ギルドの推薦
何処のギルドでもこの手の冒険者はいるのか……。
僕が頭を抱えているとカトレアさんが鎧の男に警告を鳴らした。
「インテムドさん。あなたの行為はギルド則に抵触します。このままですと相応のペナルティを受けることになりますがいかがいたしますか?」
「はぁ?ギルドの受付風情が偉そうに……我を誰だと思っている!こう見えてもCランク目前の冒険者!そして聖天心流ファルクム派の次期当主と名高い筆頭のメナス兄上の弟だぞ!」
「それが何か?当ギルドは冒険者を支援する為のものであって特定の誰かの為に便宜を図る場所ではありません。」
「あ、あん?我は聖天心流だぞ。我らと事を構えるという事はフリューゲル王国と事を構えるってことだぞ?」
「お聞きしますが、聖天心流と事を構えるとなぜフリューゲル王国と事を構える事になるのですか?」
「そりゃ、メナス兄上がホルン陛下の剣技を再現したと王国から認めて……」
インデムドは話の途中で口を両手で押さえる。
「認めて……なんですか?インデムドさん?」
「み、認めてもらえるかもしれない。そうなった場合は我が聖天心流と事を構えるのはどうかと……。」
最初の威勢は何処へ行ったのかインデムドの語尾が小さくなってゆく。
「そうですね、国家に認めてもらえるといいですね。しかし、冒険者ギルドは王国直営の組織です。その組織が王国と対立すること自体あり得ない事であると理解されていますか?インデムドさん?」
「……ちっ!」
インデムドは踵を返すと忌々しそうに冒険者ギルドから立ち去った。
「……流石に襤褸は出しませんか……失礼しました、ソウジさん。この度は大変不愉快な思いをさせ申し訳ありませんでした。」
カトレアさんは少し緊張したような顔で僕に対して謝罪した後、深々とお辞儀した。
「い、いいえカトレアさんが悪いわけでは……あの手の変なのはどの世界にもいる事ですし特に気にはしていません。」
「そうですか、そう言っていただけると当ギルドとしても助かります。ところでソウジさん。今日のご予定は何かありますか?なければ当ギルドとしてある提案をさせていただきたいのですが?」
少しほっとしたような顔をしたカトレアさんは僕に対しちょっとした提案を言ってきた。
一体どのような提案なのだろうか?
「このスザーホンは闘技場の他、街の近隣に大小さまざまなダンジョンが存在します。その一つに行かれてみてはいかがかと?」
確かに冒険者と言えばダンジョンと言うのが定番だ。それは元の世界でもこの世界でも変わらないらしい。
しかし、僕は見習いの冒険者である。その見習いにダンジョンへ行けと追うのはいかがなものかと思うのだが……。
僕が躊躇しているとカトレアさんはテーブルの上に何冊かの書類を置いた。
「そうですね、ソウジさんは見習い冒険者ですので躊躇されるのはもっともです。ですので、先導役と一緒にダンジョンに行ってみてはいかがでしょうか?先導役とは見習い冒険者をサポートする人たちで、Cランク以上の冒険者がその役目に着きます。」
カトレアさんはランクの高い冒険者と一緒にダンジョンへ行ってみてはと言っているのだ。確かに、カトレアさんの考える通りランクの高い冒険者と一緒なら問題は無い。
「……そうですね。今の時間なら……この冒険者はどうでしょうか?ソウジさんよりも年が上ですが何でも相談にのってくれると思いますよ。」
そう言ってカトレアさんが示したのはCランクの冒険者のパーティだ。Cランクと言えばユーフォニアムのジェームズさん達はCランクだったな。チューバの青の翼はDランク……。うむー、CランクとDランクには大きな違いがあるのだろうか?カトレアさんに聞いてみるか。
「CランクとDランクの冒険者の違いですか……。一言で言うとDランクの者がCランクに上るには試験とギルドの推薦が必要です。Cランク冒険者になると幾つかの優遇措置を受けることが出来る代わりに幾つかの義務が発生します。その一つが後輩の育成となります。」
僕が少し躊躇していると見たのかカトレアさんが僕を安心させるために彼らについての書かれた項目を指し示した。
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Cランク冒険者のブライは、ジョン、ケイス、マイケル、ウイリアム、カルロス達五人と共に“ルーティルダ・シュタイン”を率いている
彼らはコルネットに拠点を置いており、活動範囲はコルネットからスザーホンまでの間である。
Cランク冒険者としての経歴は長いが低ランクの後輩冒険者達からの評判も良く近々Bランクに上ると予想されているほどの実力者であり人格者である。
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……と言うのが冒険者ギルドの彼らについての評価らしい。
カトレアさんが推薦する冒険者は“ギルドが推薦する”、つまりギルドがその冒険者の人となりを保証しているという事だ。
「判りました。ではカトレアさん、お願いできますか?」
「はい。と言うわけで、お願いね、ブライ。」
カトレアさんが食堂の方向に声をかけると大きな黒い影がのっそりと動いた。
「わかった。今日はこのヒヨッコ一人で良いんだな?」
目の前に現れたのは茶髪で大柄のちょっと神経質そうな男だった。
「み、見習い冒険者のソウジです。よろしくお願いします。」
僕は受付までやって来たブライさんに軽くお辞儀をした。
「あ、ああ。よろしく。……いい所の育ちなんだな……。」
ブライさんは僕の態度に少し面食らっている様だった。だがすぐに元の神経質そうな顔に戻った。
「ついて来るといい。パーティメンバーを紹介しよう。」
僕は酒場に向かうブライさんの後に付いて行った。