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ヨブの企み

 ヨブ王国の王宮には窓のない小さな部屋が存在する。

 部屋の周囲、50mには何も存在しない石畳になっており部屋の入り口は一つだけ。入り口には重厚な鎧を纏った騎士二人が部屋自体に誰も近づけさせない様に立っていた。

 部屋の中にはテーブルと椅子以外の物はないのだが狭さを感じるぐらい小さい。

 その小さな別室で国王と宰相のガラバが密談を行っていた。


「ガラバよ。この間呼び出した異世界人共は今どうなっておる?」


 テーブルを挟んで国王の正面に座るガラバが額の汗を拭きながら答える。

 ヨブもガラバも恰幅の良い体をしている。そんな二人が窓のない狭い部屋にいるだけで室温は上がるというものだった。


「はい。訓練は順調に行われていると報告を受けています。奴らにはまだ反抗的な様子は見えません。予定では一月後には例の物を装着させる予定です。そうすれば異世界人による異世界兵の出来上がりです。」


「ぐふふふふ。何人かに逃げられたりハズレがいたりしたが順調で何よりじゃ。しかしその”服従の指輪”は最初から使えていればのう……。」


「はい。装着することで本人の意識がなくなる為、スキルレベルが上がらない弊害が出ますからね。それが無ければ初めから使っていたのですが……。それにアッキマさ……アッキマも”魅了スキル”をなくしたのが痛いですね。」


「ふむ。失ったものは仕方があるまい。一月後まず奴らをどう使うかだな……。」


 ヨブ国王は丸々と太った手を頬に当てながら何やら嫌らしい目で何かを考えているようだった。


「ガラバ。レコン辺境伯の令嬢オデットがエアリーの魔導学園から辺境領へ戻るようじゃな。」


「陛下。オデット嬢が辺境に戻るのは一週間後です。それに令嬢は才色兼備と言われ辺境伯が目に入れても痛くないほどかわいがっております。流石に辺境伯と事を構えるのは……。」


 ヨブは諌めようとするガラバに対してにやりと嫌らしく笑う。


「まあ聞け。その辺境伯の令嬢が帰りに盗賊共に襲われて行方不明になったらどうじゃ?しかも辺境伯領付近でだ。これは異世界人の能力を使えば造作も無いだろう。」


 ヨブの提案にガラバは渋い顔でおし黙った。


(確か異世界人の中に幻影ファンタズマを使えるものが居たな。あれは魔術の幻影とは異なり音も消すことのできるスキルだ。とすればヨブの言う通り異世界人を使えば令嬢以外を皆殺しにして拉致することは簡単な様に思えるな。しかし……。)


 人に口に戸は建てられない。

 ヨブのことだから拉致した令嬢は後宮に入れるだろう。そうなると人目に付くことになり間違いなく辺境伯に拉致が発覚するはずだ。

 レコン辺境領は危険な“深き魔の森”とエアリー王国に接している場所にある。その為、ヨブ王国の防御の要とも言われる場所になっていた。その場所を守る辺境伯の令嬢に手を出すということは辺境伯との対立を意味する。

 ガラバにとってレコン辺境伯と対立することは避けなければならない事案なのだ。

 しかし、ガラバはこの所、異世界人に逃げられたり、ハズレの異世界人を厚遇したりと失策が続いていた。


(あのヨブの事だ。反対すればどの様な責を負わされることやら判ったものではない。どうやってヨブを誤魔化すかだが……。)


 ガラバは”服従の指輪”が一月後にしか用意できないのでその時に令嬢の拉致を行うとして問題を先延ばしにすることに決めた。


「陛下、判りました。一月後、異世界兵を持ってオデット令嬢を確保致しましょう。幻影ファンタズマ持ちを使えば何とか可能かと……。」


 一月後と言われヨブは眉間にシワを寄せた。


「馬鹿者!一月後では拉致……おっと、保護できないではないか!異世界人が使えなければ余の騎士たちを使え!幻影ファンタズマがいるのならそいつを使え。一人ぐらいなら脅せばなんとかなるだろう。」


 ――――――――――――――――――――


 ヨブ達にとって、窓のない小さな部屋に潜むことも盗聴することも出来ないとされている部屋だった。

 しかし、音というものは空気の振動であり振動自体を観測することが出来るスキルを持つものは存在する。彼らにとってそのスキルは小さな振動を出したり感知したりするだけのハズレスキルだった。

 この世界は魔法があるため科学技術はあまり発達しておらずルネッサンスより少し前ぐらいでしか無い。その為、空気が音を伝える媒体であるという事も知られてはいなかった。


 現代社会からやって来た者の中には振動を感知すれば盗聴と同じことを出来ると言う事を知っている者がいた。

 吹奏楽部の部員である古屋はその一人であり“振動感知”のスキルを持つものでもあった。古屋や霧笛、エル他何人か。ヨブ達が密談を行っている部屋から少し離れた場所にいた。

 部屋の周囲には何も無いのだが、幻影ファンタズマのスキルのおかげで古屋たちの存在が発覚していなかった。


「霧笛さん!大変です。あいつら俺たちに“服従の指輪”とやらを付けさせるつもりのようです。」


「“服従の指輪”?それはどの様な物だ?」


「何でも付けたものの意思を奪い、自由に操ることが出来る指輪だそうです。辺境伯の令嬢を拉致しようと計画しているみたいだしやはり碌でもない奴らですね。」


 古屋の話を聞いた霧笛とエルは顔を見合わせた。


「……頃合いだな。」


「ああ、だが王都を脱出してどこへ行く?」


 残念ながら彼らにはどの方向へ逃げれば逃げ切れるのかの知識はなかった。そんな中、部屋の音を感知していた古屋が声を上げた。


「そう言えば霧笛さん。ガラバの奴が“辺境伯と事を構えるのは”とか言っていましたよ?」


「辺境伯か……。そう言えば拉致の対象は辺境伯の令嬢だったな。」

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