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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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死ねたかもレポート

作者: 金川明

 死にたくて、生きていたくなくて仕方がなかった僕は、持っていた睡眠薬をすべて飲んだ。

 眠くはなかった。むしろもやもやしていた頭の中がすっきりと晴れて、清々しい気分だった。

 あれは不思議な感覚だった。

 医者に出されたその薬は、睡眠薬じゃないんじゃないかと本気で思った。こんなことならもっと早くこうしていればよかったのだ。十分ほどたっても相変わらず眠気はまったくなく、僕はたしかな足取りで公園に向かった。

 公園には小さな子どもと父親らしき大人がいて、はずむボールを投げて遊んでいた。

 僕は二つあるうちの、奥にある方のベンチに寝そべって空を見上げた。

 心情を天気で表すなんてありきたりな表現だけど、空はまさしく僕の心の中のように雲一つなく、青く澄んでいた。ただ、こうして仰向けになって見つめたところでまぶしくはない。どうしてか、春だというのに日差しが弱かった。

 かげりはないが、光もない。四月の空はことごとく僕の心境を映し出していた。

 睡眠薬を全部飲んでしまったところで、何かが変わるわけではないのだ。

 ただ、飲んでから三十分ほどたってようやく効いてきたらしく、僕は睡魔に襲われた。このまま目が覚めなければいいと思ったが、目を閉じる気にはなれなかった。

 自分から閉じなくてもおのずとまぶたが重くなって、自然と眠りにつけるに違いない。そう思って一面に広がる薄い青をぼんやり眺めているとそのうち寝返りを打ちたくなった。

 狭いベンチの上とはいえ、できないことはないはずだ。僕は仰向けの状態から体を九十度回転させて横たわろうとした。

 けれどできない。しようとしている感覚はあるのに、体がぴくりとも動かなかった。

 視界はまっさらな青一色。遊んでいたはずの親子の声も、公園のそばを横切る車の音も聞こえない。体はやはり動かないし、まばたきすらできない。

 かといって目が乾くかといえばそんなことはなかった。正確な時間はわからないけど、そんな状態がしばらく続いた。

 僕はこのとき、死んだのかもしれない。

 だとしたら、そのあと眠りに落ちて何時間後かに目を覚まし何事もなく元の生活に戻った僕は誰だ? 死んだ僕はどこへ行った? 異世界にでも行ってチートハーレムでもしているのか。だとしたら僕も睡眠薬を(むさぼ)ろう。

 なにせ、何かが解決したわけではないのだ。死のうとして失敗した。おかげで死ぬ気が少し紛れた。今はそういう状態なだけで、僕はまた繰り返すだろう。

 それとも、僕はもう死んでいて、この世界で生きている気になっているだけかもしれない。

 慣性の法則じゃないけれど、生きていたそれまでの反動のようなものに引っ張られてその後の記憶らしいものを妄想しているだけで、僕はとうに死んでいるのかもしれない。だとしたらそれはじわじわと衰えて、やがて消滅することになるだろう。そのとき僕は本当の死を迎えるに違いない。


 もうこんな体験はごめんだ。

 だから、もう死んでいるのだと、願いたい。

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