王都への道
僕は王都への道程の第一歩を踏み出した。
最初の目標は隣街であるチューバだ。チューバもまたユーフォニアムと同じ城塞都市らしい。
これも“深き魔の森”が近いため、溢れ出す魔物に対応するために安全な城塞都市になったらしい。
チューバへの道は“深き魔の森”から流れ出る川に沿って道が作られている。川を挟んで向こう岸が“深き魔の森”になっている様だ。
この道を移動するのに商隊か冒険者達と一緒に行動すると言う方法も考えられた。が、僕は三つの理由があったので一人で行動することを選んだ。
一つが革鎧に慣れるため。
革鎧に慣れていない為か、最初に着けた時に少し違和感があった。当然だろう、この世界に来るまで革鎧の様な防具は身に着けたことが無い。
革鎧に近い物で経験があるのは剣道の防具だ。別に剣道部であった為ではない、ただ単に学校の体育の授業で着けた事があるだけなのだ。
チューバへ向かって歩くのに革鎧のフルセットをつけ灰色のローブを羽織り街道を進んで行く。
歩き始めた当初は歩くだけだったがユーフォニアムの街が豆粒ぐらいに小さくなる頃には早歩きが出来る様になっていた。
流石ドワーフの名工のガンテツさんが作っただけの事はある。すぐに動きやすくなるのも何かの魔法の効果だろう。
これも後から解った事なのだが、ガンテツさんは全てのドワーフの中でも十指に入るほどの名工だった。その中でも鎧の製作を得意にしており、布から始まって金属までありとあらゆる種類の鎧を作っていたらしい。
そんな人が辺境の城塞都市でひっそり工房を開くのには何か訳があるのだろう。
しばらく歩いて早足ぐらい出来る様になったが、駆け足で移動したりスキップしたりは今はまだできない。
(よしここまで歩けば良いだろう。幸い旅人はいない。)
僕は周囲に人がいない事を確認し収納スキルを展開する。銀の盾は僕の背丈より少し大きくなっており、直径2mぐらいだろうか。
出現位置も1mぐらい離れた位置に出現する為、銀の盾の縁まで最大2mは届くことになる。
もう一つの目的が収納スキルの強化である。
僕自身に目を付けられるのを避けるために、初心者講習の間はあえてスキルは使っていなかった。
だが、半日以上離れたこの場所ならば収納スキルを使っても他の人には見られないので問題にはならないだろう。いくつか練習したい使い方がある。
今回行うのは収納スキルを使った渡河である。収納スキルで水を弾けば川を渡ることが出来る公算だ。
僕は収納スキルの対象を水にすることで渡河を試みようと考えているのだ。
(まずは水上に浮いているような形を作ろう。)
僕は体を少し斜めにして川岸の上から手を下に向け銀の盾を展開する。
すると水を収納対象にしたことによる反発が来る。だがその反発は思いもよらない方向に反発した。
結果から言うと、全身ずぶ濡れで川に落ちた。
どうやら銀の盾と水の角度が違っていたらしく、明後日の方向に弾かれバランスを崩し川に落ちたのだ。
その後何度か試してようやく川の上を弾き向こう岸に渡ることが出来た。
(川と言っても小川のような物なので川の幅は狭い。底の浅い場所を渡れば問題なく向こう岸に渡ることが出来る。)
そして最後の一つの目的が向こう岸、“深き魔の森”にある。
“深き魔の森”における採集の復習である。僕がよくやった間違いは薬草と毒草の見分け方である。ギルドの講師曰く、こればかりはたくさん採集して慣れるしかないものらしいのだ。
僕はたくさん採集する為にチューバへ移動の途中の“深き魔の森”で薬草の採集をすることを思いついたのだ。
この世界の薬草は特徴的な葉の形をしているので判り易いが同じような葉の形の毒草も存在する。見分け方も難しく、判らない者はギルドの鑑定機に頼るしかないのが現状だ。
しかも、薬草と毒草は同じ場所に生えている事が多く良く間違えられる。まとめて採集した場合、薬草と混在し選び分けるのがとても難しくなる。
採集段階で間違えなければいいのだが、同じように生えている場所では間違えて採集してしまう事がよくある。
だが僕には収納スキルがある。
収納スキルで薬草を収納することにすれば薬草のみを弾き選別することが可能だ。これなら間違って毒草を採集して薬草に紛れても問題は無い。
“沢山採集すればそのうち慣れて出来るようになる“と言った講師の言葉を信じ、採集に励むのだった。