相違点
辺境伯は霧笛達を保護下に置く名目で一軒の屋敷をあてがっていた。
この屋敷は昔騎士団寮だったらしく三十人以上いる霧笛達を泊めても十分な広さがあった。食堂も全員が集まって食事ができるほどの大きな部屋だ。
今、霧笛たちは全員食堂へ集まっていた。
一応保護された形であるが彼らも辺境伯に対して完全に気を許したわけではない。辺境伯やその娘であるのオデット動きには注視していたのだ。
その甲斐あってか古屋のスキルである振動感知で辺境伯とその娘オデットの密談とその内容を知ることができた。
今日の集まりはその密談の内容に対する対策を相談するためである。当然、辺境伯の手の者に監視されている事は織り込み済みである。その対策としてこの世界の人間には一見したところではわからない言語、日本語での筆談を行なっていた。
<……と、辺境伯との会話では保留という話になっているようだ。エル、どう思う?>
<保留、ひとまずは安心か……。話にあった異世界人の末路から考えると辺境伯が警戒するのも無理もないのかな?>
筆談の用紙を見ていた一人、陸上部員であり生徒会長の黒金が首を傾げた。どうやら彼の持つスキル安楽椅子探偵が発動しているようだ。
黒金は部屋にある椅子にゆったりと腰掛け霧笛達に声を出して尋ねた。
「辺境伯の会話の中で“異世界人はことごとく複数のユニークスキルを持っている”と言っている。これはおかしい。俺たちそれぞれが持つユニークスキルの数は一つしかない。中にはユニークスキルがない者もいる。」
「おい、声を出すとせっかくの対策が……。」
黒金を咎めるように声を上げた霧笛を黒金は片手を上げて静止する。
「問題はない。それに相手にも相違点を知ってもらいたい。」
どうやら黒金は話を辺境伯の手の者に聞かせるつもりの様だ。
「霧笛、最初に鑑定した時を思い出せ。あの宰相を名乗る男はユニークスキルのことを“ほとんどの方が1つは所有している”と言った。複数持つのがあり得るのならその発言はありえない。」
「……そうか!複数もつがいる可能性があるなら”一つは所有“ではなく”一つ以上所有“になると言うことか!」
「ああ、そして辺境伯は我々の人数に驚いている。途中で出てきた“イレブン”という名前と合わせて推測すると、今までの異世界召喚は多くても十人前後だと推察できる。」
「十人前後か。俺たちは約三十人、それと比べても結構少ないな……でも十人なら辺境伯が“一人か二人なら対処できる”と考えているのはおかしくないか?」
「それも問題はない。おそらく辺境伯は一部が逃げ出したのだと考えたのだろう。複数のユニークスキルを持っているならスキル次第で単独での脱出も可能だ。」
確かに黒金の言う通りスキルによっては単独での脱出も可能いなる。その為、辺境伯は異世界召喚された全員が逃亡しているとは考えていないのだろう。
「以上のことから、呼び出す数が少ない異世界召喚はユニークスキルの複数持ちが少なからずいる。逆に多人数の異世界召喚はユニークスキルが一つ。つまり、今回の異世界召喚が三十人以上だったのはユニークスキルの複数持ちをなくすためだと考えられる。」
「わざわざユニークスキルをばらばらにしたのか……でもそれになんの意味が?」
「これも推測でしかないが……。
辺境伯によると複数のユニークスキルを暴走させると異形化する様だ。だから宰相は異形化のリスクを減らすためユニークスキルが複数与えられないように多くの人数の召喚を行ったのだろう。
それに宰相はユニークスキルについて“この国の者でも持っているものがいますが数は少ないスキル”だと言っていた。この言葉からユニークスキルを持つ者の数が少ないとはいえスキルとしては一般的なスキルだとわかる。
一般的であるはずのユニークスキルに世界を変異させるほどの力があるのならそれはもはや一般的なスキルとは言えないからね。」
「そうか……でも世界を変えるほどの力ならそれを利用しようと考えなかったのかな?例えば魔道具とかでコントロールしようとか?」
霧笛の疑問に黒金がニヤリと笑って答える。
「世界を変異させるほどの力の前に人の作ったもの程度で抑えられるはずがない。アイツラもその程度のことは判っているようだ。あとは……。」
「あとは?」、
「辺境伯がこの事実を知ってどう動くかだ。その調査は……。」
黒金はエルロードの方を見た。
「エルロード、君が適任だろう。」