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18話 篠原さんとデート



 金曜日の放課後。


 俺は都内の駅前の有名な待ち合わせスポットに立っていた。


 金曜日は女優の篠原さんとのデートの日だ。



「夜まで仕事が入っているから、デートはそのあとにしましょう」



 そう電話で伝えられて、放課後は適当に時間をつぶして今に至る。


 あ、ちなみにラインはアンインストールした。


 みんなめちゃくちゃメッセージを送ってくるし。

 約一名は4ケタ単位のメッセージを送ってくるし。


 さすがに対応しきれない。


 皆を説得し、ラインによる連絡を辞めることにした。


 その代わり、毎日一人10分間電話することを約束させられたけどな。


 恋人としては1日10分は短いかもしれないが、7人もいるのだ。

 合わせて1日最低70分電話することになる。


 しかも、毎日1回デートをした上でそれをしなきゃいけない。


 そう考えると1人10分は決して短くはないし、楽ではない。


 まあ、とはいえ無節操にメッセージとか電話とかかけられるよりはずっとマシだった。




 待ち合わせ場所の都内の駅前で待っていると、向こうから夜なのにサングラスをかけた人が来た。

 

 篠原さんだ。


 いや、夜にサングラスって。

 変装用だとはわかるけど、それでいいのか?

 

「篠原さん。それ、逆に目立ってますよ」


 昼ならまだしも夜だし。


「え、そ、そう? 完璧な変装だと思ったんだけど」


 いや浮いているぞ。

 周りの何人かがチラチラ篠原さんを見ていたし。


 篠原さんはサングラスを取る。


「変装をするなら時間とか場所に合ったやり方にした方がいいと思いますよ」


「まったく。素人のくせにわかったようなこと言っちゃって」


 篠原さんが俺の腕を取る。


「行くわよ。レストランを予約しているから」


「はい」


「あ、ちょっと待って」


「え?」


 呼び止められて篠原さんの方を向く。

 すると、彼女の綺麗な顔が近くにあった。



「隙あり」



 チュッ。


「んっ……」


 そのまま近づいてきて、唇同士がぶつかる。

 篠原さんとキスをした。


「それじゃ、いきましょうか?」


 篠原さんはすぐに顔を離す。


 そして手を繋いだまま篠原さんはスタスタ歩き続ける。


「ちょ、待っ」


 篠原さんは心なしか早足だった。

 手を繋いでいる俺は引っ張られて躓きそうになる。


 いったいなんなんだ。

 いきなりキスしたかと思えば、いきなり早足になって。


 足早に歩く姿は、俺に横に並ばせないようにしているようだ。

 その様子を見て俺はあることに気づく。



「篠原さん。ちょっと顔見せて下さい」


「なぜ? 別にいいでしょこの後いくらでも見れるわよ」



 そう言って、足を止めないでスタスタ進み続ける。


 しかし、後ろからチラリと見えた耳が真っ赤になっていた。


 あ、これあれだ。

 篠原さん。自分の行動に照れて顔真っ赤にしているんだ。


 顔どころか、耳まで赤くなってしまっている。


 照れるくらいならやらなきゃいいのに。



「もしかして照れてるんですか?」


「照れてない」


「嘘ですよね」


「そんなことない! 早く行くわよもう!」







「いい? 別に私は照れてるわけじゃないから。勘違いしないでくれない?」


「わかりましたよ」


 レストランに着いた後も、篠原さんは言い訳を続けていた。


 そうしていつまでも気にしていることが、照れていたという証左だと思うのだが。

 それに彼女は気づいてもいない。


「だいいち、私があんなキスごときで照れると思う? あの程度のフレンチキスなんて、私はいくらでも経験が――」


「あるんですか?」


「――まあ初めてだけどっ」


 そして先ほどのことを思い出したのか、再度頬を赤らめてそっぽを向く。


 可愛い。


 この人、墓穴掘りまくってるなあ。



「わ、私のことはいいのよ別に。それよりあなたのことよ」


「俺?」


「ええそう。あれ以来、他の人たちとはどうなの? キスとかデートとか色々してるんでしょ?」


「え、ええ。まあ」


 篠原さんの言葉に、俺は昨日と一昨日のデートやキスを思い出す。


「してますよ」


「……してるんだ」


 篠原さんはそれを聞くと顔をうつむかせる。


「なんで自分できいておいてちょっと落ち込んでいるんですか」


「別に落ち込んでないし」


「目を見て話してくださいよ」


「落ち込んでないってば」


「……ひょっとしてお酒飲んでます?」


 会ってからというもの、今日はやけに変なテンションだ。


 酒でも飲んでいるのだろうか。


「飲んでるわけないでしょ。まだ未成年なんだから」


「未成年でもお酒飲むことはなくはないと思いますけど」


 主に大学生の飲み会とか。

 お酒を飲むのは20歳から、と律儀に守っている人も少ないだろう。


 俺はまだ高校生だから、それはあくまでイメージの話だけど。


「ほら、ドラマの打ち上げとか飲み会とかありますよね?」


「打ち上げはあるけど、周りが飲まさせないわよ。芸能界は最近そこらへんうるさいから」


「じゃあ飲んでいないんですか」


「当り前でしょそんなこと」


 じゃあ素面でそのテンションなのか。


 しかし。

 さっきから篠原さんはやけに落ち着かないな。

 チラチラこちらを見てくるし、しきりに前髪や服の襟元を触っている。


「もしかして緊張してます?」


「緊張?」


 ふふ、と彼女は笑う。


「してるわけないでしょそんなの。私を誰だと思っているの? 日本を代表する若手女優である篠原葉流よ? 数々の大舞台に立った経験を持つこの私が、そんな彼氏とデートをする程度で緊張なんてするわけ――」


「でもナイフとフォークの持つ手が逆ですよ」


 普通は右手にナイフ。左手にフォークだ。

 でも彼女は左手にナイフをもち、右手にフォークをもっている。

 

「ひ、左利きなのよ」


「いや右利きですよね。嘘つかないで下さい」


「今日から左利きになったの」


「嘘がどんどん辛くなっていく……」



 やはり緊張しているようで、言動がおかしい。


「緊張なんかしてないわ! この後のことだってちゃんと――」


「この後?」


「な、なんでもないわよ……」



 大声を出したかと思えば、いきなり大人しくなる。


 怪しいな。

 これは何かを企んでいるに違いない。 




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