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不良債権処理

 僕たちの目の前にある机の上にはギルドが押収してきたという書類が積まれていた。

 この書類はハームとネオの資産、いわゆる差し押さえた資産について書かれているものらしい。


「どうやら僕は場違いのようだから失礼するよ。」


 そう言って席を立とうとするロムスさんをギルド長が引き止めた。ロムスさんにも見てほしい書類があるようだ。


「これは資産と共に見つかった注文書だ。支払いの問題が絡んでくるので合わせて押収しておいた。問題はこの魔道具についてだ。」


 ギルド長が示したのは槍型の魔道具の注文についての書類だった。注文相手は王都でも名の通った職人らしく細かな注文書が残っていた。


「ロッシュウォール製の槍型魔道具。長さは2mぐらいで色は赤っぽい金色。回数制限の耐火能力。ご丁寧に槍の口金の部分を特殊な金属で作る様に注文している。覚えはあるか?」


「魔道具を頼んだ覚えはないが……ソウジくん。例の槍は今持っていますか?」


「”何かに使えるかもしれない”と思って収納袋に入れています。今出します。」


 僕は刃の部分が溶けて固まり団子のようになってしまった槍を収納袋から取り出した。槍だったものは柄の部分に模様の描かれた長いマッチ棒の様に見える。

 ギルド長は丸くなった刃の部分を興味深そうにしげしげと眺めた。


「ふぅっ。一体どうすれば金属が団子状になるんだ?」


「えーっと、ちょと模様を入れようとしたらこんな風になってしまって……。あ、ちゃんとロムスさんには代わりの槍をわたしましたよ。」


「代わりの槍?あの赤金色の槍のことか?」


 ロムスさんが大きく頷いたのを見たギルド長は大きくため息をつくと槍の石突の部分を確認する。ギルド長が見ている石突部分は模様を入れた場合に石突きが脆くなる可能性があった為、手を加えていない。

 ギルド長が石突きの部分に指を当てると何やら模様が石突の表面に浮かび上がった。


「見たまえ。”ロッシュウォール”の紋章だ。この槍はロッシュウォール製の槍型魔道具で間違いない。」


「そんな!私はその槍が魔道具だとは聞いていません!」


「だろうな……ロムスが闘技場の試合でその様な物を手にすることは考えられないからな。それに、この事はロムスだけではない。他にもネオから武器を購入したものが大勢いる。問題はヤツから押収したこの書類だ。」


 ギルド長が僕の前に広げた書類は契約書、スザーホンにある道場とネオが武器を売る際に結んだ物だ。

 その内容は武器の代金の担保として道場の権利や経営権の一部譲渡が記載されている。しかも、その殆どに”返済不能”の文字が欄外に書かれていた。


「この文字はギルド長が?」


「いや、ネオの奴だな。門下生が少なく貧乏で生活の苦しい道場を狙い闘技場に参加させたのがそもそもの始まりだったのだろう。ハームと手を組み道場を罠にはめ勢力を拡大してゆく……ネオの善人ヅラにすっかり騙された形だ。」


 ここで僕に疑問が湧く。ギルドは何故そこのような事態になるまで放置したのだろうか?


「……ここしばらくギルドには特別任務が下りていてな。監視要員を派遣する必要があり奴らを監視できなかったんだ。それに近郊の貴族から介入があった。ネオの奴がスザーホン近郊の貴族であるエンハウト子爵に賂を渡すことでギルドの関与を阻害していたところまでは判っている。ネオは処罰できてもこのぐらいではエンハウトまでは追求できないだろう。まぁ、エンハウトの奴はしばらく大人しくしているだろう。」


 ギルドがかなり強い権力を持つとは言え貴族には対処しにくいようだ。だが今の所、貴族が介入してくることはないようだ。

 そうなると問題は目の前に積まれた債権の山である。

 ネオの罪が明らかになり債権としての価値がなくなる可能性が高い。これは所謂”不良債権”というやつだ。


(うーん。結局ほとんど価値のない紙の束を渡されてもなぁ……。)


 僕は紙の束の前で思案していると少し寒くなってきた。

 闘技場は石造りのためか隙間が多くかなり冷える。特に日が暮れてからの暖房は必須だ。


「もう随分日が傾いたので寒くなってきましたね。」


「そうだな。暖炉に火を入れるか。」


 ギルド長は立ち上がると暖炉を指差し簡単な単語を唱え魔法を使用する。指から小さな炎がふわふわと飛び出て暖炉に組まれた薪に当たる。すると薪は小さく燃えだした。


「今のは?」


「ん?点火ティンダーの魔法を飛ばしただけだが?慣れればできるぞ。まぁ、点火ティンダーだから最初の火が小さいのが難点だがな。」


 大きく燃えるまで時間がかかるようだ。書類の整理をするにも時間がかかるから早く部屋が温もったほうが良いのだが……。

 そう言えば手元に紙があったな。しかも大量に。


 僕は債権の束を掴むと暖炉に放り込んだ。放り込まれた紙の束は大きく赤く燃えてゆく。


「おいおい、いいのか?」


「だって現金化するのに何ヶ月も掛かりそうだし、現金化しても微々たる量でしょう。だったら僕には必要のないものだ。」

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