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旅の始まり

(原初の神が生まれたんだったら、後はいろんな神話のように動物や人間、まあ人間じゃない場合もあるが、兎も角そう言ったものが生まれてくるんだよな。もう俺って必要ないよな)


 俺は肉をほおばりながら、ユニに尋ねる。


(とんでもございません。原初の神はあくまでもその世界の根源というだけでございます。根源であるゆえに全てを含み、混沌としています。意志というものが無いのです。このままでは何千億、何千兆年経とうと、世界はただ単に星が生まれ消えていくだけの世界のままです)


(そういうお前は意思があるようだが……)


(私も元々は意思のない存在です。それが分裂し、世界の根源となり、それが更に分裂し個々の意志が生まれるのです。私は一部を引き継いだだけであり、貴方様という依代があるからこそ意思が有るのです)


(分かったような分からないような……まあいい。そういや星が生まれて、惑星も生まれるだんろ?その中の条件の良い惑星に生命が生まれて、進化するんじゃないのか?)


(そういう法則が作られた世界でしたらそうでしょう。ですが、法則自体が作られなければそうはなりません。今ある法則はまだ、光りという存在とそれを生み出す星、それに附属する惑星が生まれたにすぎません)


(面倒くさいなぁ)


 大体なんで俺がこんなことをしなきゃならないのか。もう何度自問自答した事か。未だに答えは出ない。分かっていることは他にやれることがない、ということだけだ。


「あの、つかぬことをお伺いしますが、ヴィル様と違う存在の気配を感じるのですが、もしかして私たち二人の他に誰かいるのでしょうか?」


 どうやらルイーダはユニの存在に気付いたらしい。いや、もしかしたら最初から気付いていたのかもしれない。様子からすると、勝手に心の中を覗かない、という約束は守られているようだ。


「なんでもお前が滅ぼした、前の世界の一番上の存在らしい。力はほとんどないそうだが、俺の知らない知識を持っているからな。取りあえずは辞書代わりにしている」


 俺は正直に答える。ごまかすこともできたかもしれないが、それも面倒くさい。


「なるほど。その存在は女性ですか?」


「性別はないんじゃないか。一度夢の中で姿を見た時は女だったが、見苦しくない形をとった、というふうな事を言ってたからな。それに俺も、どうせ心の中に住まわせるのだったら、男より女の方が良い」


「そうですか……まあ、ヴィル様がそうおっしゃるのでしたら……」


 なんだろう。一瞬殺意に満ちた視線を感じた。俺に向けられた殺気ではなかったから、きっとユニに向けたものだろう。なるべく会わせない方がよさそうだ。


「それよりも、景色が随分変わったからな。様子を見て回りたい。見て回らなくても、お前がすべてを把握しているのなら、説明してもらえばそれで良いがな。この世界が出来たのはお前の力によるものらしいから、概要ぐらいは把握してるんじゃないか」


 昔はよく冒険をしていたが、もうワクワクするような気持ちはない。手っ取り早く情報が得られるのならそれで構わなかった。


「……すみません。良く分かりません。そもそも私が作ったとおっしゃいましたが、私は作った自覚が無いのです」


 ルイーダは困ったような顔をする。


「探索の魔法なんかは使えないのか?」


「ええっと、その、申し上げにくいのですが、ヴィル様ほどの力が無いと存在を見つけられないのです。個々の人間を探し出して一々殺すのではきりが無いので、世界ごと破滅させてきましたから……」


 ルイーダは恥ずかし気に顔を赤らめて、とんでもないセリフを吐く。


「では少なくともこの惑星上に、俺以上の存在と言えるのはお前と俺の中にいる存在だけなんだな」


「そうなりますね。それに時間はいくらでもあるのです。このまま旅に出るのも良いと思います」


 俺は一刻も早く目の前の化物から解放されたいが、相手はそう思っていないようだ。敵意を持たれて消されるよりましなので、いう通りにすることにする。我ながら情けないが仕方がない。


「それじゃ、そうと決まれば、出発しましょうか。どちらに行きましょう。棒を立てて倒れた方向、なんてのも良いかもしれませんね」


 どことなくはしゃいだ様子で、ルイーダは棒を立て始める。こいつ実はこの世界の事を分かっているのに、俺を騙しているんじゃないだろうな、という疑念がぬぐえない。だが情けないことにそれを確認する手段がない。


「では、手を離しますね。……これは日が昇ってきた方向ですね。ヴィル様、この方向で宜しいですか?」


「ああ」


 俺は簡潔に答える。旅をするならその衣服はどうなんだとか、背負い袋の一つも用意しないのかよ、とかいろいろ言いたいことは有るが、どれも目の前の非常識な存在に比べれば些細な事だ。どうとでもなるだろう。

 大きな諦めの上に、ほんのちょっとの好奇心を無理やり乗せて、俺達は歩き出した。


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