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クラスメイト達

 シャルイース魔術学院から徒歩十分の所に位置するヴィルヴァレン邸は、ヴィルヴァレン家が保有する屋敷の一つである。


 伯爵ともあれば自分の領地だけでなく、王都にも別荘を持っているもの。このヴィルヴァレン邸は王都に滞在する際の仮住まいなのだ。


 しかし仮住まいだからと言って侮るなかれ、防御用の結界で侵入者を防げる他、会話の内容が漏れぬよう、各部屋には防音作用のある結界が張り巡らされている。


 つまりどういうことかと言うと────。


「恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい」


 ベッドで叫びながらのたうち回っても、外には一切聞こえないということだ。


 好きな女子の前で涙流しながら内心暴露って何それ恥っず!

 俺精神年齢は十歳以上年上だからね? それが高校生の少女に諌められるってどうよ。


 うわー、マジで死にたい。死んでもっかいやり直したい。


「でもまあ、約束したしな……」


 つい先程ユリアとした約束。彼女の夢を絶対に叶える。

 端役も運命も振り払い、彼女の夢を、俺の夢を叶えてみせると誓った。


「でも、どうすりゃいいんだろうなー」


 俺は仰向けになり、天井を見つめる。


 そもそもそれが可能であるなら、俺は諦めたりしていない。

 前世では彼女を助けられるルートがないか、何十周も周回した。


 そしてこの世界では、決められたシナリオから逸れようとしても、世界によって修正される


 その上、今の俺は噛ませキャラのリゲル=ヴィルヴァレン。打てる手は限られてくる。


 可能性があるとすれば三つ。

 一つは俺、もしくはセイヤが強くなり、天使の力を上回ること。


 だが問題は、それが不可能に近いこと。


 そもそもリゲルは噛ませキャラだ。入学時のセイヤにすら遠く及ばない。

 そしてユリアを殺す『第一の天使』メタトロンは、そのセイヤですら圧倒する力を持つ。


 天使の襲来まで約一ヶ月。戦力差は、たかが一月(ひとつき)修行した程度でどうにかなるものじゃない。


 一応、一月(ひとつき)で天使を上回る修行場所がないこともないが、場所が遠い上、仮に一ヶ月修行したとしても、その技を習得出来る可能性は極めて低いだろう。


 二つ目は天使の襲来よりも前にセイヤの覚醒を促すこと。


 セイヤはユリアが死んだことで覚醒し、天使を上回る力を発揮する。

 その要因は怒りだ。ユリアを殺した天使への怒り、彼女を守れなかった自分への怒り。

 それらが彼自身の持つ秘めたる力を引き出すこととなる。


 つまりはユリアが死んだ時ぐらいの怒りを主人公から引き出せば、主人公を覚醒させることが出来る。

 まあ無理だな。


 覚醒は並大抵の怒りでは到達しない。もしただ怒るだけでいけるのなら、昨日の時点で覚醒しているはずだ。

 それこそ、ヒロインが殺されるぐらいじゃないと無理だろう。


 三つ目は、援軍を要請することだ。

 学園にも、『第一の天使』程度なら倒せる戦力は存在する。が、天使襲来の日にはその全員が何かしらの理由で遠出しているのだ。


 正直出来すぎているが、ゲームなのだから仕方ない。あの場面で主人公よりも上の戦力を残すわけにはいかないしな。


 だが、もし可能性があるとすればここだ。

 世界の修正力が及ぶ可能性は高いが、他の二つよりはまだマシだろう。


 これしかないか。

 とりあえず明日学校に行き、あの人達に頼んでみよう。


 俺は布団に包まり、静かに目を閉じた。


 

☆★☆★☆



 さて、ここでこのゲーム、『NEXT BRABE(ネクストブレイブ)』について少し説明しておこう。


 このゲームにはRPGに加え、ギャルゲーの要素も含まれており、主人公は五人いるヒロインの中から一人を選び、パートナーとして戦っていくこととなる。


 そしてヒロインの内二人はクラスメイトである。


 俺は自分の席で授業の準備をしながら、左手後ろの少女に目線を向けた。


 腰まではあろうかという白髪のロングヘアー、エメラルドのように輝く碧眼に、雪のように白い肌。

 ゲーム内でも圧倒的人気を持つ王道ヒロイン、ユナ=シャルイース。


 名前の通りシャルイース王国の第一王女で、箱入り故の天然さと、ヒロインらしい清楚さを兼ね備えるあざとさの化身だ。


 ユナのストーリーは身分差故の恋の難しさに焦点が当てられ、これまたプレイヤーから人気が高い。

 まあ、俺は若干ユリアとキャラが被っているので好きではないが。


 そしてもう一人のヒロインが右後ろにいる公爵令嬢、ツキノ=クレイドル。


 その毛量はどこから来たんだとツッコミたくなる程の金髪縦ロールと、灼熱のように燃える赤眼を持つヒロインだ。


 彼女のルートでは、使用人のレイネ=ルーズベルトとの三角関係が描かれる。

 最初は嫌悪するものの、やがて惹かれていくセイヤとツキノだが、その横でレイネも主人公に想いを寄せ始めるのであら大変。


 最後はツキノと結ばれるものの、キャラ人気はレイネの方が高かったりする。


 そして横にいるのが使用人のレイネ=ルーズベルト。


 赤髪のロングツインテールと、ツキノと比べると少し紅色に近い赤眼を持つ、おっとり系の少女だ。常に眠たげで、使用人にも関わらずミスが多い。


 サブヒロインながらメインヒロイン級の容姿の良さと、そのドジっ子属性から、ユリア同様かなりの人気がある。


 クラスでは主人公以外唯一の平民ということもあり、平民ながら最強へと登り詰めていく主人公に好意を抱き、やがて主人のツキノと衝突することになる。


 そして日常会話ではよく、


「レイネ、魔法学の教科書を出しておきなさい」

「……はい。お嬢様」

「…………レイネ、これは魔法学ではなく冒険学よ」


 と、お馴染みの流れを繰り広げている。

 主人と従者ながら、主人の方が従者の言動に振り回されるという一風変わったやり取りから、百合カップリングとしての人気がすごく高い。


 そしてもう一人、ヒロイン以上にこの世界にとって大事なキャラクターが存在する。

 それは────


「ちぃぃぃぃぃこぉぉぉぉぉくぅぅぅぅぅだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 叫び声を上げながら、一人の男が教室に滑り込んでくる。


 派手な黒髪が特徴的な、少年漫画の主人公のような風貌をした少年だ。

 背中には一本の剣を携えており、貴族然としている他の生徒達と比べ、異質な雰囲気を醸し出している。


 説明するまでもないだろう。彼こそが平民ながら実力でこの学園へと入学し、やがては世界を救う救世主となる男。


 『NEXTBRABE(ネクストブレイブ)』の主人公、セイヤ=バルパスその人だ。


 入学式の時から思ってたが、こう見ると確かに浮いてるなー。貴族から目をつけられる理由も分かる気はする。


 ぜぇーぜぇー言いながら壁に倒れ込むセイヤ。どんだけ飛ばしたんだ一体。

 そんなセイヤの元へ、ユリアが駆けつける。


「ありがとうユリア」

「どういたしまして。それよりもうすぐ先生来るよ。席に着いておかないと」


 セイヤはクラスで浮いた存在だ。それ故に現時点では友と呼べる存在がほとんどいない。

 その中で唯一彼と親しくなるのがユリアだ。


 公爵令嬢という高い貴族位にいながら、平民のセイヤを差別せず、孤立している彼に寄り添うという性格の良さ。女神だ。


 公式よ、何故彼女と結ばれるルートを用意しなかった!

 席に座るべく、階段を上がってくるセイヤ。


 そんな彼を目で追っていると、ふと彼と視線が交差するのを感じた。


「…………」

「…………おはよう」


 俺がそう発すると、クラス中の視線が俺とセイヤに向けられた。

 リゲル=ヴィルヴァレンはセイヤ嫌いの筆頭。昨日はそれが理由で決闘まで繰り広げた……ことになっている。周りの反応も当然だ。


 予想外な返答が返ってきたため、少し呆けていたセイヤだが、気まずそうな表情で「おはよう」と言い、席に着いた。


 周りを見ると、俺やセイヤを見ながら、コソコソと話しているのが見える。


「どうしてしまったんですか、平民と挨拶するなんて」


 横に座っている豚野郎が小声で問うてくる。


「ま、まあな。たまにはいいかなと」


 そんな俺の回答に、訝しげな表情を作る豚野郎。


 ものすごく歯切れの悪い回答になったが、仕方ないだろう。リゲルからすればあり得ない行動をしてしまったのだから。


 でも、俺としてはセイヤを差別する理由はない。出来るなら仲良くしたい。

 本来のリゲルからは離れた行動になるが、そもそも運命を変えようと考えているのだし、リゲルらしさに拘っても仕方ない。


 そういえば、今回は普通に言えたな。ゲーム本編に関わりがあること意外は世界の修正力は働かないのだろうか。


 思わぬ収穫を手にし、リゲル=ヴィルヴァレンとしての学生生活が幕を開けた。


 背後から寄せられる視線に気づくこともなく。

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