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俺の名前はッ!

『……神の子』

『預言がまさか、こんな形で実証されるとはッ!!』

『天界……』

『そんな、そんなことが……ッ!!』

『これが、天の意志……』


 魔術の実験をするクリスの後ろで、オッサンがいちいちうるさい件。


(なにあの人、怖い)


 一人で泣いたり驚いたり頭を抱えたりしている。


「情緒不安定なのかな?」


 関わらないほうが良いか。

 しかし、この空間はそこまで広くない。

 無視をしていても、どうしても声が聞こえてしまう。


(邪魔だなあ)


 クリスは魔術の実験に集中したいのだが、声が聞こえるたびに気が散ってしまう。

 なんとか彼を排除出来ないだろうかと考えて、クリスは思い直した。


(もしかして、構ってほしいのかな?)


 チゲェが自分の部屋に現われた理由がこれまでわからなかったが、『クリスと遊びたかったからだ』と考えると、彼がクリスに執着する理由に一定の説明がつく。


「なるほど。おじさんは遊びたかっただけなんだ」


 ぽんと手を打った。


 先ほど彼の全身は、謎の影に覆われていた。

 しかしその影は、クリスが突き飛ばしたら途端に消えた。


 ――少し構ってあげたから消えたのか。


「チゲェさんは、遊んでくれないと体から影を出してしまう体質なのかな?」


 だとしたら、大変だ。

 影が出ないように遊んであげなければ!


 しかし、クリスはこれまで、大人と遊んだ経験がない。

 遊び方がわからない。


 どうしようと頭を悩ませていたときだった。


「まさか……本当に、神の子なのか!? この空間は、神域は、だから展開出来たのか! くそっ、だったらマハ・カマラ如きでは太刀打ち出来るはずがない!!」


(なるほど、そういう遊びね)


 相手の言葉からヒントを得た。

 この話に、クリスは乗っかることにした。


「……やっと気付いたの?」

「――――ッ!!!!」


 チゲェが目を見開いた。

 その様子は、まるで無視されていた子どもがやっと遊び相手を見つけた表情のようだった。


(うんうん、この路線で正解、と)


 クリスは続けて、意味ありげに手を顔の前にかざす。


「気付いてしまったなら仕方がない。これは仮初めの姿。僕にはまだ、二つの姿が残されている」

「や、やはり――!!」


 神話の設定を適当に口にしたところ、チゲェが興奮した。


(神話でごっこ遊びなんて久しぶりだなー)


 相手が求めているものを掴んだクリスは、ノリノリで続ける。


「僕の後ろには三千の世界、三万の天兵が付いている。降伏するなら今のうちだよ」

「く、そ……。神の子が相手じゃ、勝ち目は薄い、か」

「うんうん」

「だが、な。オレにだって、生きる権利はある!」

「うんうん」

「たとえテメェが神の子だろうと、こちとら宵闇の翼の幹部に(たま)握られてんだ!」

「う、うんうん?」


 宵闇の翼?

 クリスは首を傾げる。

 神話にはない固有名詞だ。


「どうせ死ぬなら潔く、討ち死にするのがオレの生き様よ!」

「うん?」

「ゴズ、ネークス、ルイゼ、皆……。オレに力を貸してくれッ!!」

「んん?」


 クリスは話の流れが見えず、かといって今更お遊びを辞めるのも相手を怒らせそうなので、父から教わった『どのような状況にも対応出来る態度』を取りながら、様子を見守る。


 チゲェは足下に落ちていた短剣を拾い、それを腰だめに構えた。

 間違いない。

 完全に、クリスの命を獲る気だ。


 なんとか思いとどまるように、クリスは手を前にかざした。


「ま、待って落ち着いてチゲェさん!」

「最後までとぼけ倒す気か。だが、いいぜ、これが最後だ。きちんとテメェの脳裡に、オレの名前を刻んでやる。死ぬまで忘れられねぇようにな!」


 チゲェが足に力を込めて接近。

 クリスに肉薄する。


「オレの名前は――」


 チゲェが叫んだ、その時だった。


『...充填完了!』

『......対悪魔用決戦兵器...悪魔の黄昏(ラグナロク)...発射』


 ぴこん、という小気味よい音と共に、スキルボードが出現。

 次の瞬間。


 ――カッ!!


 クリスが前にかざした手から、真っ白い光が放出された。

 音が、空気が、空間が、世界が――浄化した。

最後まで名前を言わせて貰えないザ……チゲェさん、かわいそう。

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新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
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