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貴族の三男、でくの坊から最強魔術士へ。パラメーターを調節して、すべての魔術を魔改造! ~気ままに遊んでいるだけなのに、何故か評価が上がっていく件について~  作者: 萩鵜アキ
一章 天才誕生 ~無意識に問題解決編~

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またおまえか!

 この報告如何では、息子との別れを惜しむ時間もないだろう。


「許す。続けよ」

「はっ! 北の山で発生したスタンピードと思しき魔物の集団ですが、先日、壊滅しました」

「「「…………はっ?」」」


 三人の喉の奥から変な声が出た。

 想像もしていない報告に、頭が追いつかない。


「え、ええと……スタンピードが、全滅? 全軍、我が街に侵入、ではなく?」

「はい。あの、実際に目撃したわたしも、未だに信じがたいことなのですが……」


 スタンピードが壊滅。

 その報告は、どうやら事実のようだ。


「では何故壊滅を? よもや、災害か?」

「いえ…………」

「どうした? 何を言いよどんでいる?」

「あの、実際にわたしは目にしたのですが、もしかしたら信じて貰えないかもと思いまして……」

「良い。今は緊急時だ。見たことをそのまま告げよ」

「はっ! わたしが、スタンピードの先頭を確認したときでした。空を飛ぶ少年が現われまして――」


 その報を聞いたヴァンが、激しく項垂れた。

 どうやら頭の中に同じ顔が浮かんだらしい、ヴァンの横では、二人の息子もがっくり項垂れている。


 いま、三人の心が一つになった。


(((……あいつか)))


「そのぅ、少年が巨大な炎を放って、一瞬ですべての魔物が壊滅してしまったのです」

「ああ、うん、まあ、そうだな。信じがたい光景だが、うむ、信じよう」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、よく頑張った。危険な任務、ご苦労であった。ヘンリー、この者の今月の俸給に、危険手当を加えてやってくれ」

「はっ、了解しました」

「ありがとうございます!! ……それにしても、あの少年は一体」


 伝令が首を傾げた。その時だった。

 再び扉が開かれ、三人目の息子が現われた。


「父さん、ちょっと相談があるんだけど――」

「あっ!! こ、この子です。空を飛んでいたのはッ!!」


 クリスを見た伝令が、眦を決した。

 これで、空を飛ぶ少年の正体が確定だ。


 激しい疲れを感じつつ、ヴァンはギリギリの精神状態で言った。


「クリス。お前には、聞きたいことが、山ほどある……ッ!!」

「えっ?」

「だが、そうだな。その前に、まず伝えるべき言葉を告げよう」

「はあ……」


 領主としての様々な怒りを嚥下して、ヴァンは素の表情を浮かべた。


「……よくぞ無事に戻った。お帰り、クリス」

「はい、ただいま父さん!」



          ○



 家に戻った後、クリスは何故かヴァンにこってり絞られてしまった。


 言葉を聞き流しながら上の空の返事を繰返していたので、ヴァンが何故怒っていたのかがわからない。

 だが、これだけ怒っていたが、ヴァンは自分を咎めていないことだけはわかった。


 幸いだったのは、アレクシア帝国への侵入がバレていないことだ。

 これに気付かれたらと思うと、クリスは気が気ではなかった。


『頼む。なにかやるときは、先に教えてくれ……』


 その言葉を最後に、クリスへの説教タイムは終了したのだった。


 説教が終わった後、クリスは父に新たに一名家人を雇用したことを伝えた。

 家人への給金は、すべてクリスの懐から支払われる。

 なので、これは父へのお小遣い増額の願いでもあった。


「お前も、ずいぶんと功績を挙げているからな。小遣い程度、喜んで増額しよう。して、その者は使えるのか?」

「僕より剣が上手いです」

「……お前と比べられた奴が哀れだな」

「何故です?」

「わからんのか?」

「嫉妬ですか」

「んなわけあるかッ!!」


 冗談で場を和ませてから、クリスは執務室を後にした。

 無事、お小遣い増額成功。これで新人への給金支払いも大丈夫だ。


 クリスはその足で、屋敷の隅っこにある、しばらく誰も使っていない部屋に向かった。

 扉をノックし、ノブに手をかける。


「入るよ」

「あっ、どうぞ」

「……うんうん。見違えたね」


 その部屋にいたのは、帝国から一緒に帰って来たシモンだ。

 シモンはフォード家家人の制服を身に纏っている。

 元々着ていたものよりも、上等な衣服である。


 良い服を着たからか、元より五割マシで美男子になった。

 おそらく、地が良かったのだろう。


 彼のベルトには、長剣が携えられている。

 折角学んだ剣術を捨てるのはもったいない。

 なのでクリスは、彼を自分の護衛にした。


 護衛が必要になる場面が、廃嫡された自分にあるとは思えない。

 だからこれは、あくまで形式的なものだ。

 ゆくゆくは、なにかぴったりな肩書きを見つけるつもりだ。


 それとこの部屋にはもう一人。ベッドには彼の妹であるルビーが眠っている。


 クリスが回復魔術を何度も使用したおかげで、ルビーは死の淵から戻って来た。

 だが、長時間食べ物が食べられなかったせいか、魔術だけでは自由に歩けるまで回復させられなかった。

 たまに目を覚ましては、眠るを繰返している。


 だが、しばらく安静にしていれば、そのうち歩けるまでに回復するだろう。

 いまは食べ物をしっかり食べて、しっかり寝て、体力を回復させていけば良い。


「あの、クリス様。本当に俺なんかを雇って頂いてよろしいんですか?」

「うんうん、いいのいいの」

「でも、俺は帝国出身者ですよ? それに、スタンピードを引き起こして、この領地を壊滅させようともしました」

「それ、命令されたせいでしょ?」

「それに一度、クリス様に剣で斬り掛かりましたし」

「大丈夫大丈夫。慣れてるから」

「慣れ――ッ!?」

「うん。少し前だけど、僕は父上に毎日のように斬り掛かられてたからね」

「……一体、クリス様は父君に、なにをしたんですか」


 シモンが愕然とした表情を浮かべた。


「まあ、ともあれ、シモンはなにも悪くないよ。それに――」


 クリスは安らかな寝息を立てる、ルビーを見た。


「妹思いの兄に、悪い奴はいないんだよ」


 そう言って、クリスはシモンに笑いかけた。

 するとシモンが真顔になり、床に片膝を突いた。


「不肖シモン、クリス様から頂いたご恩に報いるため、永遠の忠誠を誓います」

「はあ」

「我が剣は、クリス・フォード様のために!」

「え、ええと、うん、まあ、頑張ってね」


 なんだかよくわからないが、忠誠を誓われた。

 クリスは混乱しつつも、いつもの癖で反射的に頷いてしまうのだった。

クリスさん、信者二人目ゲット

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