次の町へ
翌朝、僕は王都へ続く門の前へ来ていた。
今日の見送りは、ロジェスちゃんとグレースさんだ。(グレースさんはギルドの仕事をしなくても良いのだろうか?)
「今日は問題が解決したからお休みをもらっているのよ。」
僕が尋ねる前に答えが来た。この人は鑑定だけでなく読心術も使えるにではなかろうか?
「お兄さん、どちらが先に見習を卒業するか競争ですよ。」
「おう!競争だな……あれ?ロジェスちゃんはどこに行けば良いんだ?」
「ユーフォニアムですよ。」
そう言って、してやったりとばかりにニヤリと笑う。隣ではグレースさんが大きなため息をついていた。
「ソウジさん、いくら何でも簡単に騙されすぎです。」
「そうですね。私もお兄さんのことが心配になってきました。気を抜いたら昨日の様なことを起こしそうです。」
「そうねぇ。あれは油断しすぎですね。それを考えると私も心配になって来たわ。」
彼女たち二人が言う昨日の事と言うのはダニエルたちの問題が解決してから起こった(起こした)ことだ。
部屋の窓から差す光がオレンジ色になり、時間もすっかり日が傾いてそろそろ夕食の時間となっていた。
「もうこんな時間ですね。そろそろ帰って夕食の用意をしなくてはいけません。」
「ギルマスは誰かに食事を作っているのですか?」
「もう、ソウジくん。私が結婚しているおばさんに見えますか?それに私がギルドマスターを名乗るのは非常時だけです。普段は受付のグレースですよ。」
グレースさんは頬を膨らませて少し怒った様に見せている。
「判りました。グレースさん。誰かに作っていないとなると一人分なのですね?」
「そうよ。今日も時間が遅くなるから何処かで食べるのも良いのだけどお金がかかりすぎるからね……だから自炊なのよ。」
やはりどこの世界も自炊が一番安上がりらしい。ただ手馴れていないと時間が掛かるので店で食べる物もいる。人それぞれだ。
「私は宿の食堂で食べます。今からなら何とか食事は出来ると思いますから。」
「そう言えば二人ともここの食堂は使わないの?」
「ソウジさん。ここの食堂は夕方になると酒場になるのです。酒飲みに混じっての夕食はちょっと……。」
コクコク
グレースさんの言葉にロジェスちゃんが頷いている所を見ると食事をしてあまり良い目を見なかったのだろう。
「そうか……ここの食堂の味はよかったからここでも良いかと思ったんだけど……仕方がない。グレースさん、何処か食堂の代わりになる場所は無いですか?」
「食堂の代わりですか?それでしたらこの場所でも構いませんが?普段でも昼食をここで取ることもありますし……。」
どうやらこの場所でもいいみたいだ。移動しないので僕にとっても好都合だ。
「判りました。ここを使わせていただきます。あと、お礼と言っては何ですがお二人に食事をおごらせてください。」
「「食事ですか?」」
二人とも顔を見合わせて少し考えている様だ。僕としてはちょっとしたお礼のつもりだったのだけど……。
「判りました。それでどんな食事をご馳走してくれるのです?」
そう言うグレースさんの隣でロジェスちゃんも同意するかのように頷いている。
「何を……と言われましても、出てくるのはその人に合った物のようだから僕として何とも……。」
僕は収納袋から銀とトレイとカップを僕や二人の目の前に置きその使用法を説明する。
「にわかには信じられないけど……“お腹がすいた“、”喉が渇いた“。」
グレースさんがそう合言葉を呟くと銀のトレイの上に白いパンニ個、鳥の胸肉を揚げた物、スープ、サラダが出現した。
「これは!」
「ちょっとしたところで手に入れた物で結構便利なのですよ。」
グレースさんもロジェスちゃんも頭を抱えた。
「「………ソウジさんにはじっくり話をする必要がありますね。」」
その後、一時間近く怒られた。なんでも秘宝は簡単に使って良いものでは無いらしい。
「……という事でソウジさん。思い出しましたか?」
「はい、それはもう。」
「よろしい!それではソウジさんお元気で。簡単に騙されないようにね。」
「お兄さん。僕も正式な冒険者になったら王都に行くよ!そしたら……。」
「ああ、機会があったら一緒に冒険に出かけよう。」
「きっとだよ!」
「ああ、きっとだ。じゃあ、グレースさんもロジェスちゃんもまたね。
僕はそう言って二人に挨拶をすると次の街へ旅立った。
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「お兄さん、あっさり行ってしまいましたね。」
「すこしは葛藤があるかと期待したのですが……。」
「それは僕も残念です。でも、王都でまた会えた場合、冒険の約束をしました。僕はお兄さんに頂いたこの杖にかけてきっと!」
グレースは何やら妙な事(嫌な予感)を言いながら杖を掲げて誓うロジェスちゃんを見て少し驚いたような顔になった。
「ロジェスちゃん、その杖は?」
「あ、これですか。僕の杖が折れてしまったのでその代わりにお兄さんがくれた物です。でも、不思議な杖ですよね。イニシャライズすると杖がよく馴染む感じになるのですよ。」
「そ、そう。それはすごい杖だから大切に使いなさいよ。」
「はい!」
そう返事したロジェスの顔は朝日の様に輝いていた。
グレースは鑑定のスキルを持っている。その彼女の目に映った杖のステータスは大して高くなかったが中身が問題であった。
“世界樹の枝 Lv1 所有者:ロジェス”
“魔法技能にLv%のボーナス(最大50%)を与える。不壊、譲渡不可、召喚(どこでもこの杖を呼び寄せることが出来る。制限なし。)。持ち主と同じ様に成長する。“
細かい技能は不明だが、この杖は秘宝に近いものだった。
(ロジェスちゃんは何も知らないみたいだから言わない方がいいわよね?でも、これ何とか偽装できないかしら?)
これからの事を考えると頭の痛くなるグレースだった。
立つ鳥後を濁しまくり。