断罪の時
スマホから録音した音声が流れだす。
-略-
「ダニエルさん、ここは危険地域だったと思いますが?特にこの沼は危険だったとギルドからは注意がされていたと思います。」
「大丈夫だよ。第一ここに来るまで魔物には会わなかっただろ。今日は運がいい日なんだぜ。」
-略-
「げへぇっ!ヒドラだ!」
「ダ、ダニエル、あんな大きさのヒドラは初めて見るわ。」
「俺も知らねえ、どうする?」
-略-
「いやはや、ソウジくんだったっけ?すまないね。そこで君がヒドラの餌になっている間に僕たちは逃げることが出来る。まぁ、計画通りとも言うけどね。」
「計画通り?」
「そうさ、君を餌にしてヒドラの注意を引いている間に黒蓮を採集する。実に合理的な方法だよ。だが残念なことに今回は黒蓮は手に入らなかった。代わりに君の鞄を形見に持って帰るとするよ。達者で、クハハハハハハハハ!」
ダニエルが高笑いしながら逃げる所で僕はスマホの音声再生を止めた。
「これは魔道具の一種で音声を記録することが出来ます。そして今の記録がダニエルたちとの間に起こった事です。」
まさか音声を記録されているとは思わなかったのかダニエルたちは唖然とした表情をしている。
「!そ、そんな物は偽物だ!」
ダニエルは必死に反論しようとする。
「偽物?偽物と言う証拠は?」
「ぐっ!そんなもの判る訳ないだろう!魔道具か何かで作り出したに違いないんだ!作り出していなって証拠を出せ!」
「そうよ!証拠を出せ!」
「証拠!証拠!」
ダニエルたちの稚拙な反論を聞いてため息が出てしまった。“やっていない”と言う証拠を出す前に“やった”と言う証拠をダニエルたちは出す必要がある。これではどこかの野党の様な追求だ。
「出してもいいが、その前に作り出した魔道具とそれで作ったと言う証拠は?」
「そんなものあるわけないだろ!」
「それでは話になりませんね。」
グレースさんが業を煮やしたのかあいだに入る。
「ダニエルさん。あなたがソウジさんの出した証拠を偽物と言うのであれば偽物と証明する義務があります。」
「くっ!」
ダニエルの顔が悔しそうに歪む。形勢が不利だと悟ったのかシーラは僕の方を呪う様に睨みつけた。
「よこせっ!」
「あ!」
そんな中、ライスがロジェスさん(ちゃん)から杖を奪いとり。ライスは渾身の力を込め杖で僕に殴りかかって来た。
「糞がっ!死にされせ!」
バギャン!
魔法使いの杖の多くは硬い樫の木の杖だが殴る様に出来ているわけではない。その杖をライスは渾身の力で殴りかかったための僕の銀の盾に当たると真ん中から二つに折れてしまった。
「銀色の……なんだそりゃ!」
僕は少し首をかしげる。
「裏技……かな?」
グレースさんが右手を上げパチンと指を鳴らすと扉を開け完全武装した屈強な冒険者たちが入って来た。どうやら今の様なことが起こった時の為に何人か待機させていたらしい。
「ダニエル、シーラ、ライスの三名はギルドに対し虚偽の申告をしました。その内容は冒険者の生死にかかわるものです。よって、フリューゲルにおける冒険者資格の剥奪。もはやこの者達は冒険者ではなりませんギルドの外に連れて行く様に。」
「「「「「イエス!マム!」」」」」
完全武装した冒険者はすばやくダニエルたちを取り囲み捕縛する。そしてダニエルたちはろくな抵抗も出来ないままギルドの外に放り出された。彼らはかなりランクの高い冒険者らしい。その人たちに命令できるグレースさんは一体?
「ソウジさん、お怪我はありませんか?」
「はい、グレースさん、あの攻撃は弾いたので特に怪我はありません。」
僕の言葉を聞いたグレースさんはほっと一安心した顔をした。
「でもソウジさん。申し訳ない事ですが、彼らに与えられる罰はあれぐらいしかないのです。ソウジさんは判っていて彼らに付いて行っているので詐欺には問えませんし、暴力行為も被害が無いので彼らを衛兵に引き渡すことも出来ないのです。」
当然だろう。ここは法治国家である日本ではない。それに街の衛兵はギルド内の事には基本的に関与しない。冒険者同士の喧嘩でも多少注意するだけで逮捕する事はない。それを考えるとダメージを覚悟であの一撃を喰らっていた方が良かったかもしれないが、流石に僕はマゾヒストではない。痛いのは勘弁してほしい。
(一撃と言えばあの攻撃は魔法使いの杖を使った物だったな……。)
「ぐ……う、う、う、う、……ぼ、ぼくがお兄さんを助けなかったから……お兄さんに助けられたのに助けなかったから罰が当たったんだ……。」
向い側の椅子に視線を移すと二つに折れた杖の前でロジェスさん(ちゃん)が涙を流していた。
「ロジェスさん……いや、ロジェスちゃん。それは違うよ。」