これから
”今回召喚された三十人の異世界人に複数のユニークスキル持ちは存在しない。”
報告を受けた辺境伯はおもわず安堵の声を上げた。それだけこの件が辺境伯の頭を痛めていたのだ。
例えば自分の領地に核爆弾とそのスイッチを持った人間が三十人いることを想像してもらいたい。
辺境伯にとって異世界人は核爆弾のような者、爆発すればただでは済まない危険極まりないものなのだ。
「どうやら差し当たっての危険はないようだな。あれも悲しむことはない。とりあえずは一安心といったところか……。」
辺境伯が部屋の窓から外を眺めるその視線の先には庭を散策する若い男女の姿があった。
その二人、辺境伯の娘であるオデットと異世界人であるエルロードは談笑しながらも時々お互い見つめあっていた。
「あの者、確かエルロードとか言ったな……。剣の腕も今後の鍛え方次第ではこの国随一の腕になり得る逸材であると騎士団長から報告を受けている。その上、なかなか強力なユニークスキルを持っていると聞く。今後のことを考えると異世界人たちを完全に取り込むのが得策か……。」
辺境伯はしばし腕を組み考えていたかと思うと机に戻り何やら書類を書き始めた。窓の外では今も若い二人が仲良く談笑していた。
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所変わって、フリューゲル王国。
この話の主人公?でもある田辺総司は広い平原の向こうに中心都市である王都ホルンをその目に収めていた。
王都までの距離はまだまだあるようで目に映るその大きさはかなり小さい。
「や、やっと王都が見えてきた。ふひー。スザーホンから一月、地図を見ながら進んでいたのに何で迷うかなぁ……。」
当たり前である。
この世界の地図は現在の日本と比べて正確ではない。と、言うより極めて不正確な地図であると言える。
それに精密な地図は軍事機密となり得る。そのような物を一般市民が手に入れる事ができるほど世界は平和で安定しているわけではないのだ。
したがって、冒険者とはいえ一般市民同じである。一般市民が手に入れることができる地図は距離も位置も不正確な地図である。
その様な物を頼りに旅をすると迷うのは当然のことなのだ。
(水や食料、寝床はなんとかなるし、体の汚れもスキルで弾くことができる。これは僕だから何とかなるのであって普通の冒険者はどうしているのだろうか?)
そもそもこの世界の冒険者で一人旅の者は極めて少ない。通常はパーティ単位、しかも都市から都市への移動を徒歩で行うことはまずありえない。
普通の冒険者の活動域は都市を中心とした範囲であり都市から数日で行くこのとのできる町や村である。
その為、一月分以上の食料や水を用意することは無いのである。
そして、都市から都市へ移動する場合は商人や貴族の護衛が主でその場合、食料は依頼主が用意するのはほとんどである。(中には食料を用意しない依頼主もあるがその場合護衛料が高かったりする。)
見習い冒険者から普通の冒険者になるのに王都へゆく必要がある(もしくは辺境にゆく必要がある)のは商人の護衛を経験する必要があるからなのだがソウジはそのことを全く考えていなかった。
その為、護衛を経験していない見習い冒険者を普通の冒険者として扱うべきかをギルドが頭を悩ます事となるのである。
「ここまで来たら一踏ん張り。できるなら今日中に王都にたどり着き宿で寝たいなぁ……。」
流石にここ一ヶ月テントでの生活が続くと普通のベッドが恋しくなるようで、ソウジはそう呟くとその歩みを早めた。
とりあえず間章はここで一旦、終わりです。
次は、王都での主人公になります。