脱走計画とアドバイス
戻ってきた姿くんはどういう訳か僕の宿舎(驚くことに一人一軒づつ与えられている)にやってきた。
「やぁ、総司。うまい飯だったな!」
姿くんは親しげに僕の宿舎に入ってきた。イケメンチャラ男の姿くんとは隣のクラスだ。顔を合わせたのも体育などの合同授業の時ぐらいで”一二郎””総司”と呼び合う間柄ではない。
何故こんな呼び方をしだろうか?
姿くんの後ろを見ると同行者が女子二人、片方は時雨さん、もう一方は……だれだろう?
僕が首をかしげていると姿くんが今気づいたような声で僕の肩をバンバンと叩く。
「悪い悪い。総司は初めてだったな。こいつは新聞部の”風祭 雪絵”。」
「よろしゅうーね。うちのことは”雪”でかまへんよ。」
そういうと金髪ギャルが僕の前にすこし大き目のノートを開いて見せた。
開かれたページには
<話を合わせて!>
と書かれていた。
「あ、ああよろしく。風祭さん。」
「”雪”、ユ・キ、やよー?」
「……雪さん?」
「あんたは固い人やねぇー。まぁ、今は良いかー。」
すると姿くんがパンパンと手をたたく。
「よし。自己紹介が終わったところで親睦会を開こうじゃないか。総司、食堂が使えるだろう?」
「ああ、こっちだ。」
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食堂は宿舎の奥にあり十人ほどが座って食事をとれるぐらいの大きさのテーブルが据え付けられている。
テーブルには真っ白いテーブルクロスが掛けられ、その上には色とりどりの果物や菓子、卓上コンロの様な台に乗せられたポットが置かれている。
ポットの中身はお茶の様で温かく良い香りがする。
「へー。このお茶温かいままだ。」
「これ”魔道コンロ”って言うらしんよ。便利やねぇー。」
そう言って雪さんはノートに何やら書き込んだ。
<便利だけど、盗聴器付なんよ。>
どうやら僕たちの会話は盗聴されているらしい。だが、盗聴だけだろうか?
僕は他愛もない話を続けながらノートを使いその事を尋ねた。
<盗聴器だけ?盗撮は?>
<盗撮はないよ。スキルで確認済みや。>
<スキル?使って大丈夫なのか?>
<心配ないよ。うちのスキルは道案内いうスキル。この世界には道路案内て言うスキルがあるから似たような物と思われたみたい。>
時雨さんの天気予知も天気予報と同じようなものと判断されたから無理もないだろう。
予知(100%)と予報(良くて50%らしい)では雲泥の差があるのだが、ユニークスキルについて詳しくないのかたいしたことが無いものと判断されたようだ。
天候が100%判る予知なら軍隊にとって必須のはずである。他にも錬金術や鍛冶の様な技術系が軽視されているところを考えると科学の水準もかなり低いのだろう。
<道案内は選択肢に対する成功率を教えてくれるスキルよ。>
一聞するとたいしたことのないスキルに思える。
だけど盗聴や盗撮を調べることのできるスキルが普通のスキルのはずがない。
<判りにくいけど、まず選択肢を設定すると選択肢に対して出来る行動を考えてみるのよ。そしたら行動の成功率が頭に浮かぶ。>
<戦闘の場合で右か左によけるとかの選択で右なら成功率70%左なら5%とかそんな感じ?>
<単純な選択肢はそや。でも達成するまでいくつも選択肢があるのは、いくつも成功率が浮かぶねんで。そやなぁ、”生き残る”選択肢を選んだ時にあのならず者たちをどうするかによって”生き残る”選択肢の成功率が変わたんよ。>
<???>
<あの時は”一人で逃げる”て選択は100%成功。それを選んだら”生き残る”て選択が0%になって、”有ちゃんと逃げる”は30%成功で”生き残る”は70%だったんよ。>
<え?じゃあ、二人で逃げた?>
<いややわぁ。うち成功が30%しかないような博打はようできへんよ。他の選択肢に”ならず者と戦い時間を稼ぐ”と言うのを選んだんよ。>
どうやら雪さんは傭兵連中と戦うのを選んだらしい。でも、道案内をうまく使えば無傷で戦うことが可能か?
<そやけど大変やったんよ。回避しすぎるとどんどん”生き残る”成功率減っていくねん。うちの玉のお肌に傷がついてしもうたわ。>
無傷じゃなかった。おそらく相手になったならず者(傭兵)が女性をいたぶって楽しむ奴だったのだろう。そんな奴が相手なら回避しすぎると逆上して逆効果になったのだろう。
<でな、そうやって時間稼ぎしてると姿はんが助けに来てくれたんよ。>
<なるほど、で、その選択の生き残りの成功率は?>
<当然100%や>
話を聞いて(見て)いると、道案内のスキルは目標を達成するためにどうすればいいのかを成功率で表すことが出来るスキルと言える。
しかも、今の選択肢だけではなく最終的な選択の成功率まで判るのだ。
正にチートスキルだ。
<”生き残る”のも他の目標の枝になる選択やねんけどね。>
どうやら何かもっと大きな選択を選んだ時に判る成功率の一つらしい。雪さんは一体どんな選択肢を選んだのだろうか?
ひょっとしたら……。
<大きな選択ってひょっとして”元の世界に帰る”か?>
雪さんは少し首をかしげて、
<違うよ。でも今は教えられへんよ。>
と書き込んだ。
どうやら元の世界に帰るのとは違うようだ。詳しく聞きたいが、何か理由があって教えられない様だ。
これまでの内容で道案内のスキルの事は判った。おそらくこの部屋に来たのも道案内に元づく選択だろう。
<でな、うちら明日、この国から逃げ出そうと思ってるねん。>
脱走……いや、”脱出計画”。
やはり姿くんや雪さん、時雨さんはこの国の事を怪しんでいる様だ。
まぁ、当然だろう。雪さんの話から想像すると、時雨さんも雪さんもかなり危ない状態だったようだ。そんな状況にしたこの国の国王、というよりこの国は信頼できるとは言えない。
<と言うことは、その”脱出計画”に加わってほしいと?>
<違うよ。総司にはここに残ってほしいんよ。>
脱出計画には加わらずここに残るという事は、僕が加わると脱走計画が失敗するのだろうか?
<総司が加わっても脱走計画は100%成功するんよ。でも、”生き残る”のが30%、最終目標が0%になるんよ。>
今は言えないと言っていた最終目標が0%になるからか……。
僕がこの国から出ることが最終目標の成功率にかかわっているともいえる内容だ。
でも、一緒に脱出するのと何が違うのだろうか?
<でな、”脱出計画を総司に話さない”と脱出の成功率は100%やけど最終目標の成功率が10%なんよ。>
話さない方が最終目標の成功率は高いらしい。逆になぜ僕に脱出計画の事を話したのだろうか疑問が浮かぶ。
<でもな。総司に話しても”総司は残る”で最終目標の成功率が20%にあがるんよ。それに安心してもええよ。残っても”この国から単独で出る”のは成功率は90%あるし最終目標の成功率は30%になるんよ。>
90%!?高いのか低いのか……90%成功すると言う反面10%は失敗すると言うことなんのだが……。
<うちがここに来たんは後10%を上げる為なんよ。何かを総司に言うたら上がるとは思うんやけど、何を言うたらええのか判らしまへんのや。>
雪さんにとっても10%の失敗は看過できない物らしい。なら、僕は雪さんの言葉を忘れないようにしなければならないという事だろうか?
<僕の方も脱出の為に今のうちにスキルを訓練して能力を把握する必要があるかな?>
と僕が書き込むと、雪さんは大慌てで書き込んできた。
<あかん、それはあかんよ。スキルの訓練をしたら成功率が30%!だだ下がりやー。>
どうやらスキルの訓練をすると脱出が難しくなるらしい。ただ、今後の事を考えると訓練するべきなのだが。場所や時期が悪いのだろうか?
<訓練するのが王宮外もしくならどうだろうか?>
<うーん。微妙なところやなぁ。成功率が70%まで持ち直したけど、最初から比べると低いねぇ。>
<じゃぁ、識別後では?>
<あ、今ので96%になったわ。>
成功率はちょっとした事で上下する様だ。意外に早く100%になるのだろうか?
その後しばらく雪さんと筆談を重ねた。時には93%までに下がることもあったが98%まで上がった。しかし、そこから一向に上る気配が無かった。
<そろそろ部屋に戻らないとまずいかもね>
<そやね。……あとな、総司。あんたは絶対あきらめたらあかんで。今までの成功率の流れから考えるとうちらの命運は総司にかかっているんやと思うんよ。>
<判った。絶対にあきらめず最後まで足掻いてみるよ。>
<そやそや、その意気や。あきらめずにおったら大丈夫やし。状況をよく考えたら道は開けるんよ。>
<でも脱出の成功率は98%だしなぁ>
<それは大丈夫や。今のうちとの話であんたの脱出の成功率は100%に変わったで。>
僕が無事脱出できる事が判った為か、雪さんはホッとした表情で微笑んだ。
微笑んだその顔は僕にはすごく魅力的に見えた。
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