冒険者の講習2
「初心者講習を受ける者は今すぐここに集まれ!」
集合の合図だ。僕は椅子から立ち上がると酒場の奥に移動する。男の声に気が付いた見習い冒険者の何人かは何とかギルドの中に入って来た。
「うむ、まだ集まっていない様だが……お前たち、ちゃんと受付で初心者講習の受講票を貰ってきてるな?」
「はい」
「え?僕はまだ。」
「私も……。」
「まだです。」
「ならサッサと貰いに行かんか!馬鹿者!」
耳の鼓膜がビリビリとするような大声で怒鳴られる。前にいた僕は少しとばっちり食った形だ。
怒鳴られた三人は慌てて受付の方へ行くが、戦場はまだ収まりそうにない。
「む?お前は何故受付に行かない?」
「もらっていますよ、受講票。」
「ほう、お前、名前は?」
「ソウジって言います。」
「ふむふむ、ソウジか……。」
男は感心したような顔でバインダーに何やら書き込んでいる。開始前から講習は始まっていると考えたのはやはり正しかったようだ。
結局、クエスト掲示板前の戦場が収まったのは集合時間から四十分ほど過ぎたころだった。
初心者講習の開始時間をこの時間と被る様にしているのはワザとだと思う。クエスト掲示板前の戦場を見させることで冒険者の厳しさを垣間見させる作戦と言ったところだろうか?
講習を受ける為に集まったのは僕を含めて全部で五人だ。
初心者講習の一日目は冒険者としての基本的な事柄、ギルド内での私闘禁止とか。冒険者間の詐欺行為禁止とかだ。
特に詐欺行為、当然報酬を偽って仲間に少ししか渡さないと言う事や受けたクエストを偽り危険な目に合わせる、と言った事が例を挙げて説明された。
これらの場合、冒険者資格の大幅降格、場合によっては資格はく奪(降格の際、Fランク以下に落ちた場合)となる。
他はクエストの受け方、クエストの報告、依頼品の納入、取集物の解体、買い取りなど、ギルドの受付に関することの説明だった。
驚いたことにフリューゲルの初代国王が冒険者だったという事だ。フリューゲルで冒険者がそれなりの地位についているのはその影響もあるのだろう。
ここまでは僕にとっては楽な内容だった。実際一般的な異世界転生者に出てくる冒険者ギルドとそう変わりはない。
そして次の日、模擬戦による実践訓練。
ギルドに併設されている修練場(酒場の裏側にある)での模擬戦だった。
剣道や柔道は学校の体育の授業で習っているが、あれは実践に即した物とはいいがたい。
案の定、僕は教官に手も足も出なかった。いや教官にと言うのは正確ではない。同じ様に講習を受けた誰にも勝つことは出来なかった。
そもそも、剣道を習ったことがある方と言って剣を取ったのが間違いだったのだ。しかも結構長めの剣だ。
他の冒険者見習いのほとんどが槍で持っていても短剣だった。
よく槍は突くだけの武器で突きを躱して懐に入れば槍の方は何もできないと言う人がいる。
はっきり言うとそれは大間違いだった。
槍の突きを躱して懐に入ろうとした瞬間、槍で踏み出した足を薙ぎ払われた。当然僕は派手に転び隙を晒す。そこに槍の突きが入り模擬戦に敗北した。
相手が教官だったらよかったのだが、相手は僕よりも小さな女の子だった。その後も同じ様に講習を受ける冒険者見習いに翻弄された。
中には砂で目つぶしを行う者もいた。卑怯と思うかもしれないが、これも立派な戦闘行為だ。冒険者にとってどんな状況でも生き残ることが大事なのだそうだ。
模擬戦による実践訓練は次の日も続けられた。
流石に初日の様に剣を手に取ってはいない。剣より少し長い程度の槍と盾を使い模擬戦を行った。
結局、勝つことは出来なかったが盾の扱いに慣れていた為か(銀の盾のおかげだろう)無残に負けることは無かった。
翌日は魔法についての模擬戦。
魔法を使える者はそれを使った訓練だが使えない者は魔法使い相手の訓練となる。魔法使いには隙が多く、魔法使いを守る盾がいなければ対処しやすい。
一通り魔法使い相手の訓練が終わったら、次は魔法使いを守る訓練だ。
やはり魔法使いの一撃は戦士の攻撃を上回る物が多く、いかに魔法使いを守るかが重要になって来る。この訓練の場合、癒し手も護衛対象になる。
魔法使い一人、癒し手、斥候、戦士、盾?の組み合わせだ。盾?と言うのが僕の位置だ。
対して教官は一人。これがまたえげつなく強い。ご多分に漏れず槍を使っている。
槍の攻撃は打撃、薙ぎ払い、突撃の三つの攻撃が可能だ。教官の槍の打撃で僕の盾が叩き割られ薙ぎ払われて吹き飛ばされる。
素早く切り込まれ斥候や癒し手を突き刺されあっさり敗北する。
最初の打撃は銀の盾で弾くことが出来るがその次の薙ぎ払いで確実に吹き飛ばされる。明らかに技量が足りない。
それが判っただけでも大きな収穫だろう。
模擬戦の次の日は薬草採集の実習。必要な薬草の見分け方と採集の方法だ。
この採集の方法が厄介で薬草ごとに取り方が異なるのだ。間違った取り方をすれば薬効成分が著しく落ちる。
これに関しては可も無く不可もなく。平凡な成績だった。
そして最終日は近くの森への魔物退治、いわゆる討伐実習である。
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