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ブートキャンプ

 闘技場の出来事から一週間、僕はまだスザーホンの街にいた。

 あと三ヶ月ぐらいはこの街にいる予定だ。

 長期滞在になるので泊まっていた宿を引き払いロムスさんの道場でお世話になっていた。

 そしてここ一週間はずっと道場で槍の素振りを行っているのである。


 話は一週間前、ロムスさんがメナスに勝利した日の晩まで遡る。


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 その日の晩はロムスさんの道場に大勢の人々が集まっていた。

 ロムスさんの道場や道場に面する庭にはどこから持ってきたのか数多くのテーブルが並べられていて、テーブルの上にはロムスさんや他の流派の道場主たちや近所の人たちが持ち寄った料理や酒類が並べられている。

 そして、テーブルの前には数多くの人が並々と酒の注がれた陶器のコップを片手に宴会の開始の合図を今か今かと待っていた。

 道場の奥ではロムスさんが酒の入った陶器のコップを片手に乾杯の音頭を取ろうとゆっくりと口を開いた。


「えー、この度は私の祝勝会へ参加いただき誠にありがとうございます。私が勝利できたのも数多くの人々からのご支援、ご鞭撻があったからこその勝利でございます。今日はささやかながら私の勝利を皆様と祝いたいと思います。では、乾杯!」


「「「「「「乾杯!」」」」」」


 宴会の会場となった道場にコップ同士を当て合う音が鳴り響き宴会が始まった。


 テーブルの上には次から次へと料理や酒類が並べられたその端からあっという間になくなっていく。

 そのテーブルの間をリースさんや近所のおかみさん連中が忙しそうに行き来していて料理や酒類が途切れる事はなかった。

 テーブルの上にはいろいろな酒があるとは言え僕は酒を飲んだことはない。第一未成年だ。

 それに日本人の半分はアルコールに弱い。と言うのも優れたアルコールの分解能力を持つ遺伝子が西洋人に比べて半分しかないそうだ。

 それはさておき、僕は目の前にある酒が入ったコップを脇に追いやると自前のコップで飲み物を出していた。宴会に出されている料理はコッテリとした物だから今日は烏龍茶が良いらしい。


「ソウジ!飲んでいるか?」


 顔の赤くなったギルド長がコップを片手にやってきた。反対側の手には酒瓶を持っているところから考えると酒を注ぐつもりだったらしい。だが、僕はアルコールを飲めないし飲む気はない。


「僕は酒を飲めないのでお茶です。」


「ん?何?酒が飲めないのか?それはいかんぞ、冒険者としては飲めないと……。」


 ギルド長曰く、水の飲めない場所では酒を飲むことになる。それに冒険者として宴会の時に酒が飲めないのは情報をうまく入手することが出来ないとか何とか。

 そうやってギルド長に絡まれているとロムスさんがやってきた。


「ははは、ウェールズさんもその辺りで……それに今回勝利できたのはソウジくんのおかげですので。」


「うむ?そうか……それなら仕方がないか……。」


 ロムスさんにそう言われるとギルド長はおとなしく席に付き持っていた酒瓶でチビリチビリと飲み始めた。


「改めて、ありがとうソウジくん。今回勝利できたのは君のおかげだ。」


 そう言ってロムスさんは深々とお辞儀をした。


「いえいえ。ロムスさんの実力があっての勝利です。」


「いや、ソウジくんが持ってきてくれたあの槍がなければメナスに勝つことはできなかっただろう。そうだ、あの槍を返さなくてはいけないね。宴会のあとでも良いかい?」


「いえ、返してもらわなくても……あの槍自体、壊してしまった槍の代わりなので……。」


「本当かい?でもあの槍は元の槍とは比べ物にならないぐらい素晴らしいものなのだが……。」


「そう言っても……第一、あの槍はロムスさん用に調整しているので僕が使っても満足に使うことはできないですよ。」


「そうか……それは嬉しいけど……そうだ!確かソウジくんは槍を習いたいとか言っていなかったっけ?どうだろう、槍の代金分ソウジくんを訓練するというのは?」


「それはありがたい話です。是非お願いします。それに機会があれば槍以外も習いたいのですが。」


 僕がそう言った時、後ろでギルド長の目が光ったのは気づくことは出来なかった。


 その翌日、ロムスさんの道場にはロムスさん以外の道場主たちが集まっていた。どの道場も小さいながら一芸に秀でた道場らしい。


「ロムスさん、これは一体?それにこの人達は?」


「それについては私が説明しよう!」


 集まっていた道場主たちをかき分けてギルド長がやってきた。


「ソウジ。お前はこの間、道場の債権の束を燃やしたよな?」


「ええ、僕に回収する手段はないし回収できたとしても時間がかかりそうだったので……。」


「それでだ、ここに集まったのはその債権の道場主たちだ。」


「?」


「彼らが言うにはダダで何かをしてもらう訳には行かない。代わりに……喜べソウジ。お前を訓練してくれるそうだ。」


「はい?」


「それに確か昨日、ロムスさんに”それに機会があれば槍以外も習いたい”と言っていたよな?」


「いやでも……。」


「遠慮するな。それにここにいる道場主たちはその道の達人揃いだぞ~。こんな機会滅多とないぞ~。」


「「「「「「「「「「ソウジ殿、これから訓練頑張りましょう!」」」」」」」」」」


 こうして僕のブートキャンプは始まった。

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