高額賭け券
そして試合の日が来た。空は晴れ渡っており目の前には雲一つない青空が広がっていた。
結局、ロムスさんとの槍の調整は試合当日の明け方まで続けられた。
僕は調整が終わって直ぐに仮眠をとっただけなのでまだまだ眠く頭がぼんやりする。
同じ様に仮眠をとったロムスさんは空に向かって大きく伸びをすると青く澄みわった空を見た。
「良い天気だ。絶好の試合日和だね。ソウジくん。」
道場の看板を掛けた試合なのに緊張した様子はない。ごく普通のいつも通りといった様子だ。
「おはようございます。ロムスさんはあまり焦らないのですね。」
「やることはやったからね。これ以上は無い状態だよ。」
今日の試合の為に万全の態勢を整えたと言うことだ。
道場から闘技場への道すがらいろいろな人がロムスさんに声をかける。ほとんどが道場の関係者で、今日の試合がいかに大事な物かを知って声をかけている様だ。
闘技場へ着くとまず武器の鑑定を行う。僕は収納袋から槍を取り出し検査員に渡した。
検査員は槍に鑑定機を当て魔道具であるか鑑定している。鑑定機を見ていた検査員はしきりに首を傾けて鑑定機を叩いているが何か問題があるのだろうか?
「……おかしい。……具のはず……鑑定機の故障か?」
「どうした、何か問題か?」
「いいえ、主任。何も問題はありません。」
僕の不安をよそにしばらくして問題なしとの鑑定結果が出た。
ロムスさんは槍を受け取ると控室の方へ移動する。
残念ながら僕は道場の関係者として登録されていないので一般と同じ扱いだ。関係者なら関係者席から試合を見ることが出来たのだが残念な事だ。
昨日からあまり眠っていないので試合までの間、少し眠った方がいいだろう。ロビーなら仮眠できるような場所があるかもしれない。
ロムスさんと別れて僕はロビーに移動する。
ロビーでは例によって試合に賭ける人が何人かいるが問題はない。空いている椅子で仮眠をとることにしよう。
ふとロビーの方を見ると賭けの受付を行っている端末らしい魔道具が見える。
そう言えばカトレアさんが闘技場の支払いもカードで可能だと言っていた。と言うことは僕の持っているカードで掛札を買うことが出来るのだろうか?
僕は少し興味が湧いたので端末を操作してみる。どうやら券売機と似たような物らしい。しかし、所々判らない文字が並んでいる。
丁度通りかかった親切そうな顔の人に聞いてみよう。
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ふう。やれやれハーム様にも困ったものだ。あれはあからさまな賄賂ではないか。
だが流石にあれは無い。それに賄賂を要求されても投資価値が今一つの為、少し距離を置く方が良いのだが……。
ん?なんだ駆け出しの冒険者か……無視をしても良いが人の好い外見はこんな時に面倒だ。……とは言えこの様な地道な印象づくりが大事だから仕方がないがね。
何々、ふむふむ、操作が今一つ判らない。
試合の賭けの券売機か、で?買えばいいのか?賭けの対象は?ロムス?端数を?
!!
何だ!この金額は!?駆け出しの冒険者が持つ金額ではないぞ……。
………………
さてはこいつどこかの貴族のボンボンだな……。金額からすると伯爵以上の裕福な貴族か……。
………………
………………
………………
よし!いいことを思いついた。善は急げだ!
そして私は素早く券売機を操作しカードに端数以外のほぼ全額をロムスに賭ける。
これでいい。
後は急いでハーム様の処に行かなくては……。
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親切そうな顔の人に操作をお願いして無事に賭け券を買うことが出来た。
この賭け券と言うのも金属でできており、これ自体が魔道具のような物なのだそうだ。
用途が限定さえる分、極めて少ない魔力で発券できるためこの様になっているらしい。
僕はその賭け券を収納袋へ入れると試合までの間、ロビーの長椅子で仮眠をとった。
寝過ごし対策も問題はない。
受付の人にロムスさんの試合のすこし前に起こしてもらえればチップをはずむと言っておいた。
こうすれば問題なく起こしてくれるだろう。