後片付け
僕が”ぢごくえず”の様な光景を目の前にして立っていると関係者を避難させたロムスさんが戻ってきた。
「ソウジくんは無事なようだね。こちら側はダイアーウルフが出た時に慌てた何人かが転んで怪我をしたぐらいで大きな事故はないよ。むしろ一番の怪我はそこで呻いている彼だろうね。」
ロムスさんが指す先にはインテムドが地面に蹲って泡を吹いている。どうやら形勢が悪くなったと見て逃げようとしたが、痛めた腰をさらに悪化させたようだ。更に股間の方に恥ずかしい黒いシミが広がりつつある。
「無理に動いて腰を痛めたか……鍛え方が足りんな。」
先程まで右手の人差し指を突き上げ雄叫びを上げていたギルド長のウェールズさんがやってきてロムスさんとハイタッチを交わす。
「ウェールズさんもお疲れ様。相変わらずの体の切れですね。ダイアー達との連携も完璧でよく動いていましたよ。」
「昔とった杵柄。まだまだ若いものに譲る気はない!ふん!!」
ギルド長はそう言ってポージング、ボディビルで言う”サイドチェスト”のポーズになった。
(いやいや、ここでそのポーズが必要か?)
と、言う突っ込みはさておきロムスさんは少し気になることを言っていた……ダイアー達と連携?
「ああ、ソウジくんは別の町から来たので知らないのか。ダイアー達が壁に飛んでいたのはウェールズさん得意の魔獣芸の一つ。ウェールズさんの拳で殴られたフリをしたダイアー達が壁にぶつかり仕込んでいた血糊を派手にぶちまけるといった物だよ。あんな数のダイアーウルフを殺していれば資金がいくらあっても足りないし魔獣愛護団体が黙っていないよ。」
どうやら闘技場でよくあるショウの一環らしい。それに”魔獣愛護団体”?とか言うものもあるらしい。
「でも流石に今回のは派手すぎですねぇ。あれだけ闘技場の壁を赤くすれば清掃係も大変でしょう。」
「いやー、面目ない。久しぶりなのでついついハッスルしてしまってな。」
ウエールズさんとホルンさんはお互い顔を見合わせ大きな声で笑いあった。
「しかし、この猫、ソウジくんによく懐いているなぁ。ワシには全くなつかないのだが……ま、ワシは犬派だからいいのだが。」
ギルド長に猫と呼ばれた獅子のような魔獣は未だに僕の足元でゴロゴロ言っている。
「これほど魔獣を開放してこの男は何をしたかったのでしょうか?」
インテムドはようやく来た担架(と言っても戸板のようなものだが)に乗せられ運ばれてゆく。どうやら行き先は一般の医務室ではなく地下に設置された牢のようだ。そこで治療も行うらしい。
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僕やロムスさんは簡単な事情聴取があるという事で闘技場にある部屋の一室に留め置かれていた。
僕の傍らには獅子のような魔獣が寝転がっている。餌係の人が魔獣を餌でおびき寄せようとしたが餌の匂いを嗅いだ途端、プィと横向いて見向きもしない。餌係によると人でもあまり食べることのできない高級肉(ミノタウロスのお尻の肉らしい。)なのだそうだ。
どうやらキャットフードはそれ以上のものだった様で餌係には済まないことをした気がする。
ロムスさん達と槍のお礼や世間話をしながら時間を過ごしているとギルド長がやってきた。
インテムドの治療と事情聴取が終わったようだった。
「結局あのインテムドの目的は何だったのですか?」
ロムスさんの質問にギルド長は暫く考えると大まかなところを話してくれた。
「乱入することで試合自体を無効にする気だったようだ。だが、試合が決した後の乱入なので勝敗は覆ることがないと言ったらがっくりしていたよ。」
「試合を無効に?無効になっても再試合になる賭けだから何か意味はあるのでしょうか?」
「ああ、それだがな、何でも金貨千枚をロムスに賭けたとんでもない奴がいたんでそれを無効にしたかったらしい。加えて今回の乱入騒ぎでさらなる追徴金が課せられる。奴らの家は終わったと見ていい。」
「金貨千枚ですか!なるほど、それなら納得ですね。インテムドの家は胴元だから破産することは目に見えている。」
金貨千枚とは僕には考えられない様な金額を賭ける人がいるものだ。
ここで僕は自分が同じようにロムスさんに賭けていた事を思い出した。たしか、賭け券は収納袋に入れたはずだ。賭け券の換金はいつまで有効なのだろうか?
「?どうしたソウジくん?」
「あ、ロムスさん。賭け券の換金はいつまで有効なのかと思いまして……この札なのですが?」
僕は収納袋から取り出した賭け券をロムスさんに見せる。
「賭け券の換金は1週間以内ならいつでも換金可能だよ。どれどれ、ソウジくんは一体いくら賭けて……。」
賭け券の表側を見たロムスさんの動きが凍りついた。
「……ソウジくん。君が金貨千枚を賭けていたんだね。」
?
はい?




