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闘技場

修正した部分をアップします。

 スキルの効果を調べるためにはそれを試す場所が必要だ。出来れば周囲から見ることのできない場所が良い。カトレアさんなら何か知っているだろう。


「周りから覗かれない練習場ですか?申し訳ありませんが、そもそも当ギルドに練習場は無いのです。代わりに闘技場を使うことを勧めします。」


 カトレアさんによると維持管理にコストがかかる練習場を廃止し闘技場を使うことにしたらしい。確かに近くに闘技場がありその場所の練習場が使えるのならギルドには必要ない。


「闘技場への入場は冒険者カードを提示すると無料で入場できます。また、練習場の使用料金には割引があります。今の時間なら練習場は開いていると思いますよ。ギルドの裏口を出て裏通りを南へ向かって進めば闘技場のある通りに出ます。」


「ありがとうございます。早速闘技場へ行ってみます。」


 僕はカトレアさんに言われた様に冒険者ギルドの裏口から裏通りに出た。

 闘技場の場所はスザーホンの歓楽街、街の南側にある。闘技場の形はイタリアのコロッセオと同じ円形闘技場だから判りやすい。裏通りからもその円形闘技場の一部が見えていた。

 闘技場へは表通りからだとぐるりと大回りする事になる。裏通りのルートはカトレアさんが言った以上の近道だ。

 僕は足早に円形闘技場へ向かった。


 -------------------


 朝早くから闘技場の周りには何人か集まってワイワイ話している。


「第一試合は“鉄拳”かな?」

「いやいや、”駿動“もこの頃油断できないぞ。」

「確かに若手では有望株だが鉄拳に比べると落ちる、だからオッズは6:4で鉄拳だな。」


 オッズを言った男は周りの人たちから小銭を受け取っていた。彼らは予想屋なのだろう。闘技場での対決は観客に見せるショーだけでなく賭け事の対象になっているようだ。


「後は最終試合の予想か……。」

「あれか…… 。」

「いらないな。どうせ”聖天心流“だ。」

「全く……あれはどうにかならないものかね?」

「スキルの延長だから問題ないと見解が出ていたが、闘技場の支配人はソーデルトだろ。”聖天心流“と繋がっているからな。」

「で、オッズは?」

「0.1:10でファルクムのバカ。」


 この予想には誰もお金を払おうとしない。それに”聖天心流“の名前が出てきた。彼らの話からするとギルドだけでなく色々な所に出資して影響力を上げている様だ。それに”ファルクム”……どこかで聞いたような名前だ。

 僕は彼らの横を通り過ぎ闘技場の受付へ行く。闘技場でも朝早くから練習場を使う為に何人か並んでいた。並んでいるのはみな若い……出場者だろうか?


 彼らの様子を見ながらしばらく待っていると僕の番になった。


「いらっしゃいませ。本日のご用件は何でしょうか?」


 受付には赤髪でショートカットの美人さんがにこやかに微笑んでいる。冒険者ギルドと違うのはその後ろに筋骨隆々の闘士らしい人がいることだ。


「練習場を使いたいのですが……これ、ギルドカードです。」


「はい確認します。冒険者ギルドの方ですね。練習場の大きさは大、中、小と三つありますがどれにしますか?一人で使うのであれば小をお勧めしております。」


 長射程や効果範囲の大きなスキルを使う訳では無い。小で問題はないだろう。


「小でお願いします。」


「承りました。小部屋は左手奥の通路側になります。料金は冒険者ですので二時間銀貨1枚になります。」


 二時間で銀貨一枚と言うことはちょっと高いカラオケの料金だろうか?闘技場にはドリンクはついていないが……。



 小練習場といっても十二畳弱、10m×10mほどの大きさの部屋だった。

 石とコンクリートを組み合わせた作りで、明り取りの小さな窓がある他は部屋の隅に小さなベンチがあるだけの殺風景な部屋だ。そもそも武術の練習場なのだからこのような物なのだろう。

 僕は部屋の出口や窓を調べ覗かれない事を確認する。

 グレースさんやロジェスちゃんが言うには僕は注意しても注意し足りない事は無いそうだ。注意して行動していると思うのだが心外だ。そう思い少しがっくりとする。


 兎も角、僕は気を取り直してスキルの検証を始めよう。先ずはスキルの立体化。どの様な形に出来るのだろうか?


 ―――――――――――――――――――――


 結局、昼すぎまでスキルの検証を行った。

 思いのほか時間が掛かったのはスキルを使って色々な金属棒の加工を試してみた事と収納袋の中の物を並べて確認したためだ。僕はあまり気に留めなかったが、ダンジョンの中ボス部屋で拾った武器や防具が一個中隊分はあるかと言う量だった。


 種類では短剣類が最も多く五十本、次が多い順番に槍、剣、斧、弓、杖の順番だった。この内、槍と剣の数は槍二十四本、剣二十一本で数にあまり変わらないと言っても良いだろう。斧と弓、杖は十二本、十一張、十本で槍や剣と比べて半分ぐらいしかない。

 数の傾向から考えると、短剣はほぼすべての兵士が持っていて槍や剣が主力の小隊、斧、弓、杖が分隊と言ったところか?

 盾や鎧、兜、籠手、具足は同じ種類でまとめようと考えたが、違いが今一わからないので保留にした。鑑定のスキルを手に入れるか鑑定の持っている者に任せるかしかないだろう。


 一通り検証が終わったので僕は清算の為に闘技場の受付カウンターへ向かった。


 受付の周りは朝よりも人が多く集まり長い列を作っていた。どうやら訓練場を使うための列のようだ。カトレアさんの勧めで早く来て正解だったようだ。僕はその列の途中に見た事のある男の顔を見つけた。


「?」


「おや、あなたはあの時の!」


 痩せた男が並んでいる列を抜けてやって来た。


「どうもありがとうございます。おかげであの時は助かりました。」


「ええっと?」


「あ、これはすみません。申し遅れました。私はこの街、スザーホンで槍術の道場を経営している“ロムス”と言います。おかげさまで妻も無事家に帰ることが出来ました。」


 妻と聞いてようやく思い出した。スザーホンの街に入る前に次期当主とやらに絡まれていた男だ。槍術の道場主とは判らなかった。気の弱そうな男に見えたし、次期当主の恫喝にも震えていた気がする。大丈夫か?この男の道場は……。


「お恥ずかしい話、私は槍を持っていないと気が弱くて……。あの時も散歩で槍は無粋だろうという事で持ち歩かなかったのです。」


「ロムスさんは受付に並んでいましたが、良いのですか?もう既に別の人に並ばれていますよ?」


「ああ、良いのです。まずはお礼が言うのが先ですから。列はまた並び直せばいい。それで……。」


 ロムスさんは僕の名前を言おうとして言葉に詰まる。そういえば自己紹介がまだだった。


「僕は冒険者のソウジ。まだ見習いですが、正式な冒険者になる為に王都へ向う旅の途中です。ここへはスキルの訓練に来たのです。」


「ああ、なるほど。冒険者さんだったのか。うちの道場にも何人か来ています。私の場合は偵察と訓練をですね。試合と言っても五日後なのですが……。」


 ロムスさんの試合は五日後らしい。対戦相手は誰なのだろうか?


「それで、ロムスさん。対戦相手は?」


「残念ながらまだ判りません。“聖天心流”の誰かなのは確かなのですが……。」


 “聖天心流”か……そういえば予想屋が言っていたオッズがとんでもないことになっていたけど、あの怪しい“聖天心流”にそこまでの使い手がいるのだろうか?


「“聖天心流”のそれほど凄い剣技なのですか?」


「……そうだね。僕が言うよりも実際見た方が早い。ソウジくんはメナスの威圧に耐えることが出来る人なのだから多分判るだろう……。」


 ロムスさんは少し黙って考えると意味深な事を言った。


 -------------------


 僕とロムスさんは試合が始まるまでの間、上の階にあると言う食事処?というか、喫茶室で試合開始を待つことにした。

 喫茶室での軽食と言うのはクレープのような生地に肉や野菜を挟んで食べるトルティーヤのような物だった。この世界にもトマトの様な物があるらしくケチャップの様なソースで味付けされていた。


「これは?」


「トルテヤと言う食べ物だ。フリューゲルが出来るより遥か大昔、魔王を倒すためにやって来た勇者が伝えたと言う話が残っている。この町の特産品だよ。」


 異界召喚は遥か大昔から使われていたらしい。でも召還された勇者はどうなったのだろう?


「それで、その勇者は魔王を倒してどうなったんだ?」


「……召喚した国の姫と末永く幸せに暮らしました……という事になっている。」


「そうか……。」


 勇者の話の内容からすると、帰る方法がない可能性が高い。この事は一緒に召喚された他の人に言うべきか悩むところだ。それに僕自身も帰れない可能性がある事について思いのほかショックを受けていた。

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