チューバのギルド
ユーフォニアムから小川沿いに5日ほど歩くとチューバの街が見えて来る。ユーフォニアムと同じような辺境の街だがユーフォニアムと同じ様に高い石の壁に囲まれた城塞都市である。
この都市もユーフォニアムと同じ様に“深き魔の森”に近い為、魔物の集団に襲われても耐えることが出来る様になっている。
ユーフォニアムからチューバまでの道中で旅人とすれ違う事は無かった。“深き魔の森”自体が広大な魔物の生息地であり、森から近い街道を人は通りたがらないのだろう。
最も僕の場合、採集の訓練の為に“深き魔の森”の中を進んだり、途中で元の道に戻ったりを繰り返していたので、旅人が全く通らなかったとは言い難い。
本来ならばすぐに襲われそうな“深き魔の森”でも、“アビイス・キマイラの牙”の効果がまだあるらしく魔物に襲われることは一度も無かった。
「ほう、君はユーフォニアムの冒険者か……チューバにはどんな用事で?クエストか?」
僕の冒険者カードを見た街の門番はそう尋ねてきた。ユーフォニアムで冒険者カードを作ったから“ユーフォニアムの冒険者“なのだろう。
冒険者カードをよく見ると冒険者カードの発行元が書かれておりその文字の上に印章が押されている。
「チューバには王都へ行く途中の道だから立ち寄っただけです。」
「なるほど。正式な冒険者への昇級の為か……まぁ、頑張ってくれたまえ。通ってよし!」
門番から簡単な質問をされただけで簡単に通行の許可が下りた。やはり冒険者カードには結構な効果があるように思える。
チューバの街並みはユーフォニアムの街並みとほとんど一緒と言っても間違いはない。城壁のすぐ内側に沿って道路があり東西南北の門から中心部へまっすぐ道が延びている構造だ。
西門からの道をまっすぐ進むと右手に冒険者ギルドの看板が見えてきた。冒険者ギルドがある位置もユーフォニアムと同じである。恐らく同じ時期に作られたか設計者が同じなのだろう。
冒険者ギルドの扉(西部劇でよく見かけるスイングドアと言う物だ)を開き中に入る。
やはりどこのギルドも同じ……ではなく、チューバのギルドは右手に酒場、左手に受付用などのカウンターがある。ユーフォニアムとは正反対の位置だ。
まだ昼すぎなのでギルドにいる人も少ない。僕は酒場ではなく買い取り用のカウンターの前に立つ、ここで採取した薬草を買取ってもらう予定だ。
ギルドにわざわざ薬草を買取ってもらうのも理由がある。ギルドへの貢献度を上げておくという事とチューバの街の情報を仕入れる為だ。
他所から来た人間にとってどの宿に泊まれば良いのかと言うのは結構重要な情報だ。僕の場合は宿に泊まる必要はあまりない。
しかし、宿にも止まらず町を抜けていく人物がいた場合、それを知った者はどう考えるだろうか?恐らくそれを見つけた人物は僕が何か有用な物を持っているに違いないと考える。また、首都までどの町にも通過せずたどり着いた場合も同じだろう。
と、さも自分が考えたかのように言っているが実際は“ジェームズ・ファミリー“の人達に注意された事だ。
「あら?あなた見かけない顔ね。私は買取担当のグレースよ。冒険者カードがあれば出して。」
グレースさんにカードを見せる。買い取りカウンターでは冒険者でなくても買い取ってもらえるのだが、冒険者なら報酬が5%ほど上がるし、ギルドへの貢献度としてのポイントが加算される。
「はい、確認。見習い君か……それで、ソウジくんはどんな用事?」
「この薬草を買取ってほしくて……。」
僕はローブの袖口に手を突っ込み収納袋から薬草を取り出す。別の袋に入れておいてから取り出しても良かったのだが、冒険者カードに収納スキルが書かれている以上、僕がわざわざ手間のかかる方法をとるのは不審者とみられる可能性が高い。
グレースさんは薬草の束を受け取るとギルドの鑑定器に全て置いた。
「……十束全て薬草と確認しました。全部で銀貨十一枚ですね。どうしました?」
「いえ、いきなり全てを鑑定機に置くとは思わなかったので。」
「ああ、そうね。普通は一束ずつ鑑定機に掛けるわ。でも見た所全て薬草のようだし、混じっていても一束ぐらいでしょう。その場合は……。」
グレースさんは薬草の束に明らかに異なる草の束を一つ加えて鑑定機にかけて見せた。
- 薬草 と 魔力草 -
「……と、この様に表示が出るから、この束を二つに分けてまたそれぞれを鑑定するのよ。そうすれば一束一束鑑定するよりも少ない回数で鑑定できるのよ。」
どうやら買取査定の時短テクニックのようだ。僕が“なるほど”と納得しながら頷いていると肩を叩かれた。
「君、見習い冒険者だよね?よかったら僕のパーティに協力してくれないか。」
振り向くとそこには金髪蒼眼のイケメンが立っていた。
薬草の取り出し方を変更。
懐 → ローブの袖口