事の顛末
不良債権を焼いた。それはもう綺麗サッパリ。やはり紙だからかよく燃える。
大きく赤く燃える火の前で左右を見るとギルド長とロムスさんが口を半開きにして驚いた表情をしていた。
「え、ええっとウェールズさん。道場じゃなく武器の費用で計算した場合どのくらいになりますか?」
「たしか金貨百枚ぐらいだったかな。」
人を騙すために作られたとは言え特注の魔道具である。制作にはそれなりの費用がかかっているのだ。
金貨百枚と言うと日本円にして一千万円。意外に多いように思えるが、回収できる可能性は低いようだし(回収できるのならとっくに回収しているだろう)債権の差押が道場だと邪魔にしかならない。結局一銭にもならないから問題はない。
「ま、まぁ金貨十万枚と比べると微々たる量だが……。」
「だがこの債権は金貨五万枚分の債務として押収したものだ。額面に変更がある前に焼いてしまったから……。」
実際は債権に問題があるかは微妙なところだが、僕が債権をまとめて焼いたのでネオが支払うべき金額、金貨十万枚の内金貨五万枚を捨てた形だ。
残りの金貨五万枚もネオのその他の資産を差し押さえる事で回収したようだ。その中にはネオが持っていた商業ギルド発行の営業許可書も含まれていた。
「営業許可書?こんなものも差し押さえているのか……。」
「ソウジくん。その許可書は結構資産価値が高い物だよ。この許可書があればフリューゲル王国のどこでも商売ができる許可書なんだよ。」
フリューゲル王国どこでもということは商売をしたい者にとって喉から手が出るほど欲しい物なのでは?
「ロムスさん、ネオという商人は何故この許可書を手放したのですか?」
この許可書は誰かに借金をしてでも手元に残さなくてはならないもののように思える。
「確かに疑問に思うのも無理もない。信用のおける商人ならある程度の資金を融通してくれる者がいるので手元に残すことを選ぶだろう。でも、ネオに資金を融資するものはこのスザーホンにはいない。それに回状が廻るだろうから買い戻す資金を誰からも融通してはもらえないだろうね。」
ロムスさんの答えからするとネオという人は商人としては終わったということらしい。
「ちょっち良いか?ハームの債権についてなんだが……。ハームの所持していたものは道場の他に貴金属類、闘技場の施設の一部、闘技場で使用する魔物などだ。それだけでは足りないから足りない分は強制労働で支払われる。」
「強制労働?」
「ハームとメナスの場合、やったことのペナルティもあるから鉱山送りだな。まぁ、真面目に勤めていれば何年か後には開放されるものだ。」
「インテムドは?」
「やつの場合、犯罪を犯しているので期間が長い。十数年と言ったところだ。」
驚いたことに死刑にならないらしい。死刑にするより労働に服役させ稼がせたほうが良いとの判断だ。
本当にひどい場合、強制労働を続けた後で死刑になるらしい。日本というより地球の場合、強制させる方法がないのでこの方法は取ることはできないが、魔法がある異世界ならではの方法なのだろう。
「で、闘技場の魔物なのだが。」
闘技場の魔物と聞いて僕の隣で寝そべる角の生えた獅子のような魔物をじっとみる。
「ああ、そいつもハームの物……今はソウジのものだな。他の魔獣は訓練されたダイアーウルフ二十頭、ワイルドキャット三頭、アックスビーク十五頭だ。」
「アックスビーク?」
「頭の部分が斧のようになっている鳥だ。こいつらは飛べない代わりに足が速い。ハームはこいつらをつかって賭けレースの開催を計画していたらしい。」
そう言って、ギルド長のウェールズさんは意味ありげに微笑む。
「というわけでソウジくん。魔物の内でダイアーウルフ、ワイルドキャット、アックスビークなんだが……。」
「ギルドに売りますよ。僕には維持管理できそうにありませんし。」
「そうか、そう言ってもらうと助かる。ダイアーウルフやワイルドキャットはよく訓練されているから闘技場のショウには必要だし、アックスビークは馬車を引けるから冒険者の役に立つからな。」
なるほど、賭けレース用にできるぐらいの魔物だから馬車も引けるというわけか。あ、でも僕のこの隣に寝ているこいつは何故対象になっていないのだろう?
「ん?”バロン”か?そいつはソウジ、お前に懐いてるからなぁ。今まで誰にも懐いたことはなかったんだぜ。」
「え?そうなんですか?でも流石にこんなに大きいのは……それに言うことを聞くかどうかは判りませんよ?」
「ん、そうか。ちょっとまってな。」
ギルド長はそう言うと席を立ち数分後、手に紋章のついた首輪を持ってきた。
「これは隷属の首輪というものだ。魔獣や犯罪者に使うものだ。これを着けた魔物と意思疎通ができるようになる。」
「意思疎通……どうして今まで使わなかったのですか?」
するとギルド長は少し苦笑いをした。
「そのバロンはソウジくんほど懐いたことはなかったんだよ。当然首輪なんてつけることはできなかった。」
「え!では僕がこれをつけるのに危険はないのですか?」
ギルド長は顎に手を当てて少し考える。
「……大丈夫だろう。バロンは”森の賢獣”と言われるぐらい賢い。実際言葉をしゃべる個体もいるそうだ。残念ながらそのバロンはまだ幼いからしゃべることはできないが今のこの会話も理解しているぞ。」
そう言われて僕はじっとバロンを見る。するとバロンは”首輪をつけろ”と言わんばかりに僕のヒザの上に頭を乗せた。
「な?!」
「ほら、首輪だ。ソウジ、お前がつけてやりな。血を紋章に垂らすのを忘れるなよ。」
僕は首輪をバロンに巻きつけ留めると紋章の部分に血を一滴垂らした。血が紋章に触れた途端、首輪は継ぎ目のない一つのリングへと変化する。それと同時にバロンの言葉が聞こえてきた。
「なぁなぁ、おいどんのご飯まだ?」
第一声が餌の要求だった。




