空(そら)属性
目の前の男(おそらく学校の事務員だろう)は僕の使える魔法の属性を“空”属性と言った。
空と言うのは青空とか、地上で見上げた時にあるのが空だよな?
「昔、“空”属性は“空”属性と言われていたのだが、近年“くう”と言う発音は“食”と誤解されると言うことで“そら”と改められた。この属性は空間に対して影響を及ぼす魔法の属性だ。」
なるほど、空間の属性と言う事か。でもどのような魔法が使えるのだろうか?ここは素直に聞いておくべきだろう。
「空の属性はどんな魔法が使えるのでしょうか?」
「簡単に言えば“転移”や“アイテム・ボックス”などの空間に作用する魔法だね。他には物を呼び出したり送り返したりと言う魔法だ。」
“転移”か……使えればかなり便利な魔法だ。でも“転移”は高レベルの魔法だったはず。“空”属性の初級魔法は何なのだろうか?
「“空”属性の初級魔法は取寄せですね。身に着けた鞄などからコインぐらいの大きさの物を取り寄せる魔法です。」
「コインですか……。」
「初級だからね。それでも熟達すればとっさに短剣程度の物は呼び出せるようになりますよ。」
なるほど、とっさに短剣を呼び出せるのなら初級魔法とは言え便利な魔法に違いない。
「それで他の属性は?」
「ないよ。」
「はい?」
「君は珍しいことに“空”属性以外の属性、地、水、火、風、雷、光、闇、霊、時などの属性は持たない。“空”属性だけ使える。」
少し残念だ。おそらく火属性であろう火炎球とかは僕には使えない。
別に魔法が使えないわけではないのだ。ここは気持ちを切り替えてゆくか。
「ところで、“空”属性魔法の担当者と言うのは誰になるのでしょうか?」
すると目の前の男はにやりと笑い腕を曲げ自分を親指で指さした。
「わたしが“空”属性魔法の担当だよ。」
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ソウジが部屋から出で遠ざかったのを気配から確認するとその男、ラウム・スカイウォーカーは大きくため息をついた。
「あれが例の……。なるほど、文献にある通り特異な存在だな。よりによって“空”属性しか持たないとは……さてどうしたものか。」
この世界において一つの属性しか持たないものは珍しく、その場合はMP(精神力)と言われる値が低いので魔法使いとしては不適格である。
しかし、異世界人であるソウジは違った。
“空”属性しか持たないのだがMPの値は初級魔法使いとしては十分、いや中堅の魔法使いと言っても差し支えないほどある。
「とりあえず、初級の“空”属性魔法を教えてからだな……。」
ソウジに魔法を教えた結果どうなるのか……それは誰にも判らなかった。
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(僕の属性が“空”属性だけなのはやはりスキルが関係しているよな……。)
“空”属性で使える魔法の中に“アイテム・ボックス”があった。
この魔法は“収納”スキルの劣化版ともいえる魔法で一定時間毎にMPを消費することで異空間に物を収納できる空間を作り出す魔法だ。
当然のことながら生物を収納することはできない。
しかし僕のスキルは収納力こそないが収納対象に制限はない。様々なバリエーションを考えた場合、“収納”のスキルは“アイテム・ボックス”魔法の上位にあると考えられる。
(上位にあるスキルを使えるから“空”属性を使えると考える方が自然だよな。)
そこで僕は突然に気が付いた。
(“空”属性を鍛え上げれば収納のスキルに変化があるかもしれない。あわよくばスキルが進化するかも……。)
実際に“空”属性の魔法を覚えることは冒険者として活動することを併せて考えると利点になる。
特に初級魔法でもとっさに短剣を取り出すことが出来るようになるのは大きいだろう。
でも、“空”属性を鍛えていったとして……。“収納”スキルが進化するとなればば一体どのようなスキルになるのだろうか?