三叉路
さて、次はどの町を通ろうか?
チューバから王都へ向かう道の両側には畑が延々と続く。麦か何かを植えている様だ。この辺りは地球と変わらないのだろう。
道を歩いていると畑もまばらになり半日近く経つ頃には低い草木しか生えていないような原野になった。流石に遠すぎて畑を作るのには向かないのだろう。
さらに道を進むと三叉路に出た。
僕はギルドで手に入れたフリューゲル王国の地図を広げる。この地図には簡単な町の紹介も書いているので便利なものだ。街の特徴や名物は別のページに書かれている優れものだ。
地図によると右へ行けばスーザホン、武術が盛んな町で闘技場がある。左に行けばコルネット、フリューゲル最大の港町だそうだ。
(闘技場も面白そうだし、港町の魚料理も捨てがたい。)
道案内の立て札の前でどちらに行こうか思案していると盛大にお腹の音が鳴る。
(空腹だと考えがまとまらないな。そろそろ食事の時間だから決めるのは食事の後にするか。)
三叉路と言っても宿があるわけでも休憩所があるわけでもない。原野の中にある岩の上で食事をとるか。高さも丁度辺りを見渡すには良い高さだ。
岩を登ると僕は収納袋から銀のトレイとコップを手のひらから出ている様に取り出しいつもの様に食事を始める。
本日の料理は白身魚?と海老?のフライ、ホタテ?のクリームスープにサラダ。
“?”が付いているのは食べた感じは白身魚なのだが濃厚な味、これはタイやスズキ、ましてやヒラメではない。
海老も海老ではない何か、あえて言うなら蟹に近いか?ホタテも同じ……妙に弾力があった。
空腹は調味料と言うより普通においしかったから全部食べたがこのメニューは何だったのだろう?
そんな事よりも次の目的地だ。
そう言えば、街の特徴や名物にかかれていたページがあったな。それを見てからでも遅くは無いだろう。
先ずはスーザホン。
街中には大小百を超える武術道場があり武術が盛ん。特に剣術の聖天心流が最大の流派。聖天心流は武術の最高峰にして最強の剣術であり他の武術はおまけであると豪語している。
剣術が最強?他の武術がおまけ?
何だかこの武術は眉唾物だな。武術は本人の腕前の他、その時々の条件によりどれが強いかは変わる。剣術でも室内なら長剣よりも短刀だし、広い場所であるなら同じ腕前なら槍術には勝つことが出来ない。間合いがもっと離れていれば弓術が最強になる。
なのに“他の武術はおまけ”……剣術のみに有利な条件で戦い最強を言っているのではなかろうか?
ひょっとしたら聖天心流は短剣術でクロスレンジから試合開始とか……うん、それなら有利な状態なので勝つことは難しくないだろう。
と、突っ込みはさておき。次は港町のコルネットだ。
貿易も盛んで国内最大の貿易拠点。異国からの物産も多い上、昔から海産物も多く取り扱っている。
特に目玉は
“シーサーペントのフリッター”濃厚な白身魚の驚くべき味わい。
“カルキノスのフリッター”一見すると海老の様に見えるがまごうことなく極上の蟹である。カルキノスは刺身にしても良し。
“クラーケンのクリームスープ“吸盤を取りぶつ切りにしたクラーケンの足を乾燥させた物を使う。乾燥させた方法によりその味は変わる。とくに上質な味となるのは天日干しにした物で魔術を使い乾燥させた物とは一線を画する。
……もう食っちまったよ。異国からの輸入品には興味が無いし(気になればその異国に行けばよい)名物も食べてしまった。
(これはスーザホン一択だね。)
僕は道を右に曲がりスーザホンを目指す。
それから数日、代り映えにしない原野の道を進む。時々魔物のような影が見える事があったがすぐに逃げ出していった。
グレースさんが言うには僕の着ている鎧自体に低級の魔物を避ける効果が付いている状態なのだそうだ。もっと時間がたつとその効果が薄れるのでその時は細心の注意を払わなくてはいけないらしい。
でも、薄れる時はいつの事なのだろう?こればかりは制作者に聞かなければ判らない様だ。
チューバを出て一週間、原野にぽつぽつと畑が見えだした。もう少し進めば街があるのだろう。
そう思って先を急ぐと、小川に架かる橋の近くで何やら騒いでいる者がいるみたいだ。
体の大きな金髪の男が痩せた男の服の胸元をつかみ何やら騒いでいる。痩せた男の後ろには女性というより女の子がいるようだ。
「何!貴様ら私を聖天心流ファルクム派の者と知っての事かっ!」
「いえ、めっそうも無い。ただ……。」
「ただとは何だ!私はそこの娘にしばらく相手をしてもらうだけだと言っているのだ。それに私は聖天心流ファルクム派の次期当主。武術界を背負って立つ男だ。悪い様にはならないぞ。」
うわー。変な所に出くわしたよ。横暴な次期当主と虐げられる親子?でも男の方も近寄ってみると結構若い気がする。
でもこの騒いでいる奴がいなくならないと橋を渡れない……どうしようか?
僕が困った顔で二人を見ていると次期当主とやらがこちらをギリギリと睨んできた。
「ヒィッ!」
次期当主に掴まれている男は恐怖に包まれたような顔をしている。確かに次期当主は恐ろしい顔をしているが“アビス・キマイラ”ほどじゃない。
しかし、僕を睨みつけるという事はこの場所から動く気は無いのだろうか?
僕は面倒なことになったとばかり深いため息をついた。
ソウジが道を進んでいる時に出会ったのは魔物だけではない。当然、盗賊もいた。
盗賊A 「兄貴”旅人が一人、街道を歩いていましたぜどうします?」
盗賊頭 「ほう。一人か。どんな奴だ?」
盗賊A 「それが何にも持たず手ぶらで移動しているんでさ。ローブの下に水筒やポーチぐらいあると思いますが……。」
盗賊頭 「手ぶら?妙だな。それとも収納袋の類か?何にせよ一度見てみる必要があるな。案内しろ。」
-小一時間経過-
盗賊A 「いました。あいつですぜ。」
盗賊頭 「どれどれ。この望遠ができる鑑定眼鏡にかかれば……!」
盗賊A 「どうです?カモのようでしょ。あれなら俺達数人で……」
盗賊頭 「ダメだ!お前は何てものを見つけるんだっ!」
盗賊A 「へっ!」
盗賊頭 「あれは俺達が手を出して無事で済む相手じゃない。下手すれば全滅だ。」
盗賊A 「でも、あれは一人旅……。」
盗賊頭 「不満があるならこいつを使って覗いてみろ!」
盗賊A 「鑑定の魔道具ですね。……?兄貴何ですあれは?本人は普通に見えるのに着ている鎧が普通の革鎧で材質が???って……?」
盗賊頭 「ああ、奴は手に入れた鎧を偽装している。偽装するほどの鎧なのだろう。逆に言うとそれだけの実力があるという事だ。」
盗賊A 「うわぁぁぁぁ。兄貴の言う通りだ!戦ったら全滅しか浮かばねぇ。」
盗賊頭 「そう言う事だ。我々は手を出さずにもっと安全な物を狩る。いいな!」
盗賊A 「へい!」
こうしてソウジの安全は守られたのであった。