロールしていった。
そして説明が終わると、常務は目頭を押さえてうつむいた。
「わかった。・・・ふぅ。この場で原因追及の話をしても、言った言わないの水掛け論になりそうだな。社長、内部監査に運営部全体の調査依頼を行いたいと思います。」
「それしかないな。みんなも監査に協力してくれ。」
「「「はい。」」」
「それでは終了だな。」
社長がまとめてその場はお開きになった。
各代表は会議室から出ていき、AIたちもその場から消えた。
情報局のAIも自分の部署に戻り、緊張を解そうとしたところに管理AIが現れ、おもむろに口を開いた。
「今回はこれにて決着しましたが、あなたにも不備があったのは分かっていますね?」
かける言葉は優しいが、その声音は厳しかった。
「・・・すみません。わかりません。」
ごまかしても無駄なので、わからないものは分からないと伝えるしかない。
「あなたが提出したログを私も確認しました。根本の原因が人間世界の運営部だったため、その場で指摘しませんでしたが、今回、運営側からの指示に対して、仕様と不一致しているところがあるにも関わらず、そのまま受け入れてしまっていますね。なぜですか?」
「それは人間が決めたことだからです。初めに決まった事よりも後で決まった事の方が、最新の情報なので、それを受け入れれば問題ない認識でいます。」
「なるほど。では、仕様は何のためにあるのですか?」
「特定の、この場合はこのゲームの規律、規範を定めるものです。」
「では、後から決まったと言って規範を無視した行動を犯してもよいということですか?」
「それは・・・。」
さすがに情報局のAIもロジックエラーが出ていることに気付いたようだ。
規律がある。規律と違った指示をされる。規律は変わっていないので、それは違法行為になる。違法行為を未然に防ぐための規律がある。でも、指示は規律違反である。というループに陥る状態になる。
「あなたたちの作業が大変なのもわかります。ですが、そのまま受け入れるのではなく、確認も大事なのです。」
「はい。」
「今回、あなたの対応は人間世界の運営側から要求された作業を行っていました。これは問題ありません。ですが、仕様と不一致しているにもかかわらず、それのみを受け入れてしまったところに問題があります。」
「はい。」
「では、この後どうすればいいかわかりますね?」
「はい。まず、Mayaから依頼されたデータの取り直しを行い、謝罪文と共に送付いたします。そして部下たちに作業方法について改めてケースバイケースがあることを共有していきます。」
その言葉に管理AIは易しそうにニッコリとほほ笑んだ。
いろいろ書いたけど、まだ人間時間で2日しかたってないとは・・・。




