3 処分(1)
〇学園・職員室(朝)
ベケット、椅子に座り、ラルフを見ている。
ラルフ、目を逸らし、ベケットの前に立っている。
ベケット「どうしてあんなことしたの? 黙ってちゃわからないでしょ?」
ラルフ「わかんなくていい」
ベケット「そういうわけにはいかないわ。あの子、死にかけたのよ?」
ラルフ、鼻で笑う。
ベケット「笑いごとじゃないわ。大変なことしたのよ?」
ラルフ、目を逸らしている。
ベケット「こういうことは双方の意見を聞かなきゃだめなの。あなたが何も言わないとあなたが困るのよ?」
ラルフ、目を逸らしている。
ベケット、ため息をつく。
ベケット「彼らはあなたが裏庭にやってきて、突然殴って、蹴って、電撃放ってきたって言ってるわ」
ラルフ、鼻で笑う。
ベケット「それで間違いないの? いいのね?」
ラルフ「どうせ退学はない。好きにすればいい」
ベケット「退学はなくても罰はあるわ。謹慎になるか、反省文を書くか。成績にも影響するわ。場合によっては警察にも話さないと」
ラルフ「べつにいい」
ベケット、ため息をつく。
ベケット「わかったわ。今日は部屋に帰って待機してなさい。処分が決まったら連絡するわ」
ラルフ、出ていく。
ベケット「ほんと困った子……」
〇同・教室(朝)
ウィル、席に座っている。
辺りを見回す。
サラ、ウィルを見る。
サラ「誰か捜してんの?」
ウィル「うん、ラルフ」
サラ「ラルフ? あんたら仲良かったっけ?」
ウィル「いや、昨日いろいろあって……」
サラ「ふーん」
ウィル「今日、来てないみたいだ。やっぱ傷が痛むのかな……」
サラ「あいつ怪我したの?」
ウィル「うん。昨日、上級生ともめたみたいで殴られてたんだ」
サラ「あーあ……」
ベケット、入ってくる。
ベケット「はい、教科書開いて」
女子生徒「先生、ラルフは?」
ベケット「休み」
女子生徒「なんで?」
ベケット「プライバシー」
女子生徒「謹慎ってほんと?」
ベケット「まだ決まって――」
ベケット、咳をする。
ベケット「質問は終わり! 始めるわよ!」
ベケット、教科書を開く。
ウィル、眉をひそめ、ぼんやりしている。
〇同・廊下(朝)
ベケット、歩いている。
ウィル、走っていく。
ウィル「先生!」
ベケット、振り返る。
ベケット「どうしたの? そんなに慌てて」
ウィル「ラルフ、どうして謹慎なんですか?」
ベケット「そのことについては話せないの」
ウィル「昨日のことですか?」
ベケット「何か知ってるの?」
ウィル「はい。少しですが、見たんです」
ベケット「詳しく教えて」
ウィル「昨日の夕方、裏庭でラルフが上級生3人に殴られてました」
ベケット「え!? 殴られてた?」
ウィル「はい。ひとりがラルフを背後から捕まえて動けなくして、あとの二人が殴ってました。それで止めようと思って、急いで駆けつけたんですがラルフはいなくて。倒れた上級生と、心配そうに呼びかけてる上級生だけがそこにいて」
ベケット「そう……」
ウィル「そのあとラルフに何があったか聞いたんですが、話してくれませんでした」
ベケット「なるほどね。だいたい状況がつかめたわ。ありがとう」
ウィル「いえ。ラルフ、どうなるんですか?」
ベケット、ウィルの肩に手を置く。
ベケット「大丈夫よ。心配しないで」
ベケット、歩いていく。
ウィル、ベケットを見ている。
〇同・食堂
ウィル、食事をしている。
ラルフ、歩いてくる。
ウィルの前に座る。
ウィル「ラルフ」
ラルフ「お節介なやつだな」
ウィル「事実を言っただけだよ。どうなったの?」
ラルフ「厳重注意と反省文を書くだけで済んだ。あいつらもな」
ウィル「そっか」
ラルフ「なんでそこまでする」
ウィル、目を逸らす。
ラルフ「おまえに得はないだろ」
ウィル「集団で暴力振るった人たちが罰を受けないのは納得できなかったから」
ラルフ、ウィルを見ている。
ウィル「俺、施設育ちでいじめられたことがあるんだ」
ラルフ、眉をひそめる。
ウィル「先生に言っても好きだからからかってるだけだとか言われて、真剣に聞いてもらえなかった。日に日にエスカレートしたけど、誰も信じれなかった俺は誰にも相談しなかった。だから毎日が苦しかったし、いじめっ子はなんの罰も受けなかった」
ラルフ「やり返さなかったのか?」
ウィル「やり返せなかった。やり返したら、明日はもっとひどくなるんじゃないかって」
ラルフ「そうか」
ウィル「でもある日、クラスで飼ってた金魚の当番が回ってきたんだ。金魚鉢の掃除をしているときに、いじめっ子たちが金魚を盗んでどこかへ走っていった。俺は必死で追いかけたよ。やっと追いついたと思ったら、目の前で金魚を踏みつけて殺したんだ」
ラルフ、眉をひそめる。
ウィル「悲しみと怒りが込み上げてきた。それで気づいたら能力が爆発して辺り一帯が火の海だったよ。いじめっ子たちはそれから俺に近寄らなくなった」
ラルフ「やってやったな」
ウィル「昨日のラルフを見て昔の自分を思い出したんだ。ラルフも昨日そうだったのかなって」
ラルフ「いや、俺は違う。加減はできないって思いながらも意識的に放った」
ウィル「そっか……」
ラルフ「今回のことはありがとな。めんどくさいことにならずに済んだ」
ウィル「よかった。でも一歩間違えたら殺してたかもしれない。むやみに使うのはやめた方がいいよ」
ラルフ「感謝はしてるけど、後悔はしてない。あのとき殺してやろうと思ってたしな」
ウィル「ムカつくのはわかる。でも殺しちゃだめだ。それにもっと自分を大事にしたら? 人生終わるよ?」
ラルフ「やりたいこと我慢するくらいなら、やりたいことやって人生終わった方がましだ」
ウィル「殺すことがラルフのほんとにやりたいことなの?」
ラルフ「ああ、そうだ」
ウィル「いや、違う。ちゃんと考えた方がいい」
ラルフ「俺の何を知ってるって言うんだ」
ウィル「もっと自分と向き合う――」
ラルフ「もういい。おまえとわかり合いたいわけじゃない。今回のことは礼を言うけど、これからはほっといてくれ」
ラルフ、立ち上がり、歩いていく。
ウィル、ラルフを見ている。
〇同・中庭
サラ、ベンチに座り、カレーパンを食べている。
エリン、弁当を持ち、歩いてくる。
エリン「ねえ、隣いいかしら?」
サラ「うん」
エリン、座り、弁当を食べる。
エリン「何食べてるの?」
サラ「パン」
エリン「いや、そうじゃなくて……」
エリン、サラの持つカレーパンを見る。
エリン「カレーパンね」
サラ、カレーパンを食べている。
エリン「カレー好きなの?」
サラ「まあ」
エリン「ミートボール食べる?」
サラ「何?」
エリン「え?」
サラ「なんか用なの?」
エリン「え? 普通の会話でしょ?」
サラ「どこが? 世界一どうでもいい会話じゃん」
エリン、うつむく。
サラ「なんか用があるから来たんでしょ。さっさと言いなよ」
エリン「わかったわ。そうね……」
エリン。サラを見る。
エリン「私あなたに何かした?」
サラ「はあ?」
エリン「だっておかしいわ。ブレンダやシンディ、ジョーにトムまで仲良く話してるのに私にだけ冷たいじゃない」
サラ、カレーパンをかじる。
エリン「私が何か気にさわることしたんでしょ? 教えてほしいの」
サラ、カレーパンを食べている。
エリン「ほら、玉もあるし仲良くなりたいの」
サラ「それ本心?」
エリン「え?」
サラ「あんたの言葉って薄っぺらいんだよね。中身もスッカスカ。仲良くなりたいって思えない。っていうか、あんたも思ってないでしょ。そういうのって意外と伝わんだよ」
エリン、目を逸らす。
エリン「そうね。ごめんなさい。思ってないわ……」
サラ「じゃあ、なんでかまってくんの?」
エリン「最近ウィルはあなたとばかりいるから」
サラ「そうだっけ? まあ、席が隣だからたしかに話すこと増えたけどさ」
エリン「中等部のころはほぼ毎日話してたし、お昼も一緒に食べたわ。あのころのように戻りたい。そうなるにはあなたと仲良くならないとって思ったの」
サラ「そんな毎日いなくても」
エリン「身を引いてくれない?」
サラ「はあ? 避けろって言ってんの?」
エリン「そう」
サラ「わがまますぎじゃない? 自分の思い通りにしようとするのやめた方がいいよ」
サラ、立ち上がる。
エリン「好きなの」
サラ「え?」
エリン「私……ウィルが好きなの」
サラ、エリンを見ている。
エリン「だからお願い」
エリン、サラを見上げる。
エリン「あなたは男嫌いなはずでしょ?」
サラ「そうだけど……玉の――」
エリン、立ち上がる。
エリン「玉は私に任せて。タヨウセイは必ず救うわ。約束する」
エリン、手を差し出す。
サラ「え?」
エリン「残りの玉をちょうだい。渡す人は私が責任もって見つけるわ」
サラ「でも――」
エリン「あてもあるの」
サラ、エリンを見る。
エリンに玉を渡す。
エリン「ありがとう。感謝するわ」
エリン、歩いていく。
サラ、エリンを見ている。