1 始業式(2)
〇学園・教室
チャイムが鳴る。
ベケット、教科書を閉じ、出ていく。
ウィル、隣の席のサラを見ている。
サラ、携帯をいじっている。
サラ「何?」
サラ、眉をひそめ、ウィルを見る。
ウィル「あ、ごめん。なんでもない」
ウィル、目を逸らす。
サラ、携帯を見る。
エリン、ウィルのそばに来る。
エリン「ウィル。これ読んだわ。貸してくれてありがとう」
エリン、小さな詩集をウィルに渡す。
ウィル「ああ、どうだった?」
エリン「とてもよかったわ。詩を読むなんてすてきな趣味ね」
ウィル「そうかな」
エリン「昼食一緒に食べない?」
ウィル「え、うん。そうだね」
ウィル、詩集をかばんに入れる。
詩集がかばんから落ちる。
ウィルとエリン、出ていく。
サラ、詩集を見る。
〇同・食堂
ウィルとエリン、食事をしている。
サラ、二人のもとに来る。
サラ「これ、落としてたよ」
ウィル「え?」
サラ、ウィルの前に詩集を置く。
サラ「プロテウスってやつ、よかったよ」
ウィル「え?」
サラ、売店に歩いていく。
ウィル、サラを見て、微笑む。
エリン、ウィルを見ている。
ノアとロイ、食事をしている。
ロイ「ノアは今日の魔法の授業もさすがでしたね」
ノア「ありがとう。コントロールは自信あるんだ」
ロイ「ノアのすぐ後だったからラルフ目立てなくて機嫌悪かったですね」
ノア「僕のせい? ラルフはいつも機嫌のいい人ではないように思うけど?」
ロイ「いや、今日は特に機嫌悪かったですよ。彼は魔法には自信のある人ですから」
ラルフ(声)「なんか言ったか? 腰巾着」
ロイ、振り返る。
ラルフ、缶コーヒーを持ち、立っている。
ロイ、驚く。
ロイ「び、びっくりさせないでください! 盗み聞きとは悪趣味ですよ」
ラルフ「陰口はいい趣味だと?」
ノア「ロイも悪気があるわけじゃないんだ。思ったことを口にしてしまうタイプだから。許してやってよ」
ラルフ「ロイに担がれて有頂天か? いいコンビだな」
ラルフ、歩いていく。
ロイ、ラルフを見ている。
ロイ「驚いた。ヴォルトだけじゃなく、気配を消すという特殊能力も持ってるのでしょうか」
ノア「ロイ、ラルフの話はやめよう。また怒られるよ」
ロイ「でも、ほんとのことですよ? だから怒ってるんですよ」
ノア「傷ついたんだよ」
ロイ「何かにつけてノアに喧嘩を売ってくるんですよ? ちょっとくらいなんですか」
ノア「たしかに意見の相違はよくあるけど――」
ロイ「強さしか取り柄のない人ですから、それまで失ってショックだったんでしょうね」
ノア、呆れた顔をしてお茶を飲む。
ブレンダとシンディ、お菓子を食べている。
シンディ「どうしてウィルなの?」
ブレンダ「え?」
シンディ「どうしてキスの相手にウィルを選んだの?」
ブレンダ「ああ、深い意味はないわよ。そのときの気分ってやつよ」
シンディ「嫉妬しちゃう」
ブレンダ「もう、いちばん好きなのはシンディよ」
シンディ、ブレンダを見る。
ブレンダ、シンディを見る。
ブレンダ「負けたわ。ごめん。もうしないから」
シンディ、微笑む。
シンディ「いいわ、許してあげる」
ジョーとトム、トレーを持ち、歩いてくる。
ジョー「隣いいかしら」
ブレンダ「いいわよ」
トム「ありがとう」
ジョー、ブレンダの隣に座る。
トム、シンディの隣に座る。
テーブルの上に数十個のどんぐりを出す。
シンディ「あら、何ごと?」
トム「どんぐりの選別」
トム、どんぐりを見ている。
ブレンダ「なんのため?」
ジョー「プレゼントするのよ」
ブレンダ「そんなのいる人いる?」
トム「ピグシーの好物なんだ」
シンディ「ピグシー?」
ジョー「妖精よ。森にいるんだって」
ブレンダ、眉をひそめる。
ブレンダ「そんなの信じてるの?」
トム「信じるも何も、いるよ?」
シンディ「信じる心って大事よ」
トム「いるのに」
ブレンダ「まさかジョーも信じてるの?」
ジョー「ええ、いるわよ。会ったことあるもの」
ブレンダとシンディ、驚く。
ブレンダ「マジで!?」
ジョー「ええ。森の奥にはいるみたいよ」
シンディ「あら、すてき。会ってみたいわ」
ジョー「そんないいものではないわよ? いたずら好きだったり、わがままだったり、とにかくめんどくさいから」
ブレンダ「そうなの。じゃあ、私はいいわ」
シンディ「あら、残念。一緒に行きたかったのに」
ジョー「やめといた方がいいわ。森で迷子にでもなったら大変よ」
シンディ「そう……」
〇同・裏庭(夕)
サラ、木のそばのベンチに座り、携帯をいじっている。
ウィル、紙袋を持ち、歩いてくる。
ウィル「サラ、ちょっといい?」
サラ、顔を上げる。
サラ「何?」
ウィル、紙袋を差し出す。
ウィル「これ、昼間のお礼」
サラ、紙袋を受け取り、中を見る。
コロッケが3つ入っている。
ウィル、サラの隣に座る。
サラ「ありがとう。でもなんのお礼?」
ウィル「詩集、拾ってくれたお礼」
サラ「そんなこと?」
ウィル「それと感想、嬉しかったんだ」
サラ「え?」
ウィル「プロテウス、読んでくれたんでしょ?」
サラ「ああ、詩ってどんなんかなって思ったから」
ウィル「ありがとう」
サラ「それお礼言うとこ?」
ウィル「共感してくれる人ってあんまりいないから、嬉しいんだ」
サラ「ふーん」
サラ、コロッケをかじる。
サラ「エリンだって気に入ってたじゃん」
ウィル「あれは、気をつかったんだと思う」
サラ「そうなの?」
ウィル「うん。とくに感想もなかったしね」
サラ「そっか」
二人の頭上から妖精が落ちてくる。
ウィルの膝の上に乗る。
二人、驚き、妖精を見る。
ひどく弱っている。
ウィル、妖精を両手で抱える。
ウィル「大丈夫かなあ?」
サラ「何これ」
ウィル「妖精?」
サラ「妖精なんかいんの?」
ウィル「いたみたい」
タヨウセイ、かすかに目を開ける。
タヨウセイ「ありがとう……」
二人、驚く。
サラ「しゃべってんじゃん」
タヨウセイ「お腹空いた……」
タヨウセイ、サラの持っているコロッケを見る。
二人、見合う。
サラ「食う?」
サラ、コロッケをタヨウセイに差し出す。
タヨウセイ、コロッケをつかみ、かぶりつく。
二人、微笑む。
タヨウセイ、口いっぱいにコロッケを詰めて食べている。
コロッケを食べ終わる。
タヨウセイ「ふう、助かった」
サラ「腹減ってたんだ」
タヨウセイ「ありがとう。僕、タヨウセイ」
ウィル「え? 多様性?」
タヨウセイ「ううん。タヨウセイ」
サラ「タヨウセイ? なんだよそれ」
タヨウセイ「僕の名前だよ。君たちにお願いがあるんだ。いろんな人と友達になって仲間を集めて」
サラ「は? やだよ、めんどくさい」
タヨウセイ「死んじゃうよ?」
ウィル「え?」
タヨウセイ「多様性が僕の力になるの」
サラ「じゃあ、私は仲間集めないタイプの人ってことで。あとはウィルに任せた」
ウィル「え?」
タヨウセイ「死んじゃうよ? いいの?」
サラ「ええ? それはだめだけど」
ウィル「なんで俺たち?」
タヨウセイ「二人は全然違うのに仲良しでしょ。違う相手を受け入れる素質を持ってると思ったんだ」
サラ「はあ!? 仲良くなんかないよ!」
タヨウセイ「そうなの?」
サラ「そうだよ! 男なんか嫌い!」
ウィル、驚く。
タヨウセイ、胸を押さえ、眉をひそめる。
タヨウセイ「うっ……苦しい」
二人、驚き、タヨウセイを見る。
サラ「嘘! 好き!」
タヨウセイ、顔を上げ、二人の手に手を添える。
目を閉じる。
二人、見合う。
タヨウセイ、目を開ける。
タヨウセイ「ありがとう。二人の愛の力で少し元気になれたよ」
タヨウセイ、指を鳴らす。
小袋があらわれる。
ウィルの膝の上に小袋をひっくり返す。
10個のカラフルな玉が出てくる。
その中から紅玉を取る。
タヨウセイ「これは君の」
タヨウセイ、ウィルに渡す。
タヨウセイ「これが君のね」
タヨウセイ、サラに黄玉を渡す。
ウィル「これは?」
タヨウセイ「友情の証。残りの玉を渡せる相手を集めて」
タヨウセイ、玉を小袋にひとつずつ戻し、小袋をウィルに渡す。
ウィル「わかった」
タヨウセイ「お願いね。じゃないと僕、死んじゃうから」
タヨウセイ、サラを見る。
サラ「わかったよ……」
サラ、目を逸らし、ため息をつく。
タヨウセイ、飛んでいく。