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カルネアデスの板

 僕の言葉にロジェスちゃんは頭を上げた。


「ロジェスちゃん。僕は君を助けたいと思ったから助けたんだ。助けてもらいたいから助けたわけじゃない。第一、僕が助けたからロジェスちゃんも助けろと言うのは欲でしかない。」


「欲?」


「ああ、それも質の悪いことに義理人情を絡める者もいるから強欲と言っても良いだろう。でも僕はそんな物の為に君を助けたわけじゃないんだ。」


「……うん。でも僕はお兄さんを見捨てて逃げたよ?」


「そうだなぁ。僕の世、いや国ではこう言う話がある。」


「ある時、一隻の船が難破し壊れ乗組員全員が海に投げ出された。一人の男が命からがら壊れた舟板にしがみついた。そこへ別の男がしがみつこうと近寄って来た。船板に二人もの人間が掴まれば沈みおぼれてしまう。男は近寄って来た者を突き飛ばし水死させてしまった。その後、救助された男は殺人の罪で裁判にかけられたが罪には問われなかった。」


 “カルネアデスの板”と言う問題だ。緊急避難に対する例とも言われている。


「……それは何故です?」


「自分の命を守るのに、他の手段がないからだよ。だから罪に問うことは出来ない。ロジェスちゃんは自分の命を守るために逃げる必要があったんだよ。だから、僕に対して逃げる為に“シールドバッシュ”を使ったライスも罪に問うことは出来ないし、影縫いシャドウステッチを使ったシーラも同じことだ。」


「でもその為にお兄さんが犠牲に………?……あれ?」


 ロジェスちゃんは自分が言っている内容がおかしい事に気付いたようだ。


「……犠牲になったはずのお兄さんが何故ここにいるんです?第一影縫いシャドウステッチをどうやって抜けたのですか?」


「それは簡単だよ、ロジェスちゃん。」


 僕はロジェスちゃんの肩を叩いてこういった。


影縫いシャドウステッチはロジェスちゃんのおかげ、そしてあの魔物は僕が倒したからだよ。」


「え!!!!!!!!!!!」


 ロジェスちゃんは目を大きく見開いて驚きの表情を見せていた。


「そんな!お兄さんは見習いでしたよね?その人がヒドラを?首がたくさんある上、の再生力があって厄介な魔物ですよ?」


「あー、あの魔物ね。実はヒドラじゃなかったんだ。だから再生力はない。」


「ヒドラじゃない?それなら再生力が無いのも納得で……お兄さん、あの魔物はいったい何だったのですか?」


 僕はグレースの方をちらりと見た。倒した魔物を見せた時にそれがなんであるか鑑定の結果を聞いているから知っているが、その情報は混乱を避けるために秘密にすることになっていた。


「そうね。ロジェスさんが魔物について秘密に出来るのなら教えても構わないと思うわ。」


「と、グレースさんは言っているが、ロジェスちゃんは秘密に出来るかい?」


 ロジェスちゃんはしばらく考え込んだかと思うとコックリと頷いた。


「じつはあの魔物は多頭竜ティアマトの幼体なんだそうだ。」


「!!!!!!!」


 ロジェスちゃんは驚きのあまり開いた口が塞がらないようだった。実際、ギルドとしては頭の痛い事らしい。ティアマトの幼体が出たという事はこの場所、チューバからそう遠くない所にティアマトの母体がいる可能性が高いからだ。


「お兄さんはいったい……影縫いシャドウステッチも抜けたようですし……。」


「あ、そうだ!忘れていた。」


 僕は今になって大事なことを失念していた。と言うよりも、その大事な事を言えば良かったんではと気が付いてしまった。


「ごめん。ロジェスちゃん。君に言うべき大事な事を忘れていたよ。」


「?何です?」


「光弾の魔法を使ってくれてありがとう。おかげで影縫いシャドウステッチを抜け出すことが出来たよ。」


 ロジェスちゃんは鳩が豆鉄砲くらったように目をパチパチさせたが首を傾げた。


「あの光弾はお兄さんに当たったのでは?」


 僕は銀の盾を出して答える。


「当たりそうだったけど、こいつで弾いて別の場所に当てた。」


「ええええええええええええええええええええ!」


 ロジェスちゃんは今日一番の驚きの声を上げた。


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