エピローグ
「姫! お待ちくだされ!」
忍者影丸のしゅたたたた!も、さすがに黒毛の若駒には敵わない。
ましてやその手綱を握るのが、お転婆な姫とあってはなおさら。
幻夢斎との戦いから半年後。
影丸は晴れて一人前の忍者と認められた。今では変わり身の術も五回に四回アタリをひけるようになったし、辻風返しでコマみたいにまわり続けるなんてヘマもしなくなった――多分。
切り通しを抜けて、山間の道から丘を下ると、小さな村が見えてきた。
道の脇で小川で次々孵化するオタマジャクシを見つめている童に、
「姫を知らぬか? 鹿の行縢に弓を手にしているのだが」
と、きくと、
「あっちじゃ」
と、指を差した先には緑樹と灌木でいっぱいの谷があり、またひと苦労しそうだと、影丸は首をふる。
「姫のお転婆にも困ったものだ」
しゅたたたた!と走ると、その村の外れに小さな祠があるのが見えた。
水路が交わるところに建てられたもので大きな森を後ろに抱え、その樹のあいだからは鹿が無邪気な顔でこちらを見ている。
「ふむ――祀るものがないのか」
影丸は褒賞としてもらった鏡をその祠に奉納し手を打った。
「道祖伸に申し上げ奉る。この鏡を後世に伝え、邪な意思を討ち果たす力とならんことを」
神さまに頼んだら、次は子どもを集める番だ。
忍術を応用した簡単な火の手品、それに唐の奇術で子どもを集めると、影丸は忍法伝え物語七転八倒を使った。
説明しよう!
忍法伝え物語七転八倒とは自身が体験した出来事を七転八倒面白おかしく伝えることにより伝承として残し、未来の自分たちの助けにせんとする忍術なのだ。後世へと紡がれていくうちに起こらなかったが起これば楽しいことが話に加わり、その物語の豊穣をもってして、伝えることの楽しさ、醍醐味をも伝え、誰もが物語について、こういうことができるのだ――おれはそこにいて、確かに見てきた。さあ、きいてくれ!
〈おしまい〉




