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別室

 酒場からの声にダニエルたちが振り向きギョッとした顔を見せた。


「荷物持ち!てめぇ、何でここに居やがる!」


「あんたはヒドラの前で動けなくしたはず。」


「馬鹿!シーラ!」


 ハッとした顔をしてシーラは自分の口を押されえがもう遅い。グレースがニッコリと笑みを浮かべた。


「……すこし、別室で話を聞く必要がありそうですね……。」



 各町のギルドには別室と言って特別な依頼の説明や冒険者間の問題の事情聴取に使われる部屋がある。そのほとんどがギルドの受付の奥に部屋があり一般の冒険者は出入りすることが出来ない。チューバの冒険者ギルドもその例と同じ様に受付の奥に部屋があった。


 別室の中央には大きく長いテーブルがあり、そのテーブルを挟んで大人六人が横に並んで座れる椅子が備え付けてあった。その長い椅子の一方に僕が座り、もう一方にダニエル、ロジェスさん(ちゃん)、ライス、シーラの四人が座っている。ダニエルとライスの間にロジェスさん(ちゃん)が座っているのは自分たちに不利な発言をさせない為だろう。

 グレースさんは長テーブルの端に立ち双方の言い分を聞き取るようだった。


「ではもう一度ダニエルさん達に伺います。“ソウジさんが勝手に沼地の奥に行った“これで間違いはないですね?」


「ああそうだ。何度も言わせるな。この荷物持ちが勝手に奥の沼に行ってヒドラとの戦闘に巻き込まれた。それだけだ。」


 ダニエルは片手を椅子の後ろにまわし、ふてぶてしい態度で椅子に座っていた。


「そうよ!ダニエルの言う通りよ!こいつが勝手に奥に進んだのよ。私はそれを止める為に仕方なく針を投げたに過ぎないわ。」


「そして運悪くヒドラが出てしまったと?」


「そうよ!その通りよ!そりゃヒドラが出たのは運が悪かったとしか言いようがないけど、無事に帰って来れて良かったんじゃない。」


 二人の言葉にライスは同意を示す様に大きく頷いた。ロジェスさん(ちゃん)は杖を両手で持ったまま先ほどからずっと下を向いている。

 ロジェスさん(ちゃん)の様子を見ていたグレースさんは軽く目を閉じるとため息をついた。


「それではソウジさんに伺います。今回の……」


「ちょっと待てよ!何故そんな荷物持ちの話を聞く必要がある!」


「そうよ!そんな荷物持ちよりも私たちのギルドランクの方が上だわ。」


 ダニエルとシーラが憤慨したかのようにグレースを怒鳴りつける。


「何を言っているのですか?双方から話を聞くことは至極当然の事です。」


 グレースは彼らよりももっと強面の冒険者の相手をしてきた人物である。彼ら程度が怒鳴りつけたぐらいでは気圧されない。


「で、ソウジさん。今回のいきさつについてお話し願いますか?」


「事実は違います。ダニエルさん達は僕に目的地を伝えないまま危険な沼地の方へ移動していったのです。」


 僕がそうグレースさんに話すとダニエルはにやにやした顔で反論する。


「はん!言うに事欠いて俺が危険地帯に連れて行っただと?なあシーラ、ライス?」


「そうよ!反省するならまだしも、私たちに罪を押し付けるのは話にならないわ!」


「そうだな。我々はお前の後を追いかけたに過ぎない。それを間違えない事だ。」


 三人とも実に手慣れている様だった。おそらく何度も同じことを繰り返していたのだろう。


「困りましたね。双方の言い分が全く正反対です。どうしましょうか?」


 グレースさんは頬に手を当て困ったようなしぐさをした。


「ほう?ギルドは我々よりもその見習いを信用すると?」


「正気とは思えないわね。」


「そこまで言うならば、我々が偽りを言っているという証拠を見せてもらおうか?」


「そうだ!証拠だ!証拠を見せろ!」


「「「証拠!証拠!」」」


 三人揃って証拠、証拠と連呼する。その滑稽な姿に僕は笑みを浮かべた。その顔がダニエルには気に食わなかったらしい。


「てめぇ!荷物持ち!何がおかしい!」


「地が出ているよ、ダニエル。まったく、“証拠、証拠”と騒がしい事だね。」


 ダニエルは爽やかそうな人物の仮面が剥がれ、隠していた小悪人面が表に出ていた。


「君の望み通り、証拠を聞かせてあげよう。」


 そう言って僕はスマホのスイッチを入れ音声再生のアプリを立ち上げた。

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