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フリューゲル王国冒険者ギルド

「どうした坊主、この建物が珍しいか?」


 僕がガラス張りのビル(と言っても十階建てだが)を見上げていると建物の入口に立つ頭頂部が禿げ上がった男が声をかけてきた。

 制服らしい格好で立つ姿は僕の世界で言う警備員のようにも見えた。


「あ、いえ。このせか……じゃなくて、初めて見たので驚いています。」


 そう僕が答えると、警備員の男は大きく頷きながら破顔し微笑んだ。


「そうだろう、そうだろう。この冒険者ギルドの建物はホルンでも有数の高さを誇る建物だ。これに勝る高さの建物は魔導士の塔か王城ぐらいだぞ。」


「これが冒険者ギルドの本部……。」


「その格好からすると坊主は冒険者見習いだな。昇格で本部に来たのだな。中に入って受付で手続きすれば坊主も晴れて一人前の冒険者だ。」


 そう言って警備員の男は建物の入り口を指差した。心なしか顔が何かを期待しているようにも見える。

 それだけではない。冒険者だと思われる何人かが少し離れた場所で同じようにこちらを見ていた。

 建物の入口の前に立つと彼らが何か期待しているような顔をしていたのかその理由がわかった。


 “入口の扉には取手がない。”


 つまりこれは自動ドアということだ。

 僕は素知らぬ顔で扉に近づき入口のドアの前に立つ。すると扉はゆっくりと横にスライドし始めた。


(自動扉よりも少し遅いかな?)


「「「「え?驚かない?」」」」


 僕の様子をうかがっていた人たちは異口同音に驚きの声を上げた。警備員の男を見ると意外そうな顔をして首をかしげている。

 その様子を見て僕はこう答えた。


「だっておじさんが何か期待しているような顔をしていたから……。これはなにかあると思って身構えていたしね。」


 僕の答えを聞いた警備員の男は頭をペチペチ叩き失敗したという顔をした。


「顔か……これはまいった。だが、良い観察眼だ。坊主は良い冒険者になりそうだな。おれはハーゲン、元冒険者で今はここの警備をしている。」


 警備員の男は元冒険者と言った。本部で警備員として雇われるのだからかなり腕の良い冒険者だったのだろう。


「見習いの受付は入ってすぐ左だ。判らなければ立っている奴に聞けば大抵教えてくれるぞ。」


 アドバイスをくれたハーゲンさんに一礼すると冒険者ギルドの建物に僕は足を踏み入れた。

 冒険者ギルドの一階はロビーになっていて幾つかの窓口と掲示板、順番を待つ間に座るための椅子が並んでいた。窓口には制服を着た職員が座り様々な対応を行っているようだ。

 どこかの町の役所のような光景だ。

 だが先ほどからやけに視線を感じる。値踏みするような視線だ。


(そんなことよりも入ってすぐ左だったな。)


 ハーゲンさんの言う通り入ってすぐ左の受付の窓口へ向かう。

 受付の窓口には番号札が掛かっているが順番を待っている人はいないようだ。受付には短い栗色の髪の女性が座っていて僕が近づくと声をかけてきた。


「あなた見習いの冒険者ね。昇格の窓口はここよ。」


 受付の女性も一目で僕が見習い冒険者だと見抜いた。ハーゲンさんもそうだったが僕に何か特徴があるのだろうか?

 僕は疑問に思い受付の女性に尋ねてみた。


「それはあなたの装備ですよ。その恰好は長距離を旅する時の格好です。王国で冒険者が長距離を旅するのは特別依頼か昇級のためですので。」


 言われてみればその通りだった。僕は今の格好は長旅をするための格好だ。


「それでは昇級手続きをしますので冒険者カードの提示をお願いします。」


 僕は言われた通り冒険者カードを提示する。


「はい。確認しました。それではこの水晶球の上に手を置いてください。……はい、よろしいですよ。それでは冒険者カードを更新しますので、その間椅子に座ってお待ちください。」


 ―――――――――――――――――――――


 私の名はレイン。王都の冒険者ギルド本部で勤め受付を担当している。

 今日は久しぶりに見習い冒険者が王都にやってきました。

 この前来た見習いの冒険者たちはひと月ほど前だったかしら?

 ただ今回は珍しくソロ、一人で王都まで旅してきたようです。一人で旅するということはかなりの実力者でしょうか?

 冒険者カードの更新を確認するのが楽しみです。


 ほんの数分前までそう気楽に考えていました。


 更新された冒険者カードを見た時、目を疑いました。

 普段、辺境から王都にやってきた冒険者のカードなら職業欄に”冒険者”の称号が出ます。が、彼のカードにはそれがありません。

 カードに残っている討伐記録や都市ごとのギルドへの訪問記録を調べましたが何も問題はありませんでした。

 これはいったいどういうことでしょうか?

 これは上司に報告しなければなりません。厄介ごとの予感がします。

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