超高額賭け券と押収
今ロムスさんがおかしなことを言った。
“金貨千枚を賭けていた”
「ハハハハハ、ろむすサン。又々ゴ冗談ヲ!」
なにかとんでもない予感がして声が上ずってしまった。
「いや、ソウジくん。冗談ではないよ。この券をよく見たまえ。」
そう言ってロムスさんは賭け券の表を指した。
“金貨千枚の賭け券”
掛け券の表面の“金貨千枚”の文字がはっきりと書かれていた。僕はその額面を見てしばらく凍りついた様になり動くことができなかった。
「ん?ソウジくん?あまりの金額に固まってしまったか。無理もない。駆け出しの冒険者なら然もありなん。だが、賭け券の持ち主がソウジくんなのは好都合かな?」
ギルド長が部屋の外にいる職員に二言三言話すと職員は手に持っていたか書類の束をギルド長に渡した。
「少し待たせてしまったのはこの書類を整理していたのでな。とりあえず、この書類を見てほしい。ハームとネオの資産についてだ。」
「ハームとネオ……って誰です?」
「ハームは闘技場の賭博を取り仕切っている胴元だ。ネオは今回から胴元になることを決めた商人だ。今回、メナスに賭けていた者は不正行為があったので賭け金はすべて返還された。問題はロムスに賭けていた者、つまりソウジくんへの配当だ。」
賭博の場合、負けた側に賭けていたお金が勝った側に支払われる。
今回のように不正があった場合や負けた側のお金では賄いきれない場合は胴元がその差額を支払うことになるのだ。
「そうなんですか。金貨千枚分が胴元に……。でも胴元のハームやネオって人がお金を払わずに逃げた場合ばどうなるのですか?」
僕がふとした疑問をギルド長に尋ねるとギルド長はニヤリと笑った。
「その辺は抜かりはない。今二人を確保に向かっている。」
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ネオはどうやって家に戻ったのかは覚えていない。気がつけば家に戻り椅子に座っっていたのだ。あまりの出来事に意識が飛んでしまったのだろうか?
(くそぅ、なぜこの真っ当な商人の私がお金を支払わなくてはならないのだ!)
真っ当な商人はネオのように人を騙してお金を手に入れようとはしない。しかし、ネオにとって真っ当な商人はどんな事をしてでも金儲けする商人なのだ。
ネオは寝室に入るとそこに置かれている金庫の前に立った。金庫は人一人はもあるような大きさで金属製だ。重さもかなりあるように見える。
金庫の扉にネオが手を触れると扉がゆっくりと開かれる。金庫自体も魔道具になっているようだ。
金庫の中にはネオが今までためたお金、宝石類がぎっしりと入っている。
(せっかくここまで溜め込んだものを奴らに渡すことになるとは……。まてよ?)
ネオは金庫のお金を見て何かを思いついたようだ。
(何もワシが払う必要はない。幸い胴元になったのは今回が初めて。知らぬ存ぜぬで通せば……いや、そもそもこんな街に居続けたのが間違いだったのだ。今ならまだ大丈夫だ!)
ネオは金庫に入っているお金を取ろうと手を伸ばす。しかし、黒のスーツを着て紳士然とした男がネオの手首を掴み遮る。
「ご苦労さま。この金庫魔道具だからどうやって押収しようか考えていたところだったんだよ。」
「誰だ!ここはワシの家だぞ!」
「闘技場の方からギルドに依頼があって押収に来た冒険者ですよ。隠し財産を含め全て押収するので呼ばれたが魔道具は苦手でね。この魔道具タイプの金庫は中身を別の場所に転送したり爆発したりするものがあるから迷っていたのだよ。」
押収に来たと聞きネオはがっくりと項垂れる。
「ふむ、どうやらその様子じゃ観念したようだね。それとも尋ねれば教えてくれたのかな?」
ネオの手を離すと何か考え込む様子だ。その一瞬のすきを突いてネオが動く。
事もあろうか金庫の扉を締め表面を何やら操作した。
ネオが何やら操作した途端、あたりに警告音が響きと金庫が赤く点滅する。
「おや?」
「クハハハハ!ワシの金は誰にも渡さん!渡すぐらいならこうやってまとめて爆破してやる!」
「そうですか。しかし問題はありません。その金庫の開け方は先程拝見しましたので。」
紳士然とした男は冷静にそして事もなさ気に答えると金庫の表面に手をかざす。すると金庫の警告音も赤い点滅も収まり扉が開かれた。
「アルスさん!こちらの隠し金庫には証文の山がありました!」
魔道具は魔力を使うため魔力感知で発見されることがある。その為ネオは魔道具ではない隠し金庫にも自分の財産を隠していた。
しかし、隠し金庫も腕の良い冒険者の前には裸同然だった。
「畜生っ!」
かくして悪徳商人であるネオは全財産を押収されたのである。