特別試験のススメ
ここは王都の冒険者ギルド、生き馬の目を射抜く場所である。
だがそんな場所にも禄でもない輩は存在する。
受付嬢のレインから報告を受けた上司のスコビルはその禄でもない輩の一人だ。
「レイン君、君の報告は片田舎のギルドならば適当に処理しておけば問題ない案件だ。こんなつまらない事で忙しい私の手を煩わせないでもらいたい。」
スコビルの忙しいは“上司のご機嫌取りに忙しい”や“接待を受けるのに忙しい”と言うことだ。
「ですがスコビル課長。ユーフォニアム、チューバ、スザーホンの三つの支所からも要注意の……。」
「レイン君!何だね君は?上司である私、スコビル・フォン・デイモンに意見するというのかね?たかが受付嬢の分際で。だいたい地方の支所の報告なんぞには価値はない。」
このスコビル、地方の支所を軽く見るきらいがある。その為、支所に務める者の間ではすこぶる評判が悪い。
「ではどうしろと?ランクアップした冒険者カードが発行できない対処はどうなさるのですか?」
レインがスコビルに持ち込んだ件は意外に重要なことだ。
冒険者カードは冒険者の称号が出て初めて一人前の冒険者として認められる。それ以外の方法もないわけではないが、そちらの方が大変厳しい道のりなので普通の人は選ばない。
「私はすぐに出かけなくてはなりません。その様な事はあなたが対処しなさい。判ったならこの部屋からすぐに出てゆくのです!」
レインは取り付く島もなく部屋から追い出されてしまった。スコビルはすぐに出かけると言っていた。どうせ業者の接待だろう。
受付の席に戻ったレインは冒険者の昇級に関する資料を再度チェックし始めた。
(スコビル課長に尋ねたのが間違いの元だったわ。トラビス部長は出張だし……。でも幸い対処は私に一任されたのよね。うーん、何か方法はなかったかしら?いっその事、さらに昇級試験を受けさせるという方法も……駄目ね。彼の討伐数では試験を受ける事自体ができないわ。)
ソウジの冒険者カードに記録された討伐内容には問題がなかったが、いかんせん討伐数が少なすぎた。
難易度の高い魔物でも偶然運よく倒す事がある為、一定以上のランクの魔物の討伐数が昇級試験を受ける基準になっている。
(彼が王都出身の冒険者ならこんな問題は起こらないでしょう。これでは王都で活動する為の国家試験を受けることが出来ませんね。……?あれ?国家試験の受験条件は何でしたかしら?)
レインは王都で活動する為の国家試験の受験資格を確認する。
(駄目だ……。地方出身の場合の受験資格項目に“冒険者カードの称号の記載に“冒険者”の称号があること“となっている。)
他の条件も調べてみるが打開策は見出せそうになかった。
そっと待合室の椅子を見ると問題の冒険者であるソウジは椅子の上で時々目をこすり眠そうにしている。
(仕方ありませんね。辺境から王都までの長旅ですからさぞ疲れたことでしょう。魔導士でない限り瞬間移動は使えませんし……そうだ!)
あることに気が付いたレインは資料を猛烈な勢いで調べ始めた。
(えっと、確か特別試験は……あった!確か彼の精神力は並み以上あったはず。それに各種教養も……では特別試験を受ける条件を満たしている。)
レインの思いついた特別試験とはギルドが王立の各種学校への編入を斡旋するため各種試験である。
試験は優秀な人材を発掘の物である為、難易度は王国内でもかなり高い。年によっては合格者が一人も出ないことがあるほどの物なのだ。
(あとは試験に合格するかですが……可能性は高いわね。)
レインは冒険者カードに記載しているスキルのみならず、各地方ギルドの報告、警備員であるハーゲンの意見を加味し判断を行った。
(近々にある試験は……一週間後!次は一月後か……とりあえず提案して彼に判断してもらいましょう。)
レインは必要な書類をまとめると椅子の上で船を漕いでいるソウジに近づいていった。