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気晴らしのダンジョン(予定)

 ブライさんからギルドの併設された酒場で簡単にパーティメンバーを紹介された後、ダンジョンに向かう。

 これから向かうダンジョンはスザーホンから一時間足らずの時間で到着できる場所にある。

 階層も浅く出てくる魔物も低レベルの物が多いので見習いから駆け出しの冒険者がよく探索する場所だ。

(もっとも見習い冒険者だけの場合は一層目ぐらいにしか行かない。)


 ダンジョンは少し大きめの洞窟の様な形をしており道幅も広い。

 僕はブライさん達に連れられて一層目から始まり、二層、三層と戦闘を行いながら移動する。

 出てくる魔物はゴブリンの亜種が多くゴブリンシーフからゴブリンメイジまで様々な種類のゴブリンが出現する。

 ゴブリン程度ならCランクの冒険者なら瞬殺なのだが、それでは僕の訓練にならないとブライさん達は出現した魔物の一匹を僕と刃を交える様に誘導した。

 手持ちの短槍を何とか突き刺してゴブリンに対抗するのだがうまく行かない。そんな僕の姿を見てブライさんは少し首をかしげている様だった。

 そんな時、ダンジョンに響き渡る声が聞こえた。


「行くぞ!必殺旋風剣!どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ダンジョンに響いて聞こえるのは聞き覚えのある暑苦しい声だ。


「この先に広間がある。そこはゴブリンどもがよく湧き巣になっていることが多い。誰かがそこで戦っているな。」


 この先の広間で誰かがゴブリン相手に戦っているらしい。誰かがと言ったがおそらくあの尊大な男だろう。

 ブライさんを先頭にダンジョンを進んでゆくと広間に出る。


「フハハハハハ!右回転……左回転……我は無敵だ!どうだ!ゴブリンども!怖いか!怖いか!」


 そこではあの尊大な男、(インテムドだったか?)が両手剣をグルグルとコマの様に振り回しゴブリンたちと戦っていた。

 戦っているのはインテムドだけかと思えばそんなことはなく、広場の入り口近くに三人が立っていた。装備から判断すると、剣士、僧侶、魔法使いと言ったところだろう。


「少し時間が掛かりそうだな……横を抜けたいがあれじゃなぁ。」


 先に進むにはこの広間を抜ける必要がある。しかし広間ではインテムドが両手剣を振り回しているので危なくて横を抜ける事さえできない。


「殲滅力が低いな……。」


 インテムドの動きを見ていたブライさんがそう呟く。

 インテムドが振り回す両手剣はゴブリンたちを浅く切るだけで倒すことはまれの様だ。何度か切り付けてゴブリンを倒した時には次のゴブリンが沸いている。

 ブライさんが言う通りインテムドの攻撃ではゴブリンの数があまり減っていないのだ。


「それにあの攻撃では……。」


 ブライさんが言い終わらないうちにインテムドが真っ青な顔をしてその場に膝をついて四つん這いになった。


「うぷっ!きもぢわるい……。」


「まぁ、あれだけグルグル回っていたら当然だな……。」


 ブライさんは少しあきれたように言った。

 膝をつき動きの悪くなったインテムドをゴブリンたちが見逃すは無い。遠い間合いから槍でチクチクとインテムドをつついている。


「痛い!痛い!くそゴブリンが!」


 インテムドは両手剣をブンと振るって反撃するが四つん這いになっている為か先ほどまでの勢いはない。その為ゴブリンたちは簡単に避けてしまった。

 ゴブリンたちは再び、今度はキャッキャと笑いながらインテムドをつつく。ゴブリンたちには広間の入り口にいる僕たちが見えているはずなのだがインテムドをつつくことに夢中になってこちらを見ていない様だ。


「糞ッ!こら!回復役!我を治さんかっ!」


「で、でもインテムドさん。周りにゴブリンがいるし……こっちに戻ってくれないと治せないですよぉ。」


「何だと!治すのがお前の役目だろう!誰でも良い早くしろ!」


 インテムドは入口付近にいる僧侶に向かって怒鳴り散らした。

 どうも空気が怪しいな。念ためにスマホで撮影しておくか。前は音声だけだったが今回は映像付きで撮影しよう。僕はスマホを収納袋から取り出しビデオのスイッチを入れた。


「何度も言わすな!お前の仕事は我を治すことだ!理由をつけてサボろうとするな!この愚図がっ!お前の代わりは何人でもいるんだ!ぐほぉ!」


 僧侶を怒鳴るために後ろを向いたインテムドの尻にゴブリンの槍が突き刺さった。気のせいか刺さってはいけないところに刺さっている様な気がする。


「うわなにをするくぁwせdrftgyふじこlp」


 ゴブリンが突き刺さった槍をぐりぐり動かすとインテムドは鼻水を垂らしながらわけのわからない言葉を発する。

 そのインテムドを治療する為、僧侶はおそるおそる近づこうとするがその動きをブライさんは止める。


「君が前に出ると危ない。我々に任せたまえ。これでも我々はCランクの冒険者だ。」


 そう言うとブライさんは冒険者カードを取り出した。ブライさんの冒険者カードの表面は僕の白いカードと違って緑色だ。


「ジョンお前は右側をケイスは左側、マイケルは魔法で援護、ウイリアムは回復魔法の準備、カルロスは首位を警戒。」


「「「「「了解!」」」」」


 ブライさんが指示を出すとパーティメンバーは素早く散開した。それはごく自然な物で流れるような動きだった。


「下がれ!インテムド!ゴブリンは我々が殲滅する!」


「ぶひぃぃぃぃ。助かった。」


 インテムドは四つん這いでハイハイしながらゴブリンから遠ざかる。

 遠ざかるインテムドと入れ替わりブライさんがゴブリンの前に立つと一刀のもとに切り伏せた。

 流れ作業を見ているかの様にあっという間にゴブリンが倒されてゆく。Cランクとなるとゴブリンでは障害にならないものらしい。

 ものの数分しないうちに広間にいたゴブリンはすべて倒された。


「糞っ!ランクが上だからと言って我の獲物を横取りしおって!それが許されるものかっ!」


 仲間の僧侶に治癒魔法を使ってもらったのかインテムドはすっかり元気になっている。助けられたことがどうも気に入らない様で仲間の僧侶や魔法使いに当たり散らしていた。


「こうなったら……。」


「インテムドさん、あの……。」


 仲間の戦士が僕たちの方を見る。様子を見ている僕たちに気が付いたのかインテムドは助けられた礼も言わず引き上げて行った。


「何だったのですかね?あの人たちは……。」


「……何か嫌な予感がするな。」


ブライさんは少し考えるとダンジョンから引き上げる事に決めたようだ。周囲を警戒しながらダンジョンを脱出するとまっすぐスザーホンの冒険者ギルドに戻った。

 ギルドの前まで来ると、中から暑苦しい男の怒鳴り声が聞こえてきた。


「あの連中は私が戦っている邪魔をした上、獲物を横取りしたのですよ!」


「……」


「……」


「やれやれだな……。」


 そう言うとブライさんはフゥーッと大きなため息をついた。

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