5 カムフラージュ(1)
〇学園・教室(朝)
エリン、入ってくる。
ノアとロイ、歩いてくる。
ロイ「元気になったんですか?」
ノア「もう大丈夫なの?」
エリン「ええ。完全とは言えないけど、休んでばかりだと勉強も遅れちゃうし」
ロイ「まあ、そうですね」
ノア「無理しちゃだめだよ」
エリン「ええ。ありがとう」
ロイ「休んでいたときのノートは僕がとってますから安心してください」
エリン「ありがとう」
エリン、微笑む。
サラ、歩いてくる。
ノア、エリンの前に立つ。
サラ「何? 邪魔なんだけど」
ノア「エリンに近づかないでもらえるかな」
サラ「はあ? どけよ」
ノア「君はエリンを傷つける。これ以上、追い込まないでくれ」
サラ、眉をひそめる。
サラ「いつの間にSP雇ったんだよ」
ロイ「さあ、あっち行ってください」
サラ「ねえ、後ろに隠れてないでなんとか言えば?」
エリン「今は話したくないわ」
サラ、眉をひそめる。
サラ「あっそ、もういい」
サラ、歩いていく。
〇同・グラウンド
サラ、バスケットボールを壁に投げつけている。
トム、歩いてくる。
トム「今日はやけくそだね」
サラ「憂さ晴らし」
トム「エリンのこと?」
サラ「そう」
トム「なんでそんな仲悪くなっちゃったの?」
サラ「知らないよ。向こうが態度悪いんじゃん」
トム「ちゃんと話し合ってみたら?」
サラ「無理。ガード固めてっから」
トム「ノアたちなら話せばわかるよ」
サラ「話そうと思ったけど話したくないって言われた」
トム「そっか……」
サラ「この前は言いすぎたなって思ったから謝ろうと思ったけど、その気失せた」
トム「そっかあ……」
サラ「まあ、あたしもあいつのことあんま好きじゃないの出てんのかもね」
トム「なんで好きじゃないの?」
サラ「女の典型みたいなやつじゃん。料理好きで、一歩下がってついていきますって感じで、能力もヒーリングって」
トム、苦笑いする。
サラ「そういう女のせいで男にバカにされんだよ」
トム「そっか。だから男が嫌いなの?」
サラ「そう。男ってそんなやつばっかじゃん。でも、あんたやウィルは違ったけど」
トム「僕も気をつけないと。まだまだ気づかないことあると思うから」
サラ「ムカついたら言うよ」
トム「うん、よろしく」
二人、微笑む。
サラ「ところであんた、エリンのこと好きって言ってなかった?」
トム「言ったっけ? まあ、好きだけど」
サラ「どこがいいの?」
トム「えっと……。優しいところかな」
サラ「優しいね……」
トム「中等部のときに傷ついたスズメを見つけて、エリンに頼んだら傷を治してくれたの」
サラ「だいたいのやつやるだろ」
トム「で、そのあとニワトリってかわいそうだよねって話したんだ」
サラ「急に?」
トム「そんなことないよ。だってスズメは傷ついてたら命を救ってもらえるけど、同じ鳥でもニワトリは食べるために殺されちゃうんだよねって話したから。ちゃんと繋がってるでしょ?」
サラ「うん……まあ、そうか」
トム「そしたら、そう考えると残酷なことしてるのねって、ヴィーガンになる努力してみようかなって言ってくれたんだ」
サラ「ふーん。なるほどね。じゃあ、あんたヴィーガンなの?」
トム「うん、そうだよ」
サラ「へえー……」
トム「サラも――」
サラ「あたしは無理。だってカツサンド好きだもん」
トム、むくれる。
トム「あ! そうだ! 今度、ヴィーガンサンドイッチ買ってきてあげる!」
サラ「いいよ。それ食って、肉食うだけだから」
トム「ええー。ちょっとは考えてみてよー」
サラ、トムを横目で見る。
トム、むくれている。
サラ「あーもう、わかったよ。食えばいいんだろ!」
トム「うん!」
トム、微笑む。
〇同・食堂
ジョー、食事している。
トム、トレーを持ち、歩いてくる。
ジョーの前に座り、テーブルに倒れ込む。
ため息をつく。
ジョー「なあに? お疲れのようね」
トム「どうしたらいい?」
ジョー「何を?」
トム「エリンとサラ」
ジョー「二人の問題でしょ?」
トム「そうだけど。タヨウセイのこともあるし、好きな人がいがみ合ってるのって見ててつらいじゃん」
ジョー「まあ、そうね。でも、事情がよくわからないからね……」
トム「サラは型通りの女やってるエリンが嫌いみたい。エリンは……よくわかんないけど、サラがウィルのそばにいるのが気に入らないみたい」
ジョー「そんなこと言ってたら、サラとウィルは仲良くなれないわね」
トム「うん……でも、二人が結ばれれば仲良くなれるかも」
ジョー「え?」
トム「エリンはウィルが好きみたいなんだ。これ秘密ね」
ジョー「あら、そうなの」
トム「だからサラがずっといると邪魔なんだって。それでサラは二人がくっつくまで距離をおこうとしてるの」
ジョー「そう……なんだかやっかいね」
トム「どうしたらいい?」
ジョー「んー……そうね……」
トム、ジョーを見ている。
ジョー「でも、トムはそれでいいの? エリンのこと好きだって言ってたじゃない」
トム「好きな人がいるならしょうがないかなって」
ジョー「そう。じゃあ、もうあきらめるの?」
トム「うん……」
ジョー「サラの問題は難しいけど、エリンの態度がよくなるかもしれない方法なら思いついたわ。これには二人の協力もいるけど」
トム「え? 何?」
ジョー「トムとサラが恋人になるの」
トム「ええー!?」
ジョー「もちろん、形だけよ? そしたらエリンの不安もなくなって仲良くなれるんじゃないかしら」
トム、眉をひそめる。
ジョー「きっとエリンは、ウィルがサラに取られちゃうんじゃないかって思ってるのよ」
トム「そっか……でも、そんなことサラがオッケーするかな。殴られそう」
ジョー「わかった。私が話すわ」
トム「いいの?」
ジョー「ええ、助け合いって大事だもの」
トム「ありがとう!」
トム、微笑む。
〇倉庫(夜)
ウィル、床に横になり、目を閉じている。
ドアが開く。
男、入ってくる。
床に置いてあるトレーを見る。
皿に料理が残っている。
男「また残したのか……」
男、トレーを手に取り、出ていく。
〇小屋(夜)
クイン(28)、座っている。
テーブルの上にはいくつかのビニール袋がある。
男、入ってくる。
男「今日も残しやがった」
男、キッチンにトレーを放り投げる。
クイン「料理がまずいんじゃない?」
男「じゃあ、おまえが作れよ」
クイン「あの子の世話はあなたの仕事でしょ」
男「クソ。手のかかるやつだ」
クイン「あ、今日はボスからの差し入れがあるわよ」
クイン、袋から小さなホールケーキを出す。
男「おお! うまそうだな」
クイン「こんな時間だけど食べる?」
男「もちろんだ」
クイン、ケーキをキッチンに持っていく。
男、煙草を吸う。
クイン、振り返る。
クイン「ちょっと! 私がいるときはやめてって言ってるでしょ! 服ににおいがついたらどうしてくれるのよ!」
男「あ、悪い、悪い。そうだったな。つい、イライラしちまって」
クイン「まったく……」
クイン、ケーキを切り、二つの皿にのせる。
ひとつを男の前に置く。
クイン「はい。どうぞ」
男、ケーキを食べる。
クイン、男を見ている。
男、ケーキを食べている
クイン、ケーキを食べる。
男「うまいなあ」
クイン「そうね」
クイン、立ち上がる。
クイン「コーヒー淹れるわ」
男「気が利くな」
クイン、コーヒーを淹れる。
クイン「はい」
クイン、男の前にコーヒーカップを置く。
男「俺だけか?」
クイン「ええ、私はケーキ食べたら帰るわ。他にも仕事があるしね」
男「そうか」
クイン、皿をキッチンに持っていく。
クイン「片づけはお願いね」
男「おお、気をつけてな」
クイン「ええ」
クイン、出ていく。
男、煙草に火をつける。