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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最強の魔術師、王女の護衛のために『女の子』になる

作者: 笹 塔五郎

軽いプロローグ的な風味な性癖です。

 薄暗い近道に、ローブを身に纏った人影があった。その数は十名――フードを目深に被り、性別すら窺うことはできない。

 一人が手を挙げると、その場にいた者達が一様に視線を向ける。


「同胞達よ、よく集まってくれた。これより、我々の悲願を達成する時がきた。この道を進めば……王城の地下に通じている。我々の目的は――王の暗殺だ」


 男の声が地下に響く。それに呼応したのは、すぐ傍にいる女性だった。


「ようやくですね。故郷を滅ぼされた……我々の恨み、ここで晴らさねば気が済みません」

「そうだ……。我々の地は取り返すことができないが……一矢報いることはできる」

「王を殺せ……! この中の誰でもいい。玉座に辿り着きさえすれば……!」


 次々と、女性の声に呼応するように、ローブに身を包んだ者達が声を上げる。

 彼らは故郷を奪われ、復讐のために集まった同志である。

 たとえこの先に破滅しかたなかったとしても、その道を選ぶことしか、彼らにはできなかったのだ。

 そんな中、背の小さい者が男の前に出る。


「お前のような子供にも、重荷を背負わせることになってしまったな……ルック」

「いや、そうはならない。彼はここにはいないからだ」

「なに――かはっ」


ルックと呼ばれた『少年』が、スッと腕を横に振るった。男の『空気の抜けるような声』が響く。

少年が握るのは一本の短剣。刃先につくのはわずかな血液。次の瞬間――男は喉元を抑えた。

大量の出血と共に、その場に膝を突く。何が起こったのか、まだ理解できていないだろう。


「ひっ!? あ、あなたは一体――ぎっ!?」


 女性が声を上げる前に、少年は懐からナイフを取り出して投擲する。それは真っ直ぐ女性の頭部を貫き、呆気なく彼女の生涯を終わらせた。

 周囲にいた者達は動揺するが、すぐに少年が敵であることを理解したのだろう。

 全員が構えを取る――感じ取れるのは、『魔力』の奔流。この場にいる誰もが『魔術師』であることはすぐに分かる。

 だが、そんなことは想定済みだ。


「なっ……!」

「腕が、凍って……!?」


 誰かが発した言葉の通りだった。

 少年に向けられた魔術を発動するための手は突如、氷漬けになったのだ。驚くのも無理はない。それを、ただ一人の少年がやってのけたのだ。

 少年の実力が、ここの誰よりも強いということを示している。

 しかし、それだけでは終わらない。


「あいつは……!?」


 凍った腕に気を取られている間に、すでに少年は姿を消していた。


「ガッ」

「ぐっ」

「ぎぃ……」


 そして、響き渡る苦悶の声。地下道の暗闇に紛れ、少年が次々とローブの者達を葬り去っていく。

 誰もその場からは逃げなかった。否、逃げ出す暇すら、与えられなかったのだ。

 床は鮮血に染まっていく。少年は、血に染まった床を迷うことなく踏み締めて、最初に倒れた男の前に立つ。


「お前、は……何者、だ……」

「知る必要はないことだ。あなた達の誰も、王城に辿り着くことはない――それが事実。ただ一つだけ……ルックという少年は、正しい選択をした」


 ストン――と、少年がナイフを振り落とす。男の首にそれが突き刺さると、ビクリと身体を震わせて事切れた。

 戦闘が開始してからわずか数秒の出来事。それは、戦闘というにはあまりに静かな決着だったのかもしれない。

 少年は、目深に被ったフードを外す。

 長い黒髪を後ろで結び、一見すると少女と見間違う顔立ち。無表情のまま、少年は『任務』を終えてその場を去る。

 少年の名はユリス・エーデルト――『ヴィリトリエ王国』に所属する騎士であった。


   ***


『ヴィリトリエ王国』は大陸のやや北西部にある大国である。ほんの少し前までは、隣国である『アルカルディ帝国』とは戦争状態にあった。

 戦争と言っても、軍勢を率いた大規模なものにまで発展することはなく、ほんの一年前に『和平』という形で戦争は終結した。それを申し出たのは帝国側であり、王国もそれを受け入れたのである。

 ユリス・エーデルトは、その戦争に勝利するために育成された戦士であった。

 ありとあらゆる戦闘技術、魔術を教え込まれた少年少女達――その中でも、群を抜いた実力を持っていたのが、ユリスだ。

 結果的にユリスが戦場に赴くことはなく、味方の騎士達もほとんどはその存在を知らないままに終わっている。

 そんな彼が所属するのは、『王国第三騎士団』――主に、密偵や諜報などの任務を中心して行う部隊だった。


「任務の達成、ご苦労様でした。さすがは私の信頼する部下です」

「ありがとうございます、団長」


 場所は第三騎士団の本部。騎士団長室――ユリスの対面に座る女性は、直属の上司である騎士団長のナヴィア・バーデーン。彼女からの労いの言葉を受け、ユリスはそう答える。

 ナヴィアはユリスの才能を見出し、育て上げた師匠であり、親代わりのような存在でもあった。ユリスはそんな彼女に忠誠を誓い、全ての任務を遂行している。

 先日、王国に仇なそうとした者達を始末したのも、彼女の指示を受けてのことであった。


「あなたのおかげで色々と捗っていますよ。戦争の影響とはいえ、国内外問わずに王国を恨んでいる者は少なくはないです。先日のように、住む場所を追われた者達が集まり、よからぬことを決行しようとしますからね。そういった事案を未然に防ぐことが、私達のお仕事というわけです」

「心得ています」

「ふふっ、頼もしい限りです。今後もあなたには頑張っていただきたいのですが……今日呼んだのは他でもありません。あなたに重要な任務に就いていただくためです」

「重要任務、ですか」


 今までユリスが達成してきた任務も、当たり前だが重要ではなかったわけではない。

 だが、彼女が『重要』と口にしている――表情からも、それが事実であることはユリスにもすぐ理解できた。


「そう、重要任務です。これはおそらくあなたにしかできない任務――少なくとも、私が知る限りでは、あなたより強い子はいませんから」

「……? どういうことです?」

「そうですね。回りくどい話はこれくらいにして……あなたには、この国の『王女』の護衛の任務についてもらいます」


 王女の護衛――その言葉を聞いて、ユリスは目を丸くする。

 主に『殺し』の任務を中心として任されてきたユリスにとって、誰かを守るという仕事自体、ほとんどないものであったからだ。それなのに相手はこの国の王女だという。


「護衛の任務でしたら、僕以外にも適任がいるのでは?」

「ふふっ、苦手意識でもありますか?」

「いえ、そういうわけでは」

「あなたの言いたいことは分かります。ですが、先ほども言った通り、私の知る限りで一番強い子はあなたなのです。私にとって、その強さは純粋な信頼に繋がります」

「そういうことでしたら、僕にお任せください。必ず任務を遂行してみせます」

「焦らないでください。あなたに任務に就いてもらいたいとは思っていますけれど、この任務に就くにあたって……やらなければならないことがあります」

「……やらなければならないこと?」

「ええ、まずはこれを見てもらえますか?」


 ナヴィアはそう言って、懐から液体の入った瓶を取り出す。翡翠色に輝く液体は、明らかに人工的に作られたものだ。


「これは?」

「私の主導の下に作り出した秘薬です」

「秘薬……これを僕に飲めということですか?」

「察しがよいですね、その通りです――が、その前に説明しておかなければならないことがありまして」


 ナヴィアはそう言うと、スッと立ち上がり、窓の外を眺めて話を続ける。


「王女――ルーナ・ヴィリトリエ様は『ワーレイス王立魔術学園』に通われる予定です。ワーレイスはこの王国の中でも有数のお嬢様学校でもありまして……大貴族のご息女も多く通う学園です。そこで護衛を務める最低条件として、『女の子』である必要があります」

「女の子……僕は男ですよ。僕には難しいのでは?」

「ふふっ、あなたの容姿は十分女の子らしいので、服装で誤魔化せばどうにでもなります。なので、一つの選択肢としてそれはありです――が、ルーナ様は男性が苦手でいらっしゃいます。万が一ということも考えて、もう一つの選択肢です」


 くるりと反転して、ナヴィアがユリスの方に視線を送る。


「その秘薬は――って、あれ? 秘薬は……?」


 振り返ったナヴィアは、テーブルの上に置かれた『空になった瓶』を見て、怪訝そうな表情を浮かべた。

 ユリスはすぐに彼女の疑問に答える。


「飲み干しましたが……まずかったですか? どのみち任務で必要なら飲んでおこうと思いまして」

「え、ええ……? いや、まずくはないのですけど、いや、飲むか飲まないかを決めるために今の話をしていたのです。まだ、その秘薬の効果すら話していませんよ!」

「確かにそうですが、毒であれば口に含んだ時点で分かりますから」

「そういう問題ではありません! いいですか、その秘薬は――」

「う……っ!」


 ナヴィアの話を聞き終える前に、ユリスの身体に異変が生じた。

 身体が熱くなっていく感覚――思わずテーブルに手を突いた。意識が遠のいていくが、ユリスはそれでも気合で平静を保つ。


「これは秘薬の副作用、ですか……?」

「いえ、副作用というか……」


 なにやら言い淀むナヴィア。

 ユリスも、すでに自身の身体に違和感を覚えていた。

 まず、声色の質が微妙に変わっている。どこか甲高く、女性らしいものに。

 胸元はわずかに膨んでいて、それ以上に違和感があるのは下腹部――


「えっと、これは……どういう秘薬なんです?」

「はあ……話は最後はまで聞くように――と言っても、もう遅いですが。もう一つの選択肢というのは、あなたが『女の子』になるということでした」

「僕が女の子に? そんなことが可能なんですか?」

「可能というか、もうなっています」

「……? ――あ、まさか秘薬というのは……」


 ユリスも気付く。呆れたような表情で、ナヴィアも頷いた。


「そう通りです。『性転換の秘薬』――今あなたが飲み干した物がそれです」

「なるほど……性転換を可能にする秘薬とは、また随分と面白い物を作りましたね。任務の幅が広がりそうです」


 ユリスは若干驚きつつも、先ほどの身体に負担のかかる感覚は治りつつあり、すでに現状を受け入れつつあった。


「性別は変化して、見た目にも若干の影響は与えますが、シンプルに女の子らしい見た目の者に一番の効果が認められます。なので、この薬を飲むのに適任なのはあなただったのですが……」


 歯切れ悪く、ナヴィアが言葉を濁す。彼女のあまりない姿に、ユリスは怪訝そうな表情を浮かべて問い返す。


「やはり、何か副作用が?」

「副作用というか、任務に合わせて急ぎ作り出したものなのです。そういうわけで……元に戻る方法がまだありません」

「なるほど――は?」


 ナヴィアの言葉に一瞬納得して、すぐに驚きの声を上げた。元に戻る方法がない……それはまさに、言葉通りなのだろう。

 少年騎士は、たった今から少女騎士となった。


   ***


『ワーレイス王立魔術学園』の大講堂――そこで、入学式は行われる。

 ここは女学園でもあるために、入学してくる生徒達は当然女性のみ。

 さらには貴族のご息女も通うお嬢様学校であり、魔術学園と言っても、必ず全員が魔術師を目指すわけではない。

 だが、『魔術』と名の付く以上は、彼女達はこれから魔術を中心に学んでいくことになる。そんな学園において今年の入学式は、一際注目を集めていた。


「では、新入生代表――ルーナ・ヴィリトリエ」

「はい!」


 凛とした声で、少女――ルーナははっきりと答える。長く美しい金色の髪。凛々しく整った顔立ちは、どこか大人びているようにも見える。彼女はまだ十五歳の少女であり――同時に、この国の王女でもあるのだ。

 壇上へと向かい、全校生徒へと向かってルーナは口を開く。


「本日、新入生の代表としてこの場に立てること、光栄に思います。私、ルーナ・ヴィリトリエはご存知の通り、この国の王女という立場にあります。ですが、私は今この時を以て、皆さんと共に勉学に励む身でもあります。王族だから、貴族だから――立場など、ここでは関係ありません。私も皆さんと同じです。これから、共に魔術も含めて、多くのことを学んでいきましょう」


 新入生として、『王女の立場など関係ない』――そう、言い切っている。彼女の挨拶が終わり、壇上から下りて席の方へと戻ってくる。


「見事な『代表挨拶』でした、ルーナ様」


 ユリスは、戻ってきたルーナに声を掛けた。すると、ルーナは笑みを浮かべて、


「ふふっ、ありがとう、ユリス」


 そう答えて、彼女は席に着く。ルーナの後ろに控えるようにして立つユリスは――黒を基調としたメイド服に身を包んでいた。

 ユリスは予定通り、王女であるルーナの従者兼護衛という立場になることに成功した。


――それは、ルーナがこの学園に入学する数日前に遡る。

ユリスは一人、彼女が暮らしている屋敷を訪れた。そこにはすでに数名の使用人が雇われていたが、学園へ通うユリスのために用意された『戦闘メイド』としての紹介を受けてのことであった。


「本日よりルーナ様の従者として、そして護衛として仕えることとなりました、ユリス・エーデルトです。よろしくお願い致します」


 ユリスは深々と礼をする。

 この日までに、女性らしい立ち居振る舞いというのを会得するために努力してきた。あらゆる任務をこなすユリスだからこそ、短い時間でもマスターできたと言えるだろう

 本名を名乗る理由も単純――表向きに、ユリスという騎士を知る者はいないからだ。


「……顔を上げて」

「はい、ルーナ様」

「従者だけでなく護衛、ね。私はこれから、魔術学園に通う予定なのだけれど……」

「はい、承知しております。ですが、王女の身であるあなた様に護衛は必要です。ルーナ様が通われる予定の魔術学園では、従者の同行が認められております。貴族の方々の多くは、従者を連れておりますので」

「それで、わざわざ新人のあなたが私の護衛に?」

「はい。すでに聞いておられると思いますが、僕は『戦闘メイド』ですので」

「僕……?」


 ユリスの言葉を聞いて、ルーナが反応を見せる。

『僕』というのは直さなくてもいいのか、とナヴィアに確認したが、そのままで問題無いと言われたので直さなかった。反応を見る限り若干、怪訝そうにしているのが気になる。

 男性が苦手――だからこそ、ユリスの言葉にも過敏に反応したのかもしれない。


「どうかなさいましたか?」

「……いいえ、なんでもないわ。確かに、王族が護衛を一人も連れていないというのは、問題かもしれないわね」

「ご納得いただけたのであれば――」

「私と勝負しましょう?」

「! 勝負、ですか?」


 ルーナからの突然の提案に、ユリスは目を丸くして問い返した。


「そう、勝負。私の護衛を名乗るのだから、私よりも強くなくては意味がないでしょう?」

「それはその通りかもしれませんが……いきなり勝負と言われましても」

「別に、お互いに怪我をするような本気の戦いをしようってわけじゃないわ。あなただって、戦闘メイドだと言うのなら、手合わせくらいはできるでしょう。それで、私があなたの実力を見定めるわ」


 ルーナの提案に、ユリスはしばし沈黙する。――護衛として彼女の傍にいるのであれば、実力を示せ、というのは確かに言う通りなのかもしれない。

 王女との手合わせなど許されるのか……そう考えたが、ルーナはすでに魔術師としても優れた才能を見せていると言われている。

 だからこそ、ルーナはユリスにそんな提案をしたのだろう。


「承知しました。それでは、ルーナ様に勝利をすれば、僕を護衛として認めていただけるというわけですね」

「……ええ、その通りよ」


 ピクリ、とわずかに眉を顰めるルーナ。その数分後――ユリスはルーナに勝利を収めて、無事に護衛として認められたのだった。

 そして、今に至る。


「これから楽しみね、魔術学園での生活」

「そうですね」


 ルーナの言葉に同意するように答える――だが、ユリスに楽しむ余裕などはない。

 これからユリスは、メイドとして彼女を護衛し続ければならない上に、元男であるということも隠さなければならないのだから。

いつものです。

性癖です。

好きな人は評価してくれると嬉しいですよ!

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