スキルの識別
翌日、朝から激しく降る雨の中、僕たちは王宮の大広間に集められた。
王宮なので取られる心配はないかもしれないが念のために手さげ鞄をもって集合場所の大広間へ移動する。
広間では騎士たちが足早に行きかい何やら忙しそうに動いていた。
「報告します。特別棟の勇者様一人の姿が見えません。」
「報告します。下級棟の従者二人の姿が見えません。なおこの二人は昨日、特別棟の勇者によって連れ出されたとの報告が上がっております。」
どうやら姿くんと雪さん、時雨さんは脱出した様だ。
「なんじゃと。早く追いかけろ!」
「それが……この雨の中、残っていた跡も流されたようで追跡は困難です。」
時雨さんの天気予知の能力だろう。
今日、朝から激しい雨が降るとわかっていたから脱出を決行したのだ。
それに姿くんの一人軍隊や雪さんの道案内があれば追跡さえ不可能にできる可能性が高い。
「まぁよい。重要な”収納”スキル持ちは逃げておらん。それに逃げてしまっても”収納”の能力によってはすぐに捕まえることが出来る。全く問題にならぬ。引き続き逃げた者の行方を追え!そして隣国へ行く前に捕らえるのだ!」
「はっ!」
何人かの騎士が駆け足で部屋から出て行った。
ここにきて王国の宰相は僕たちを逃がさない事を隠そうとしない。逃げても捕まえるつもりだろう。僕たちに対する監視の目も厳しくなりつつある。
こんな厳しい監視の中からどうやって脱出すれば成功率が100%になるのだろうか?
僕が脱出についてあれこれ考えていると宰相が僕たちに対して口を開いた。
「昨日も話した通り君たちが持つスキルは詳しく調べる必要がある。その為に”識別の大水晶”を使う。各グループの者は速やかに騎士の指示に従い移動するように。」
詳しくスキルを調べるためグルーブごとに”識別の大水晶”を使うようだ。
鑑定の水晶でさえ人一人ぐらいの大きさがあった。大水晶と言うことは広間には持ってくることが出来ない大きさなのだろう。
それに”識別”とついているから、スキルの能力についてさらに詳しく知ることが出来る物であり、雪さんのスキルは”識別の大水晶”で調べられると王国は彼女を離しはしないだろう。
そうなると最終目標(僕は知らないが)に到達することが難しくなる。だから、今日逃げなくてはならなかったのだ。
僕は改めて雪さんのスキルのチートっぷりを再確認したが少し疑問も浮かぶ。
(僕のスキルは識別されても大丈夫なのだろうか?)
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僕たちは屈強な騎士たちに囲まれながら着いた場所は、連れて行かれた場所は宿舎からそれほど遠くない場所にある神殿だった。
神殿はローマの闘技場の様な円形の建物で、古代ローマの様にコンクリート製ではなく石を組んで作られている。
ただ、神殿の石組は隙間が目立つ荒い組み方で日本の城の石垣と比べるとはるかに見劣りした。
「”識別の大水晶”ははるか昔よりこの場所にあり、その周囲に円形の建物が建てられているのです。どうです。素晴らしいでしょう。我が王国が誇る石組の神殿です。大きい石は人の背丈ほどの高さがあります。この石を組み上げるのに我が家が多大な貢献をしたのですぞ。」
「はぁー。そうですか。」
大阪城では高さ5.5mで幅も14mある巨石が使われている。(他にいくつもある)
それに比べてこの神殿の石組はすごいものに感じられなかった為、つい気のない返事をしてしまった。
それが宰相の癇に障ったらしく、顔をゆがめて舌打ちして何やらボソボソつぶやいている。
「……やはり異界人はだめだな。この石組のすばらしさを判らぬとは。珍しいスキルが無ければ取るに足りない連中だ……。」
宰相の怒りが大きかったのか本人は僕に聞こえないように小声で話しているつもりでも丸聞こえである。
僕たちは神殿の廊下を進み”識別の大水晶”があると言う中心部へ向かう。
神殿の廊下は木製であるが、ただ単に敷いているだけの物の様に見える。所々浮き上がっているし幅も長さも色もばらばらだ。
歩くとポコンポコンと音がする廊下を進むと大きな丸い部屋に出た。
部屋はすり鉢状になっており、その中心部に大きな水晶が置かれている。あれが”識別の大水晶”なのだろう。
部屋の床は石だが継ぎ目がない所を見ると大きな岩をすり鉢状にくり抜いたかの様に思えた。
“識別の大水晶”を取り囲むように騎士団が整列し、その前には記録をつける為の書記官がペンを持ち机に座っていた。
大水晶から少し離れた場所には国王が少し豪華な椅子に座り、その隣では宰相が立っていた。
(この部屋だけ他とは違う。宰相のおっさんの言う通り神殿は後で建てられたのか……。では何故ここに”識別の大水晶”が置かれているのかが判らない。何かもっと大きなものがこの近くにあるのだろうか?)
「それでは今から“識別の大水晶”によるスキルの測定を行います。」
僕達VIP組が部屋に入ると宰相がスキルの測定を行う様に書記官や騎士たちに指示を出した。
「よし、なら俺が先に行かせてもらおうか。」
そう言って前に進んだのは空手部の“奈木野 隆”。自分の空手道を極める為に日本全国の道場へ稽古に出向くほどの猛者だ。何でも“俺より強い奴に……”とか言っているらしい。
騎士たち二人に誘導されて奈木野が水晶に手を当てると“鑑定の水晶”と同じ様に表面に文字が浮かぶ。それを書記官が書き写し国王や宰相に報告する様だ。
“鑑定の水晶”では大きく映し出されたのだが、“識別の大水晶”にはその機能が無い様だ。
残念だが今いる場所からでは“識別の大水晶”に映されている内容が判らなかった。
続いて、剣道部のエル部長が手を当てる。
そこに映し出された物を書記官が記録すると次はいよいよ僕の番だ。
僕は騎士たちに誘導され大水晶の上に手を置いた。
<Name:田辺 総司>
<称号:異界人>
<レベル:1 HP:5 MP:10>
<STR:8 AGR:10 DEX:14 CON:10 INT:16 MID:12>
<SKILL:算術レベル6、化学レベル4、物理レベル4、語学レベル3、製作レベル2、料理レベル2、掃除レベル1>
<U-SKILL:収納>
「ではその収納と書かれた部分に触れてみて下さい。」
僕は書記官に言われるまま、“収納”と書かれた文字に手を触れる。
<・収納>
<ユニークスキル。対象物を手と意識で指定することで対象となったモノを異空間に収納する。収納できないモノは収納時と同じ力で弾かれる。>
操作はスマホと同じ様に出来るらしく指先でスライドさせると追加情報が現れるようになっている。
<抵抗:不可>
<このスキルの効果範囲に入った対象物は抵抗することが出来ない。>
「文章が短いな……。」
「抵抗可能な場合は抵抗の判定基準や抵抗の目標値が記されます。また、将来的に抵抗の条件が変わる場合はその内容も記載されます。」
どうやら条件が無い為、文章が短くなっている様だ。
僕は指をスライドさせ次のページを表示させる。
<効果対象:全て>
<全てのモノが対象。例外はない。>
取り敢えず色々収納できるスキルであると言うことが判る。
書記官が内容を移す時間を考え少し遅めにスライドさせる。
<発動距離:レベル1>
<起点からレベルの四分の一+0.5(m)の位置を起点にすることが出来る。レベル上限00>
「ん?レベル?ユニークスキルにはレベルが無いのでは?」
「あ、そのレベルは使っていくと上がる類のものです。ユニークスキル自体にレベルはありませんが、各項目はレベルが存在することがあるのです。いわば拡張性と思っていただければ……これも勇者ならでは事なのですよ。」
どうやらレベルがある項目は拡張性があると言うことらしい。
だが、レベル上限00とはいったい何だろうか?書記官の方を向いて尋ねてみるが書記官も見たことが無い表記だそうだ。
<効果範囲:レベル1>
<起点から最大半径レベルの四分の一(m)、レベル上限00、レベルによる追加要素あり。>
次は効果範囲か。収納の効果範囲とは何だろう?
「収納スキルの効果範囲は入口の大きさを示します。発動距離以内の位置に効果範囲の入り口を開けると考えていただければよいと思います。」
「なるほど……。」
書記官の言うことに頷いて次のページを表示させたとき、僕の動きが止まってしまった。
人は想像もしていない物が現れた時に動きが止まると言う。それが僕にも起こったという事だ。
<収納力:0>
これは……どういうこと?
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