魔女の箱庭〈其の三〉
魔女の箱庭〈其の一〉は『死にたがりと隊長の話』の最終話。
魔女の箱庭〈其の二〉は『不死身少年と亡霊男』の最終話。
それぞれ掲載しております。
「ちょっと魔女様、俺でお遊ぶのはやめてよ」
紅茶の水面から立ち昇る湯気の向こう。大きな水晶に映し出された一連の犬変身事件を、青年は苦笑いしながら見ていた。
向こう側の席でフフッと笑った魔女は、紅茶に口をつけてから話し出した。
俺で遊ぶのをやめてという青年の顔は魔法で犬にされた彼と同じ顔だ。双子というわけではなく、彼はサンではない別のサンだった。
別の世界線の自分がおちょくられているのを見るのは、面白いが複雑のようだ。
「面白かったでしょ?」
「まぁ、でも俺の顔だからなぁ」
「あら、あなたも犬なってみる?」
「ご勘弁を、俺は自分で犬に変身できるし」
「ふふ、そうね」
彼を犬にしたは遠隔で魔法かけた魔女である、それも面白半分で。
魔法使いのお茶会の話題にするために、犬へ変身させられてしまったわけだが、向こうからこちらを認識することはできない。
彼ら魔法使いは、ただの魔法使いではなく。ある一定の領域を超えてしまった高次元の魔法使いだった。
現に向こう側で唯一の魔法使いであるリーにも『犬の変身の呪い(呪いではないけれど……)』を解けるだけで、かけた者まではわからないようだ。
魔法使いといえど、力量が全然違うのだ。
ストロベリーのフレーバーが詰まった紅茶の香りを楽しみながら、魔法使いのサンに魔女は再び笑った。
「ふふ、でも犬の姿は可愛かったわね」
「えー、俺はそんなに犬っぽいですかね」
「そうね、人懐っこいもの」
「はは、ご冗談を。そういう魔女様は……カラスかな」
「あら。綺麗な鳥に私を例えてくれるのね。嬉しい」
「ええ、俺も綺麗な鳥だなって思いますよ」
静かに置かれた茶器の澄んだ音と、庭の木々が風揺れる音が穏やかだ。
箱庭は永遠に時が進まず、魔法使いたちの永遠の時間を埋めるために作られた場所だった。
そうして暇になると、片手間に別の世界を覗いている。
魔力も時間も考えれば、とんでもない暇つぶしだ。
「リーズも一緒に見る?」
「……いい」
「あらら」
高次元の会話を聞いている子供の姿をしたリーズは、魔法使いのサンにそう言われても、プイッと魔法書に目を戻してしまう。
「じゃあ魔女様、次は俺の番ね」
「あら、あなたが犬になるの?」
「違います、俺が変身させる側ですよ」
そう言って魔法使いのサンは、水晶の手前に両手を広げた。
「どーれ。みんな、どんな反応するのかなー」
「ふふ」
また魔法使いの悪巧み(?)と暇つぶしが始まる。
(やれやれ。そこの世界線の俺たちは動物の気持ちになれて、楽しそうだな)
と、リーズは遠い目のまま魔法書をめくり続けた。
息抜きとんでもルートです。
書いてて楽しかったです、まぁ他の話は軽く追加して創作本に突っ込んでおく予定です。