ドラゴンに囚われた悪役令嬢、必死に命乞いをする
私はマルゲリータ。つい先ほど巨大なトカゲに囚われてしまいました。
巨大なトカゲは赤々とした鱗を持ち、肩までの高さでも軽く10メートルはあります。私などその気になれば一飲みでしょう。
だけど、私は王宮一の悪役令嬢と言われる女。この程度のことで諦めたりはしません!
ドラゴンは私を見下ろすと言いました。
「なかなか旨そうな獲物が手に入ったものだ……まずは腕から行くか」
「お待ちくだされ陛下」
そう礼儀正しく声をかけると、ドラゴンは蛇のような目を細めました。
「なんだ?」
「わたくしを召し上がるのでしたら、もっと美味な食べ方がございます」
「ほう……申してみよ」
どうやら、ドラゴンは私の話に耳を傾けたようです。これなら最低でも時間稼ぎくらいはできるかもしれません。
「まずは、大きなお皿がご用意ください。そこに前菜として陛下のお好きな野草をたっぷりと用意します」
「草は好かぬ!」
な、なかなか不機嫌そうな声ですね。普通の小娘ならこれで怯えるところですが私は王国きっての悪役令嬢。この程度のことでは引き下がりません!
「お言葉ですが陛下。肉をお召し上がりになられる前に野菜を食べるのは健康に良いのです! この掟を無視なさいますと……美しい陛下のお体に、ブヨブヨとしたお肉が……」
ドラゴンは低い声で唸りました。
「むう……用意すればいいのだろう用意すれば!」
ドラゴンは私の言った通りに前菜を用意しました。次はスープを用意させましょう。
「終わったぞ」
「では、次はスープを用意してください」
そういうとドラゴンは苛立った様子で私を睨みました。
「まだあるのか!?」
「当然でしょう。こう見えても私は貴族の令嬢なのです。私を美味しくいただくためには、それ相応の準備というモノが必要です」
ドラゴンの目尻には血管が浮き出ました。
「うるさいぞ小娘! 今すぐに喰ってやる!」
ドラゴンは私をわしづかみにすると、口を大きく開きました。普通なら泣き叫ぶところですが……あいにく私は普通の娘ではありません。
「まあ、はしたない」
ドラゴンの動きがピタリと止まりました。
「おい、どういう意味だ?」
「慎みがない。みっともないという意味でございます。陛下は大変美しい鱗やタテガミをお持ちですが、そのようなふるまいをなさいますと……鱗やタテガミが泣きます」
「う……うう……うぐ……!」
ただでさえ赤いドラゴンの顔が、恥ずかしさからでしょうか。ますます真っ赤になりました。
「わかった。非礼を詫びよう……で、どうすればお前を文化的に食することができる?」
私は心の中でホッとしながら言いました。
「前菜は既に用意して頂いたので、今からスープ、魚料理、お口直しのソルベ、肉料理、そして最後にデザートとして私をお召し上がりいただきます」
ドラゴンはとても嫌そうな顔をしました。まあ、気持ちはわかります。何で私がそんな面倒なことをしないといけないんだと言いたいのでしょう。
「ええい。興がそがれた……どこになりとも好きな場所に行くがいい」
なんと。この程度のことで解放してもらえるとは……とても嬉しいですが、何というか張り合いがありません。
それに、こんな森の真ん中で放たれても私を待っているのは死。運よく国に戻ってもドラゴンにさらわれた傷物として、まともな婚約相手が見つかるはずもありません。
「あの、陛下……」
「何だ、まだ何かあるのか!?」
「高貴な竜になると、人の姿になることもできると聞き及んでおります。もし……陛下が人の姿になれるのでしたら、一度で良いのです……お姿を見せてはいただけませんか?」
「……いいだろう」
少し煽ててみたらドラゴンは本当に人の姿になって……
……………う、美しい!
背がすらりと高く、目は切れ長く、鼻筋がしっかりとしているうえに、顔のバランスも絶妙です! この整った顔立ちを見てしまうと、王宮の貴族の男たちさえジャガイモのようにしか見えなくなってしまいます。
「へ、陛下……あの……えへへへへへ……」
「や、やめろ……娘、こら、は・な・れ・ろ!」
こうして、ドラゴンにさらわれた私こと悪役令嬢ですが、さらったドラゴンと一緒にいつまでも幸せにくらしたのでした。
めでたし、めでたし……
「めーでーーたーーーくーーーーねーーーーーぇーーーーーーっ!」
笑った!
また別の作品も書いて欲しい!
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