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挿話:ギルド長の呼び出し

 話はソウジが特別試験を受けた次の日までさかのぼる。


 ここは王都の冒険者ギルド、生き馬の目を射抜く場所である。

 あえて言うがそんな場所にも禄でもない輩は存在する。


 今日もその禄でもない輩のスコビルは鼻歌交じりにギルドへやってきた。


「おはよう?ございます。スコビル課長。」


 受付嬢のレインは少し冷めた目つきでスコビルに挨拶をする。それもそのはずである。もう朝の出勤時間はとうに過ぎており、もうそろそろ休憩を取ろうかと言う時間なのだ。


「レイン君。何だその目つきは?私は重要な案件で昨日は夜遅くまで忙しかったのだ。君にそんな目で見られる筋合いはない。」


 スコビルは重要な案件と言うが実際は業者からの接待で深夜遅くまで飲んでいたと言うのが正しい。その為、二日酔いで朝から頭が痛く少しマシになったからギルドに出てきただけの事である。


「ふん、まったくこれだから使えない奴は困るのだよ。……ああそう言えばレイン君が特別試験を斡旋したあの田舎者はどうした?試験が全く・・出来なくて泣いて田舎に帰ったのだろうね。」


「いいえ、優しい問題しかなかった試験だったと聞いています。」


 レインの報告を聞いたスコビルは大声で笑いだした。


「くはははは。愚かな田舎者だと思っていたがそこまで愚かな奴だったか。王立魔法学校の試験が易しい問題だけなんてあるはずがないだろう。愚か者には自分の実力との差が大きすぎて理解できないだけだ。これで判っただろう受付嬢程度には人を見る目がないのだよ。」


 スコビルは勝ち誇った様にレインを蔑んだ目で見た。だがそのスコビルの発言を聞いていた他の受付嬢から非難の目で見られていることにはまったく気づいていない。

 そして受付嬢同士だけではなくその場に居合わせた冒険者たちにも話は広がり少し騒がしくなってくる。


「何だ!騒がしい!何事だ?」


 騒ぎを聞きつけたのか体格の良いひげ面の男が上の階から降りてきた。


「!これは“エドワード”ギルド長!すみません。すぐに静かにさせます。」


 スコビルは素早くエドワードに近づき揉み手をする。


「ん?スコビルか、丁度良い。お前とレイン君、君もちょっと来てくれないか。少し尋ねたいことがある。」


「はい?判りました。」


 ―――――――――――――――――――――


 スコビルとレインは二階にあるギルド長の部屋に通された。


「まあ、かけて楽にしてくれ。」


 スコビルとレインはギルド長の部屋にあるソファーに座った。ギルド長のエドワードは二人に向かい側に座る。


「尋ねたいことは一つ。この人物についてだ。」


 そう言ってギルド長が一枚の髪を差し出した。その紙に書かれていたのはソウジの事だった。


「「これは!」」


 スコビルとレインの二人は異口同音に声を上げた。


「一週間前に訪れた見習い冒険者だ。その冒険者に対してとんでもない処理をしたな?」


 そう言ってエドワードはスコビルとレインの二人を睨みつけた。

 スコビルはその眼光に驚いたのか両手を振り回して自分は関係ないとばかりに言い訳を始めた。


「いえ、いえ、いいえ、それは私のあずかり知らぬところです。私がいない間にこの受付嬢のレインが単独で勝手にやったことです!」


「ほう。ではレイン君が勝手に行ったことだとお前は言うのだな?」


「は、は、はい!その通りです。」


 そう言ってスコビルはコメツキバッタの様に頭を上下に激しく動かした。


「では、レイン君。スコビルの言っていることで間違いはないかね?」


「はい。大筋で間違いはありません。実際はスコビル課長に処理を一任されたので……「そんなことは無い!」……。」


 レインの発言にスコビルが口をはさむ。


「私は許可なんかしていない!勝手にこの女がやったことだ!だいたい……。」


「黙れ!スコビル!」


 エドワードはスコビオを先ほどよりも更に鋭く睨みつける。


「!!」


「ふん。まあいい。何にせよレイン君がソウジ君に対しての特別試験を受けるように勧めたという事だね?」


 エドワードの言葉にレインは大きく頷いた。



「うん。素晴らしい!!君は受付嬢の鏡、いやギルド職員の手本となる人物の様だ。」



「はい?」「へっ?」


 スコビルとレインの二人が少し気の抜けた返事をするがエドワードは話を続ける。


「よくぞ地方ギルドの報告を拾い上げ、そこから重要案件だと推察した。そして、対策もまた素晴らしい。実際何も対処されなければどうなっていたか判らない所だった。」


 エドワードはレインの事をこれ以上ないぐらい絶賛していた。


「いえそれはレインではなくそれを命じた私が……。」


 スコビルの言葉を聞いたエドワードは眉間にしわを寄せた。


「何を言っているんだ?先ほどレイン君が勝手にやったことだと言っていただろう。」


「いえいえ、それは言葉の綾でして。実際は……。」


 スコビルがさらに話を続けようとした瞬間、エドワードの顔から表情が消えた。


「よく判った。スコビル。」


「そうですか。ご理解いただけて助かります。」


「ああ、よく判ったよ、スコビル。お前はクビだ。」


「へ?へえええええええええ?!?」


 スコビルはエドワードの言葉に大きく口を開けたまま絶句していた。


「冒険者ギルドは冒険者の活動を助けるためのギルドだ。足を引っ張り害になるようなお前のような奴はいらない。」


「そそそんな!見習い冒険者一人の対応が間違えたぐらいで……。」


「それだけではない。」


 そう言ってエドワードは分厚くまとめられた冊子をスコビルの前に叩きつけた。


「それはお前が関わった案件に対する報告書だ。よくもここまでやったものだ……。」


 それはスコビルの行状に対する報告書であり、不正の証拠でもあった。

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