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悪党のケイカク

 ソウジが多頭竜と戦闘に入った時、森の中を走る四つの影があった。

 一番前をシーラ、その次がダニエル、ロジェス、ライスの順番で森の中を疾走していた。ロジェスとライスは少し遅れ気味であったが何とかついて行っている様子だった。ただ彼らの走る方向はチューバから遠ざかる方向に走っていた。


「止まれシーラ、ここまで来れば安全だろう。少し休憩するか、ちょっとチューバから離れすぎたし今後の事もあるしな。」


 ダニアルはライスに目配せした。


「そうだな……。


 ライスは頷くとロジェスの方を向いた。


「……ロジェス。おまえやっちまったなぁ。」


「えっ?」


「だってそうだろう?お前があの荷運びを魔法で撃ったんだからなぁ。」


 ライスはロジェスに対してニヤリしながら凶悪そうな顔を見せる。もう何人も殺してきたかの様な凶悪な顔である。


「だ、だってあれはライスさんが大きな声を出すから!」


「言い訳するんじゃねぇよ!」


 ライスは大きく手を上げロジェスを殴ろうとした。だがその手はダニエルによって止められた。


「待て、ライス。仲間に対する暴力・・・・・・・・はダメだ。どんな理由があってもな。」


 一見、ロジェスを守るかに見えるダニエルの行動だが、ライスがロジェスを殴ろうとする所から始まる何時もの行動に過ぎない。ダニエル達が対象を罠にはめる一連の行動に過ぎないのだ。


「ああ、すまねぇ。俺も仲間の荷物持ちに魔法を使われてカッとなったんだ。」


 思っても無いことをさも反省しているかのようにライスは言う。


「だがライスの言う通りロジェスがあの荷運び……ソウ?とかいう奴を魔法で撃ったことは事実だ。」


「でもそれはソウジお兄さんを影縫いシャドウステッチから解放する為に……。」


「あら?まるで私が技であの荷運びを足止めしたかの言い方は心外ね。第一、あの技は一瞬だけしか効果が無い技なのよ。」


 無論嘘である。影縫いシャドウステッチは影から針を抜かない限り、刺さった針の数だけ拘束力が高まる。“影に刺す”と条件がある為、抵抗が極めて難しい技なのだ。


「第一な、ロジェス。あの荷運びはもしもの場合は自分が囮になるって言っていたんだぜ?」


「え?お兄さんはそんな事を一言も……。」


「そんなもの決まっているじゃないか、まだ年若いロジェスを心配させない為だよ。だから昨日こっそり俺に言っていたんだよ。ああ、それなのに荷運びのソウ、心配した物に裏切られるなんて……。」


「そんな……ソウジお兄さん……。」


 ロジェスは軽いショックを受け俯いてしまう。ダニエルは白々しく嘆くふりをして手で自分の顔を覆った。しかし、指の隙間からロジェスの様子を窺うその目と口元がいやらしく笑っていた。

 ダニエルはロジェスに対してさらに追い打ちをかける。


「ああ、なんてことだ。折角お家再興に燃える若き魔法使いがちょっとした判断ミスでその夢を断念せざるを得ないとは……。」


「でもそれは……。」


「さて、ギルドはランクの高い私たちの三人の言葉と見習い魔法使いのあなたの言葉、どちらを信じるかしら?」


 シーラに言われてロジェスはしゃがみ込んでしまった。彼ら三人は冒険者としてはDランクである。あまり高いとは言えないランクなのだが見習いとはギルドに対する貢献度では比較にならない。したがって、どちらの話を信じるのかは自明の理と思えたのだ。


「あー、可哀そうに。現実を知って落ち込んじまったか。だが安心していい。俺には代案がある。」


「え?」


 ダニエルの言葉にロジェスは俯いていた顔を上げた。


「簡単な事だ。あの荷運びは黒蓮ブラックロータスで一儲けを企んで|俺達が止めるのも聞かず(・・・・・・・・・・・)勝手に危険な沼の方へ行ったんだ。」


「そ、そんな!第一あれは……。」


 ロジェスが反論しようとしてダニエルは途端に不機嫌な顔になる。


「さっきも言ったが、ギルドは俺達の三人の言葉とお前の言葉、どちらを信じると思う?」


「……」


 ロジェスは黙って頷くしかなかった。


「決まりだな。」


 ダニエルたち三人は顔を見合わせニヤリとわらった。


 ―――――――――――――――――――――


 帰ってきたダニエルたち三人とロジェスはギルドの受付嬢のグレースに事の顛末を報告していた。


「それで?ソウジさんが沼地の奥へ行ったと?」


「ええ、僕たちは危険だと止めたのですけど言いう事聞かずにそのまま……。」


「それで私たちは慌てて追いかけたのですけど、沼からヒドラが出て……。」


「あの荷物持ちは先行しすぎていた。アレを助けようとすると逆に我々が危険になる。」


「ええ、そのため仕方なく、仕方なく・・・・ですよ。その場から引き上げざるを得なかったのです。」


 ダニエルたち三人は口々に言い訳するが、その間ロジェスはずっと黙ったままだった。


「ロジェスさんはどう思うのかしら?ダニエルさん達の言葉に間違いは無いのかしら?」


 グレースに問われてロジェスはビクリと肩を震わせた。


「あー。ロジェスは小さいからあまりの出来事にビックリしてうまく話せないんだ。」


「ふぅん?そうですか……。」


 ダニエルは知っていた。

 ギルドは疑わしきは罰せずの組織である。きちんとした証拠も無いのにダニエルたちの証言が嘘であるとギルドは断言できない。


「そう言うわけだから、今回の失敗は全てあの荷運びにある。」


 ダニエルがそう締めくくろうとすると、それに反論する者の声があった。


「へぇ?そうだったっけ?奥の沼地に言ったのはダニエルが大丈夫と言ったからだと僕は記憶しているのだけど?」

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