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収納スキル

 僕は広間の入り口に立ちスマホを使って中を覗く。


(左確認……いない。右確認……いない。)


 手帳の情報から考えると、この広間にいるのはキマイラだろう。僕は注意深くゆっくりと広間に足を進める。

 スマホをライトの代わりに薄暗い場所を照らすがキマイラらしい姿は何処にも見えない。


(おっと、何時までも灯をつけっぱなしにするのはまずいな……。何時充電できるかわからないし……。)


 そう考えてスマホの灯をきる。暗くなった画面に口を大きく開けた獅子の顔が映るのが見えた。


 !!!


 僕は咄嗟に体を前に投げ出す。柔道で言う前回り受け身と言う奴だ(意外なところで体育の授業が役に立った。)。

 そして受け身の回転と反動を使い、すぐさま立ち上がりキマイラから距離を取る。

 広間の天井は5mぐらいの高さがある様に見える。どうやらキマイラは高い天井に身を潜めていたようだ。

 天井に梁のような物は見えない。天井自体に張り付いていたのだろうか?だとすれば恐るべき力だ。

 


 グルルウルルルルゥ


 キマイラは僕の方を見ると鼻息を荒くし、よだれを垂らしながら唸り声を上げた。

唸り声を上げるキマイラだったが、今いる場所からあまり動こうとしない。その場所で少し左右に動くだけだ。


(まずいな、通路がキマイラの後ろか……)


 僕がこの部屋に来る時に使った通路は今、キマイラの後ろに存在する。あまり動かないのは僕を逃がさない為だ。

 この広間の何処かに扉があるかもしれないが、扉を見つけても開けようとしている間にキマイラは僕に襲い掛かるだろう。


(で、キマイラが動かないのは攻撃手段があるからか……。)


 キマイラには攻撃手段が二つある。その一つがキマイラのブレス、もう一方が毒蛇による攻撃だ。

そう考えていたらキマイラがゴォッと大きく息を吸い込む。


 “ブレス”が来る!


 キマイラに向かって右手のひらを向け収納スキルを使う。

 僕たちを呼び出した豚王や腰巾着の宰相なら収納力が0なのに意味がないと考えるかもしれない。

けれど僕の頭の中には雪さんのアドバイスと予言にも似た言葉があった。


 ”あきらめない” と ”この国を脱出できる確率は100%”


 雪さんの言うことから考えると”どんな状況でもあきらめず、よく考えればこの国を脱出できる”と言うことなのだ。

 この広間に来る前に収納スキルを試したことである仮定が頭の中にあった。


(収納スキルを使ってキマイラのブレスを……。待てよ?キマイラのブレスを対象にしていいのか?もし毒蛇の方も攻撃に来た場合、収納対象のブレスではないのでそのまま通り抜けるだろう。それでは良くない。)


 再度、キマイラに対して右手を構え直しスキルを使う。


(キマイラの攻撃を収納!)


 僕が念じると右手の掌の前に銀の円盤が出現する。円盤の出現とほぼ同時にキマイラが火を噴いた。

 キマイラのブレスは円盤にあたると折り返す様に元のキマイラの大きくあけられた口の方へ戻っていく。


 そして、折り返したブレスは当然様にキマイラの口を直撃する。


「グギャァァァァァ!」


 火を噴いた獅子の頭は自らが吐いた炎でダメージを受け苦しむ。今ならキマイラは僕から目が離れている。


(この隙に部屋へ戻れるかもしれない)


僕は急いでキマイラの横を通り過ぎようとした。

 だが、キマイラにはもう一つ頭がある。もう一つの頭である尻尾の蛇は鎌首を擡げこちらを威嚇した。


「シャァァァァァァァ!」


 確かこの蛇の方は毒蛇だったはずだ。噛まれた場合、どの様な毒を受けるのか判らない。

白骨死体のメモから考えて即死するような致命的な毒ではないと思うが油断は禁物だ。

 僕は蛇の頭を警戒しながらジリジリとキマイラの横を抜けようとする。


「ギャシャーッ!!」


 そうは問屋が卸さなかったようだ。蛇頭の攻撃の間合いに入ったのか大きく口を開き襲いかかって来た。


「うわぁぁぁ!」


 咄嗟に手を振り銀の円盤を蛇頭の方へ向ける。だが、タイミングが遅かったのか円盤は蛇頭の胴体をスルリとすり抜けた。

 だが次の瞬間、信じられないことが起こった。


 ブシャーッ!


 蛇頭が胴体から断ち切られ血を噴き出した。切られた蛇頭は口を開けたままの格好で僕の頭のすぐ横を通り抜けていった。


「ウガァァァァァ!!」


 ブレスで焼け焦げて黒くなった獅子頭が悲鳴を上げる。蛇頭を切られて大変痛かったらしい。

キマイラは獅子頭をブレスで焼かれたことで逆にブレスを吐くことを躊躇しているようだった。

 その証拠にキマイラは素早く僕から少し距離を開けこちらの様子をうかがっている。


 僕はチャンスとばかりにキマイラとの距離を詰め銀の円盤を振るう。


 ブン!ブン!


 キマイラに掌を向ける姿勢の為か円盤を当てようとするが当てづらい。円盤を振るっても腰が引けているのでキマイラに届かない。

 起点が掌から75cmしかないことも関係あるだろう。近寄りすぎて反撃を食らうと目も当てられない状況になるからだ。

 せめて指先から75cmの位置に起点を作れれば……。


 ?


 作れないのかは実際に試していないのでわからない。

 けれど、今の状況はそれを試すチャンスでもある。僕から距離をとるキマイラは通路への道に立ちふさがっていない。


 僕は銀の円盤をキマイラに向けけん制しながらゆっくりと通路に向かう。

時々キマイラはうなり声を上げ飛び掛かろうとするが僕が銀の円盤を見せると素早く後退し、なかなか近づいても無い。

 やはり銀の円盤を恐れている。

 僕が通路へ駆け込むとキマイラの獅子頭がブレスを吐いた。だがそのブレスは僕に届くことなく銀の円盤で反射される。

 キマイラの方も反射されることを考えていたのか、ブレスを吐いた位置から場所を移しているのか反射したブレスが当たった気配はない。


 僕は部屋から十分距離を取った後、収納スキルを解除する(解除と言っても頭で念じるだけなのだが……)。


(さて、指先を起点にした収納の口が開くかどうかだが……。)


 ごく普通に|銀の円盤(収納の口)が出現した。

 と言うよりも、体のどこを起点にしても銀の円盤を出現させることが出来る様だ。けれど銀の円盤を操作するのは指先を起点にした方がやりやすい。

 一通り練習すると、キマイラを倒すべく通路の先の部屋へ進んで行く。


 今度は本番だ。これで倒すことが出来なければこの迷宮から出ることはできない。

 僕は周囲を警戒しながら部屋に入る。

 キマイラの方も僕が近づいてきたのが判ったのか部屋の隅でうなり声を上げている。奇しくも僕がキマイラを部屋の隅に追い詰める形だ。


 僕はキマイラに駆け足で近寄り銀の円盤を振るう。


 スカッ!スカッ!


 銀の円盤はキマイラの体を通り抜けるだけで蛇頭の様に切り飛ばされなかった。何も起きないことの驚いたためか僕の足は止まってしまった。

 そこをキマイラはチャンスとばかり鋭い爪の生えた獅子の腕を振るう。


 バキィィン!


 銀の円盤に当たったキマイラの爪は弾かれキマイラの爪と腕にダメージを与える。


 ガァーッ!


 爪が砕けたことでキマイラは後ろへのけぞった。

 僕はさらに踏み込んで銀の円盤を振るうがキマイラの体を通り抜けるばかりだった。


(攻撃を収納するのでは攻撃は弾くがキマイラ自身には効果がないのか?なら、キマイラにダメージを与えるためにもキマイラを対象にした方がいい。)


 僕は収納の対象をキマイラに切り替えると腕を振るう。


 シュカッ!シュカッ!シュカッ!


 キマイラの両腕、顔の一部を銀の円盤がすり抜ける。


(?効果が無かったのか)


 そう思ったのもつかの間、キマイラの体がビクリと震えた。


 ズルり


 キマイラの腕や顔がゆっくりとずれて行く。そしてボトリとキマイラの頭や腕が床に落ちる。


 ぶしゃぁぁぁぁぁぁ!


 キマイラは血や内容物をまき散らしながらその場に倒れる。辺り一面まき散らされたキマイラの血で海の様になっている。

 当然、その眼前にいた僕も血まみれだ。


「うげぇ!なんじゃ!こりゃ!」


 僕はジーパンをはいた刑事の様に叫び声をあげるのだった。

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