火炎対策
翌日、僕は少し気になったのでロムスさんの道場を訪ねてみる事にした。
ロムスさんが戦う相手は”聖天心流”のメナスである事が気になったのだ。そもそも相手にしなければ良いのに何故あんなのを相手にすることになったのだろうか?
その答えは当のロムスさんが自らの道場で教えてくれた。
道場は大きな板の間で出来ていて天井も高く槍などの長い武器を振り回すのに十分な広さがある。壁には槍だけでなく刀や木剣も掛けられており、どこか日本の剣道場と似たような作りである。
「スザーホンでは昔から道場がお互いの看板を賭け対決することがよくあるんだ。その為、いろいろな流派が混じり新たな武術の流派が多く生まれた。中にはすぐに消えてしまった物もある。しかし、お互いの看板を取ったり取られたりすることでこの町の武術が発達したことは間違いのない事実なんだ。」
ロムスさんが言う事を言い替えれば、道場が切磋琢磨することで武術が発達していったという事なのだろう。
「始めは”聖天心流”なんて駆け出し剣士が起こした流派の一つだという認識だった。それがあっという間にいくつかの流派を従え遂には闘技場の興行にもかかわる様になった。その一つが興行として闘技場での道場対決だ。武術に優れていても人が集まらない道場主にとっては渡りに船だった。だが結局は”聖天心流”はさらに多くの道場を傘下に引き入れてしまった。そしてわずか数年でスザーホン一影響力のある道場になったんだ。」
金銭的に困っている道場を傘下に収め大きくなってゆく。道場ではないが日本でも似たような事はある。
「”聖天心流”の影響が大きくなるにつれ闘技場のルールは彼らにとって都合のよいルールに変えられてしまった。闘技場で限定戦や団体戦が無くなったことは知っているかい?」
「団体戦は何となくわかりますが、限定戦?」
「限定的な状況、例えばダンジョンの中とかを再現した場所を闘技場に作り戦う方法だよ。”聖天心流”曰く費用がかさみ過ぎるので廃止された。狭いダンジョンではメナスのあの武器は使い難いからね。限定戦が廃止されたのも同じ理由だろう。」
たしかに、メナスのあの攻撃では周囲の見方も巻き込んでしまうだろう。そうなれば”聖天心流”側に勝ち目はなくなる。
「今の規約を変えようにも”聖天心流”は看板を掛けろと言う始末。ニコルはその規約を変える為に”聖天心流”に挑んだのだ。そして次は僕の番なのだよ。」
ロムスさん達にとっても今の闘技場の状況は良いものでは無ないという事だった。
「勝つ見込みはあるのですか?」
「正直に言うと昨日までは絶望的だった。だけど……。」
ロムスさんは話の途中で立ち上がると壁の最上段に掛けられている槍を手に持った。
「ソウジ君。この槍を手に入れることが出来た為、勝機が出来たと言える。後は自分の腕次第だね。」
その槍は全体的に少し赤みを帯びた金色、飾りのような物は一切なく無骨な作りをしていた。言うなれば金属の棒に槍の穂先をつけただけの物である。
「この槍は火炎に対して耐性があって鍛冶場の火でも溶けることがなかった。」
確かに火に耐性のある槍ならメナスのあの攻撃をいなすことが出来るだろう。
「ただ、この握りの部分が滑りやすくてね、革でも巻こうかと考えている。問題はそれぐらいだろうか……。」
金属の棒に槍の穂先が付いただけの物ならそういうこともあるだろう。でも何故加工してもらわないのだろうか?
「ああ、加工してもらおうにもお金が無くてね。この槍だけで金貨五百枚もしたんだ。これを買うために家屋敷を抵当に入れても加工費までは作れなかった。でも、この槍は最も固い金属らしいよ。」
屋敷を抵当にとは……どうやら武器を手に入れるために大金を払ったため加工費を捻出できない様だ。最も固い金属?どこかで聞いたことのある慣用句だが武器を売るときのお決まりの台詞だろう。
しかし、ロムスさんは加工費が捻出できないのか……!
ここで僕に閃くものがあった。
「ロムスさん、その握りの加工。僕に任せてくれませんか?」
「え?ソウジ君は加工が出来るのかい?それは願ったり叶ったりだけど……。」
二の足を踏むロムスさんに僕は収納袋の中から僕自身が加工したものを取り出す。流石に迷宮の扉を加工した物は見せることはできないので、練習用に金属棒を加工した物を見せることにした。
「これをソウジ君が!素晴らしい加工だよ、これならぜひお願いしたい。でも……。」
「判っていますよ。加工費はできた時でいいです。ギルドに預けてくれればそれで僕の処へ届くはずです。」
「そうかい!それはありがたい!」
「じゃあ、その槍はニ、三日預からせてもらいますね。後、どうせなら性能に影響が無い範囲で模様を施しておきますよ。」
僕はロムスさんが大金を払って手に入れた槍を加工するためにニ、三日預かることになった。
ロムスさんの試合は明々後日の予定だから前日には届けられるだろう。
 




