ダンジョンへの追放
追放へ至るまでのくだりを少し変更しました。
ヨブ国王は自室のベッドの上で収納スキルの報告書を今か今かと待っていた。
国王の頭の中にあるのは、収納スキルがヨブ自身思っていた通りのスキルであるなら、収納スキルを使い自らの夢をかなえる事が可能だからだ。
希望をかなえた時の事を考えニタニタ気持ちの悪い顔をする半裸のヨブの両脇には一糸まとわぬ姿の王妃と王女が同衾していた。どうやら彼女たちは自称王妃と自称王女らしい。
ヨブ国王は自らの愛人に対して熱を上げる異世界人を見て薄暗い愉悦に浸る趣味があった。
異世界人が熱を上げる自称王女が自分の愛人であることを知った時の反応に望外の喜びを感じるのだった。
「陛下、今朝は上機嫌でいらっしゃいますわね。」
「うむ、アッキマ。今後の事を考えるとつい頬が緩むと言う物だよ。グふュグふュグふュ。」
笑い方も気持ち悪いのだがアッキマ王女(自称)は気にもしていない様だ。
「まぁ、悪い笑みです事。ふふふふふ。」
自称王妃はヨブでっぷりとしたお腹に手を置きながら妖艶な微笑みを浮かべる。
「そう言うな。“収納スキル”の事を考えるとつい笑みが浮かぶと言う物だ。グふュふュふュ。」
するとアッキマの方がヨブの腕に体を絡ませながら耳元で何やら囁く。
「陛下ぁ。私お願いがありますぅ。収納が使えるようなら以前からお願いしていたあの宝石を……そうしたら私は……。」
「ふむ、隣国のキサナ王女が持つ宝石じゃな。良いだろう収納で可能なら取って来させよう。」
「わぁうれしい。陛下ありがとうございますぅ。」
そう言うとアッキマはヨブの腕にさらに体を押し付ける。
そんな時、宰相が今回最も注目するスキルである“収納”についての報告書を持ってきた。
待ちくたびれたとばかりに宰相の手から報告書をひったくると目を通した。
「ふむふむ。抵抗できない。対象の制限はない。距離はレベルの四分の一+0.5 (m)、効果果範囲は半径レベルの四分の一(m)、レベルがある事はこれから期待できる。良いスキルじゃないか。」
読み進める国王はニタニタ笑みを浮かべ上機嫌だった。が最後の一文を見て表情が変わった。
「宰相。これはどういうことかね?」
アッカ国王は報告書を持ってきた宰相に報告書を突きつけた。
「陛下、如何しましたか?」
「“収納”の報告書だ。」
「能力的に問題が無いように見えますが……。」
「最後の……一番下の収納力だ。」
「収納力……0?!収納量が0という事でしょうか?それにレベル表記や“レベル上限”の項目が無いという事は永遠に0のまま……。」
宰相は報告書を両手で持ってワナワナと震えだす。
「そうじゃ。異界人が持っていた“収納”は収納力が無い。何も収納する事ができないスキルだ。それにレベル上限00だと!どうせ0の誤りだろう!期待させるだけ期待させておいて役に立たないゴミスキルじゃないかっ!!くそがっ!」
話を聞いたヨブ国王は顔をゆがめながらがっかりした声を上げ舌打ちした。
「陛下、どうなさいました?怖いお顔ですわ。」
「おお、アッキマ驚かせてすまぬな。だが、お前には謝らなくてはならぬ。先程約束した宝石だが収納スキルがゴミスキルであった為、叶わなくなった。」
「そんな陛下、もったいないお言葉です。宝石は残念ですが諦めましょう。」
このアッキマ、口ではしおらしい事を言っているが腹の中は正反対である。他人の物である宝石なのにすでに自分の物であるかの様に考えていた。
(せっかく手に入ると思っていた宝石が手に入らないとは……美しい宝石は美しい私のために存在するのです。それなのに……この恨みどうしてくれよう。そうだ、良い方法がある。)
何を思いついたのかアッキマは邪悪な目をしていた。
「でもそんなお優しい陛下に謝罪をさせる様な者は死んで仕舞えば良いのです。そうだ、陛下。その者をダンジョン深淵へ送っては?」
「深淵か……うむ、それは良い考えだ。第一あの様なゴミスキルを持つ者は余の軍団に必要ない。宰相、奴を我が国の最悪のダンジョン深淵へ送れ!」
「お待ちください。収納力が0とは言え何かに使えるかもしれません。一応調べてからの方が良いのでは?」
宰相が慌てて深淵の迷宮送りを止めようとする。
その途端にヨブ国王は不機嫌そうな顔をした。
「宰相。奴は逃げた者と最後にあったと聞く。ならば脱走に関わっていた疑いが強い。ならば、奴は“本来の収納”スキルと逃げた者のスキルを余から奪ったに等しい。深淵の迷宮送りは最大の温情だと思うが?」
身勝手な理屈を言うアッカ国王は不機嫌な顔を隠そうとせず宰相を睨みつけた。
その瞬間、宰相はビクリとして冷や汗を流す。
「は、はい。その通りでございます。」
「うむ。判ればよろしい。奴はいつもの方法で深淵へ送れ。……全くスキルがゴミだったのでわしは大損だ。せっかく世界のあらゆる美姫を手に入れようと計画したのにとんだ無駄骨だ……。」
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スキルの識別が行われたその日の夕方、僕は再び“識別の大水晶”の前にいた。
再度識別をするので来てほしいとの事だった。
先に着いた僕は宰相が来るまでの間、“識別の大水晶”で自分のスキルを確かめてみる。
「収納力が0って……どういうことだ?これでは収納の意味がないような???」
最後の項目には“収納力:0”の文字が表示されていた。
僕は画面を左右にスライドしたり、前の画面に戻したりしたが“収納力:0”の文字は変わらなかった。
収納力が0と言うのは収納できる容量が0、つまり収納できない収納。
何が悲しくて収納できない収納スキルを得てしまったのだろうか?
そうやって“識別の大水晶”の前で思案していると宰相が近づいてきた。
「……勇者様、お待たせしてしまい申し訳ありません。どうやら水晶自体の操作に何やら問題が出たみたいです。勇者様を含め調査しますので……そうですね、そこの椅子にでも腰を掛けてお待ちください。」
そう言うと宰相は“識別の大水晶”を操作し始めた。僕は宰相の操作の邪魔をしては悪いと考え言われた通りに椅子に腰を掛け待つことにする。
宰相が操作し始めると何やら文字が浮かぶが宰相の体に隠れて一部しか見ることが出来ない。
“識別モード”
と言う文字が見えた所から考えると他のモードがあるのだろうか?
椅子から体を横にずらし内容を見ようとすると宰相が振り向いた。
「お待たせしました勇者様。まずは勇者様自身の検査から行いたいと思います。勇者様は座ったままで結構です。しばらくすると光の輪が出ますので、そこから出ないようにお願いします。」
そう言って“識別の大水晶”に触れた。すると、僕の足元にいくつもの輪とその周りを文字の様な記号で構成された光の輪が輝く。
僕はもう少し詳しく聞こうと宰相に近づこうとするが足がその場に吸いつけられたようになり動くことが出来なかった。
「え?何だこれ!足が動かない?!」
その様子を見た宰相がニタリと笑う。
「大丈夫ですよ。今は動かないその足も転送先ではいやでも動かす事となります。」
「転送先?僕は識別されるだけだったのでは???」
「クハハハハ。ゴミスキルを持つ連中はやはり愚かですね。あなたの様に役に立たないゴミスキルを持つ者は陛下の軍団にいらないそうです。そのまま市井に放り出すと他国に我が国が“異界人召喚”を行ったことを知られることになります。それを防ぐ為にも口封じを兼ねてあなたをある場所へ転送するのですよ。」
「ある場所?」
「誰も攻略したことの無い迷宮。深淵の迷宮へ。ですよ。」
そう宰相が言った瞬間、世界は白い光に包まれた。
ここまでがプロローグです。
あと、感想や評価を頂けると嬉しいあまり執筆速度が上がる……かもしれません。