預り証
翌日は昼過ぎになってから冒険者ギルドへ行く。
カトレアさんが何か用があるみたいだ。ただ、早朝のギルドは依頼を受ける冒険者たちで溢れかえりカトレアさんの仕事の邪魔になるだろう。
前回の様に朝早くに行ってもよかったが今日はあまり焦らずゆっくりとしていたい。(寝過ごして起きたら日が昇っていたと言うのは秘密だ。)
ほとんどの冒険者は依頼を達成するために外へ出ている為、昼過ぎのギルドにたむろする冒険者は極めて少ない。
いても、依頼にあぶれた者や依頼が急遽キャンセルになった者ぐらいだ。
カトレアさん達、ギルドの受付をしている人たちは丁度手が空いていて軽い休憩中なのか楽しそうに談笑中だ。
そんな中、ギルドに来た僕に気が付いたのかカトレアさんが受付のカウンターまで小走りにやって来た。
「ソウジさん丁度良い所へ。ソウジさん宛の手紙と報酬がチューバの冒険者ギルドから届いています。」
チューバのギルドからという事はグレースさんからだろう。でもいったい何の用事があるのだろうか?
報酬?何かあったような、無かったような?…………?
カトレアさんから手紙を受け取りその内容を確認する。
-ソウジさんへ-
討伐を行った魔物の報酬をギルド経由でお支払いします。報酬はスザーホンの冒険者ギルドから受け取ってください。
追伸:くれぐれも自重するようにしてください。
グレースより
どうやらギルド経由で魔物の討伐報酬が支払われるらしい。魔物と言えば多頭竜を討伐したのを思い出した。あの素材の買い取り報酬をギルドで受け取れば良いみたいだ。
取り敢えずカトレアさんから報酬の金額を聞いてみよう。
「カトレアさん。報酬はいくらぐらい出ていますか?」
カトレアさんは手紙と一緒にギルドに届けられた銀色のプレートを鑑定機にかけその中身を読み取っていた。
「……このカードによると金貨千三枚、銀貨七十三枚です。支払方法はどの様にしますか?」
金貨千枚以上。今泊っている宿屋が銀貨七枚、日本円にすると七千円、銀貨一枚千円と仮定する。
金貨一枚は銀貨百枚なので金貨千枚は銀貨十万枚。と言う事は金貨一枚が日本円で十万円……なんだ十万円金貨か……。
で、報酬は金貨千枚として一億円!
……どうやら僕はいつの間にか億万長者になっていたようだ。
だが、支払方法か……町ではまず間違いなく金貨を使う機会は少ない。金貨よりも銀貨もしくは銅貨が主流だ。
とは言え、支払いを銀貨や銅貨にしてもらうと枚数が多すぎる。ちゃんと枚数を確認するのに丸一日はかかるだろう。
「ギルドとしてソウジさんには一部を現金で支給し、残りをカードによるギルドへの現金預け入れを提案いたします。」
現金預け入れ?なんだか銀行みたいなことをギルドはするのだろうか?
「今回、チューバのギルドから送られてきたカードをソウジさん専用の預り証とすることでギルドでの現金の出し入れが可能となります。これはフリューゲル王国内なら何処のギルドでもお金の出し入れが可能となります。ギルドが預かっている金額はカードに魔法的に記載され、カード自体がミスリル製であるので書き換えや偽造は不可能です。そしてカードの表面に現在ギルドが預かっている金額が提示されます。」
どうやら利息の付かない銀行カードと言ったところか……。元の世界でも利息は微々たるものなので同じと言えば同じだが……。
「それで、預けていることで手数料みたいな物はあるの?」
ATMの引き出しと同じなら手数料がひかれる可能性がある。
「ございません。これはギルドに対する貸し付けと思ってください。その際の利息は預り金と相殺されると考えてください。」
どうやら引き出しの手数料もないようだ。あとは他の使い方がだが……。
「このカードがあればギルドと提携しているお店での宿泊費や飲食費がカードから引き出せます。他には闘技場での支払いもこのカードで行うことが可能です。」
銀行カードかと思っていたらクレジットカードか……。でも銀行カードでもクレジットカードに出来る者があるから似たようなものだろう。
「じゃあ、カードには金貨五十枚を残りは金貨三枚、銀貨七十枚、銀貨三枚は銅貨三百枚でお願いします。」
ギルドの金庫から貨幣を取り出している間、カードに僕を記憶させる。
やがて金貨三枚と銀貨七十枚、銅貨三百枚が入った袋が受付のカウンターに置かれる。銅貨三百枚があるためか結構袋が大きい。
僕はその袋を収納袋へ納めた。収納袋の表示を見る限り何も問題は無い様だ。
「ほう、お前は収納を持っているのか。丁度良い、我の荷物持ちをさせてやろう。」
僕が振り向くと偉そうにふんぞり返り金属鎧に身を固めたひげ面の男がいた。脇に抱えている兜はバシネットと呼ばれる完全に顔を隠すことの出来る物だ。茶色い髪の毛はあまり手入れされていないのかボサボサで背中には金糸模様が施された赤いマントを羽織っている。
「ふむ。我が偉大だからと言って遠慮することはないぞ。」
僕は首を傾げる。この人はなぜ偉そうにしているのだろうか?関わりあうべきではないな。とりあえず無視しよう。
こんな奴の事よりもカトレアさんからもう少しカードについて聞かなくてはいけない。銀行カードでも引き出せる最大金額がある。このカードでもそれはあるはずだ。
僕は何事もなかったかのようにカトレアさんの方へ顔を戻した。
「それでカトレアさんこのカードについてですが……。」
「我を無視するんじゃない!我がせっかく荷物持ちにしてやるろうと言うのにその態度はなんだっ!」