深淵の迷宮
視界を埋め尽くした白い光が徐々に薄まり、完全に無くなった時には僕は石造りの部屋の中にいた。
「これが迷宮というやつか……。」
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深淵
ヨブ王国でも最大であり最強最悪を誇る迷宮だと言われている。
最大と言ってもどのくらい広いのかはまだ誰も知らない。と言うのはこの迷宮を走破した者はまだいない為である。
そしてこの迷宮への行き方も通常の迷宮とは違う。
通常の迷宮は地上に出来た入口を通る。
だが深淵は地上に入口は無い。
深淵の次に大きいとされる迷宮奈落の最後の扉が深淵への入り口なのである。
奈落の魔物は不死者が主な迷宮であるが、その扉を境に迷宮に出る魔物の構成が全く違うものになる。
違う層に降りると構成が若干変わることはよくある為、当初は異なる迷宮とは思われていなかった。
だが徐々に奈落と深淵が全く異なる迷宮であるという事が周知されるようになった。
奈落と深淵では魔物の種類どころか魔物のレベルまで全く異なっているのだ。
極端なほど深淵の魔物のレベルが高い。その差は他の迷宮の一階層の違いをはるかに超えていた。その為全く別の難易度の迷宮であると考えた方が自然だったからだ。
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部屋は同じ大きさの石材を正確に組んで作られており、明らかに先ほど見たヨブ王国とは技術が異なる。
これ程までに同じ寸法の石材を正確に組んでいる部屋は日本でもかなり珍しい。何処かに調整した跡がありそうなのだが、この部屋にはそれを見つける事が出来ない。天井の石が何個かおきに光っており、それが少し薄暗い照明になっていた。
部屋を見渡すと地面に服を着た白いものがある。
それはどう見ても服を着た人骨だった。
意外にも人骨を見ても僕はあわてたりパニックになったりすることが無い様に思える。これは異世界に来て感覚がマヒしている為だろうか?
だが何か少し違和感を覚えた。
(定番のRPGなら人骨の持ち物を探って武器や情報を手に入れるべきなのだが……。)
取り敢えず人骨に向かい手を合わせてから調べる事にする。流石に人骨相手にまさぐるのは遠慮したいので来ている服のポケットや胸元を探すだけにする。
僕は人骨の背広の胸ポケット、左右のポケットを調べて行く。
(そう言えば、背広には内ポケットがあったな。)
変な色が付いているカッターシャツを気にせずに背広の内ポケットを探る。
(小さな手帳だ。シャープペンシルもついている。確か野帳とか言う野外の業務に使う物だったか?)
背広の内ポケットには細長い深緑色の手帳が入っていた。
中にはこの周辺の簡単な地図と日記らしいものが書かれている。
(何々……部屋を出ると左右に廊下。その右方向へ進むと大きな扉がありその先には魔物がいるらしい。左方向へしばらく真直ぐ進むと右側に枝道。その先には部屋で中は魔物。右に行かずまっすぐ進んだ先は不明か……。)
どうやらこの人骨の主は何処かで引き返さざるを得なかった様だ。この場所に残っている物を考えると攻撃手段が何もなかった為だろうか?
加えて、この人物に魔物の知識(ゲームからだが。)はない様に思える。
イラスト付きで各部屋の魔物が描かれているが、炎の巨人、火吐き犬、獅子の頭に蛇の尻尾を持つ生き物。蛇に尻尾は毒蛇らしく危険と書いている。
これらの生き物は恐らく、ファイアージャイアント、ヘルハウンド、キマイラだろう。
この中で一番強いのはおそらく炎の巨人、その次がキマイラ。一番弱いのは火吐き犬。ただ、火吐き犬の上位種である炎噴き戦闘犬だった場合、一番弱いのはキマイラ。
問題はどの相手も火を噴く能力、所謂、“ブレス”と言う物を持っている事である。
そして炎の巨人と火吐き犬は火に対して完全耐性がある。つまり、火による攻撃が一切通じないのだ。
炎の巨人と火吐き犬のどちらも途中の部屋にいるがキマイラだけは出現場所が書かれていなかった。
「どの道ここに留まっていても餓死するだけだ。それならば今ある手持ちのカードで何とか脱出するしかない。それに収納スキルはいくつか疑問があるから試した方がいな。まず何か収納してみるか……」
部屋を見回しても大きいものは背広を着た白骨死体、その次が手提げカバン。最も小さいものは筆箱に入っている消しゴムだろう。
「まずは大きなものか……。」
僕は右手の掌を”背広を着た白骨死体”に向ける。
「背広を着た白骨死体を収納!」
ギュリンッ!と言う少し甲高い音とともに銀の円盤の様なものが現れる。大きさは半径25cmほどあり、屈むと僕の体が隠れるほどの大きさだ。
「少し大きいな。小さくならないかな?」
そう考えた瞬間、銀の円盤は五分の一ぐらいの大きさになる。
「最小はこのぐらいか……ある程度大きさを変えられるけど形は変えられないか。」
その円盤を白骨死体に近づけるが一向に収納される様子はない。それどころか銀の円盤を白骨死体に近づけるとズリズリと遠ざかってゆく。
「ダメか……次はカバン……いや、一番小さい消しゴムだな。」
消しゴムに銀の円盤を近づけるが、白骨死体と同じように遠ざかる。
ならばとばかりに勢いよく消しゴムに銀の円盤を近づけると勢いよく壁の方向へ飛んで行った。
「弾かれた?……これはもしや?!」
僕の頭にあることがひらめく。
そのひらめきの基づき何度か収納スキルを試した後、部屋を出た。
「さて、どちらの方向へ行けばいいのか……。」
取り敢えず左の方向に進むことにした。そう決めたのは左手の位置が壁に近かったわけではない。行き先が不明の通路が左側にある為だ。
僕は手提げ鞄を背中に背負い(背負うためのがベルトついているのだ)少し狭い通路をゆっくりと進む。
通路の幅は2mで天井までに高さが3mほどある。もし仮に炎の巨人が現れても移動が困難な高さだ。
火吐き犬の場合は二匹ぐらい並べると思う。そして、キマイラの場合は一匹でも狭いかもしれない。
右への枝道を通り過ぎそのまま真直ぐ進む。天井の明かりも相変わらず薄暗い照明だが、しばらく進むと広間がある様だ。
広間の入り口に立った途端、中から強烈な獣の臭いが鼻を刺した。
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